やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

コトネのために①

 帰り道。

 人通りのない、薄暗い歩道を、僕とコトネは無言で歩いていた。

 等間隔で設置された街灯が、気持ちばかりの輝きを発している。周囲の民家はほとんど就寝についたらしく、光源と呼べるものがあまりに少ない。そんなほの暗い街道を二人きりで歩くのが、なんとなく情緒的に感じられた。

 ――大魔神ともあろう者が、こんな訳のわからない感情を持ってしまうなんてね……

 本当に、らしくない。
 つい最近までは、なにをするのも億劫で、神殿から出るのも嫌だったのに。

 そんな僕が良くも悪くも《変わった》のは、間違いなく、この女の子の影響だろう。

 そんなことを考えながら隣を見る。
 銀髪の少女はなにをするでもなく、ずっと俯いていた。まわりが暗いのも相俟あいまって、かなり陰鬱いんうつな表情に見える。瞳には生気がなく、顔には色がない。

「……どうしたんだい、さっきから」 

 そう聞かずにはいられなかった。
 思えば、シュンたちとの話し合いから元気がなかったような気がする。 

 まあ、僕が他人の――特に女の子の――感情を察知できないのはいまに始まったことではないが……

「ねえ、私、エルくんの隣にいてもいいのかな……?」 

「…………え?」 

 あまりに予想外な言葉に、情けなくも素っ頓狂な声を発してしまう。

「だって……私、どう見ても場違いじゃない。シュンさんにロニンさん……ルハネスさんにナイゼル、創造神も……みんな凄いヒトたちだった。もちろん――エルくんも」

「あ……」

「私なんて、そこらにいる一般人と同じだからさ。あなたたちの凄さに、ついていけなくて……」

「そんなことないさ。コトネがいるから僕は頑張れる。君はいままで通り――」

「それが嫌なの!」
 コトネは一転して大声を発した。
「ずっと守ってもらうなんて……そんなの嫌! 十年前だって、私のせいで……!」

 ――劣等感。
 ふいにそんな言葉が浮かんだ。

 たしかに先の話し合いでは、コトネはほとんど言葉を発さなかった。

 それは彼女が弁えていたからだろう。自分が出しゃばっても何の意味もないと……強い劣等感を覚えてしまったのかもしれない。

「はは……」
 僕は思わず自嘲の笑みを浮かべた。
「ほんと、僕は失格だね。他人の感情がここまでわからないなんて……」

「え……?」

「コトネ。前にも言ったけど、僕は君がいるから頑張れるんだ。――君がこの世からいなくなったら、もう死んだも同然でね。だから……いなくなるとか言わないでくれ」

 コトネの瞳が一瞬だけ揺らいだ。

「で、でも、私がいたら絶対に足手まといに……!」

「そうだね。ちょっと心許ないかな」
 僕は歩みを止め、にっこりと微笑んでみせた。
「――だから強くなりにいこう。十秒でワイズと同じくらいには強くなれるよ」

「え……?」

 ★

「来い、古代竜――リュザーク!」

 僕が召還魔法を使用したのと同時に、目前の地面に幾何学紋様が発生した。

 それは新緑の輝きを発し、光柱を空へと昇らせ――その光が薄れたときには、見るも懐かしい姿を晒し出していた。

 古代竜リュザーク――僕が目覚めて初めてぶっ倒した魔物である。

 そういえば、こいつが《盟主》と呼んでいた人物のこともまだ判明していない。近いうち、創造神に聞いてみる必要があるだろう。

「エ、エル様! 久しぶりに私を呼んで……って、せまっ!」

 リュザークは困った顔で身を縮めた。

「……そりゃそうでしょ。街路のド真ん中なんだから」

「な、なんでこんなところに私めを呼んだのですか! 絶対、大騒ぎに……」

「いいよ。眠らせるから。――ほれ」

「ぎゃふん」

 僕は右腕を突き出し、騒ぎを聞きつけてきた壮年の魔物を眠らせた。明日には古代竜の姿さえ忘れているだろう。

「リュザーク。僕たちを《リトナ山脈》へ連れていってくれ」

「リトナ山脈……古の魔女が眠るという、あそこですか。それは構いませんが――いったい、どうしてまた?」

「その魔女に用があるんだよ。さ、早くしないと殺すよ?」



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