異世界勇者は現世の魔王

すずろ

9,よう、元気だったか

「ただまー」
「おかえり、ケンジっ!」


つか、今回ゲートに吸い込まれる時、誰かに見られてるような気がしたが気のせいか。


「どうだった? マフィアとかってのは」


アンヌに現世での出来事を話す。


「大変そうね……あたしも付いていってあげよっか?」
「てか行きたいだけだろ」


アンヌをアイテムボックスに入れたら連れていけるのかな?
いつか俺の世界も見せてやりたい。
こんな美人な彼女を連れてたら自慢だろうな。
あのじいちゃんのことだから世界を救えたら褒美に孫をあげるとか言いそうだし。
戸籍とか魔法でうまいことできたら現世で一緒に暮らせたりして。


「ふふ。とりあえず魔王復活の阻止だな。こっちの仕事を今日中に終わらせられたら連れてってやるよ」
「ほんと!? やったあ!!」
「ああ。とりま危ないから今日はここで待っててくれ」


こうして俺は幻影山へと向かった。
徒歩2時間のところだが空中浮遊魔法で飛んで行くので、ものの10分で山頂が見えてくる。


ちなみにハルファーは現世へ置いてきた。
図書室で本を見張らせるためだ。
誰かが手に取ろうとしたら、精神干渉で追い払ってくれと。




幻影山到着。
山頂には大きな魔法陣と中央に祭壇。
脇で怪しい呪文を唱えている魔族らしき爺さん。
爺さんを守るように見張っている男。
あれが四天王の残り二人だろな。


「なんだお前らは!!」


見張り役の男に見つかった俺。
いっちょやりますか。


「……エクスプロージョン!」


思う存分の爆弾をお見舞いしてやるぜ。
幸い回りには何もない、山のてっぺんだしな。


俺の杖の先に出現した小さな赤黒い球体が、ビキビキと唸りをあげている。
そこへ魔族の男が手のひらをこちらに向けた。


「……ブラインドアウト!」


すると俺の体に黒い蛇のようなものが巻き付いてきたと思うと、視界が真っ暗になる。


「くそっ、なんだよこれ!!」


やばい。
エクスプロージョンをどこに撃てばいいのか判らなくなった。


「……魔王転生!」


敵の呪文が聴こえる。
すると何やら邪悪な気配がどんどん膨らんでいく感じがした。
仙人だけに察知する能力には長けているのか。
てか、魔王復活しちまったんじゃねーのか!?


俺は声を頼りにエクスプロージョンを放つ。


「ぐあああああ!!!」


敵の叫び声。
当たったか。
少しずつ晴れていく視界。
だがうっすらと見えるのは、灰になった山頂と2体の魔族らしき死骸。


「やったのか……?」


その時、急に背後から斬りかかってくる気配に気付く。
木の杖でガキイイインと弾く俺。
もう一体いたのか?


「お前も殺してやる!!」


まだぼやけた視界の中、反撃する。
しかし敵も俺の攻撃を弾きやがった。
おいおい、ニセ魔王をも破裂させた攻撃力のはずだぞ。
相手もなんて強さなんだよ。


目を細め、敵の姿を捉える。


「え……お前……」


「……あなたが魔王だったんですか」


そこにいたのは日高だった。


「は? てか図書委員がなんでここに?」
「図書室であなたが突然消えたのを見て、私もあの本から」
「なるほど……って、何してんだハルファーのやつ!」
「勇者として魔王を倒してきてくれって言われてきたんです。そのハルファーくんに」
「あのガキ裏切ったな! とにかく俺は魔王ではない! 勇者だ!」
「嘘ですよね。だってテレビで見ましたよ」


しまった、現世でマオーとして俺の似顔絵が広まってんだった。


「それに魔王はこの山から復活したって言ってました」
「だから俺はその復活を阻止するためにだな――」


いや、待てよ……
エクスプロージョンで四天王はやっつけたようだが、いまだにこの膨らんでいく禍々しい気配はなんだ。
敵のやつ、【魔王転生】には成功したようだが、四天王の肉体に入ったわけではなかったのか?
この邪悪な気はどこから出ている?
見渡してみても魔王の死体などない。


もしかして、魔王はもう新たな肉体へ転生しているのか……?
新たな肉体…………………… 日高しかいねーじゃねーか!


「覚悟してください!」
「待て、一旦落ち着け」


防御結界を張り、中であぐらを組む俺。
魔王はお前だっつーの。
まだ魔王の自覚が無いのか、本能的に勇者である俺を襲ってるのか。


なんでこんなになっちまったんだ。


俺はといえば現世の爆弾犯容疑者にして異世界の魔王疑惑。


全てを払拭する手段を考えねば。
仙人ケンジ。
俺ならできるはず。



ポクポクポクポク……



「決めた」



そして俺は行動開始した。
まず、魔王が体内に入ったと思われる日高を、防御結界に閉じ込めた。


「ちょっと! なにをするのですか」


その上でアイテムボックスの中に放り込んだ。
これで俺達の帰還時間が来て、現世に戻ったとしても暴れられないだろうから。
さらに1日経ってから異世界で取り出してみて、魔王になってなかったら良し、なっていたら……
殺るしかない。



その後、時間が来て俺は現世へと戻された。
図書室。
そこにはハルファーが待っていた。


「あー、やっぱ魔王さまのほうが強かったかー」


のんきに笑っている裏切り者ハルファー。
それが頭にきた俺は、ハルファーを思い切り蹴り飛ばした。


「がはっ」


緑色の血を吐くハルファー。
所詮は魔族。
人間と同類に見ていた俺がバカだった。


「転移」


俺は転移魔法をハルファーに向けて唱えた。
ブシュッという音とともに、ハルファーの右腕が千切れて無くなる。


「ま、魔王さま……! いたいよ……!」
「殺されたくなかったら俺の言うことを聞くか?」
「……はい! なんでもしますから! 助けて!!」


「……よし、じゃあ付いてこい」


こうして俺は、ハルファーを連れて日本の官僚、世界のトップエリートと呼ばれる者たちの場所を瞑想で掴み、転移して回った。
俺こそ正義であること、俺の言うことには絶対服従することなどを、ハルファーの力をもって脳に植え付けた。
そのハルファーもアイテムボックスの奥底へと封印してやった。
これで万事解決だ。
マスコミにも圧力をかけられる。
もう追われることもない。
むしろ全てが思い通りに動く。
もはや仙人の域を超え、神だ。
アンヌの言ってた通り神になった。

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