やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

大演説

「な、なにを言ってるの……!」
 コトネが悲痛さを滲ませた声で言った。
「勝てるわけないじゃないの……この状況で……人間軍に……」 

 僕もまったく同意だった。 
 魔物界で《最強》だった魔王ワイズが姿を消したこともそうだが、そもそも、魔物は十年前に比べて圧倒的に弱体化している。

 現に、ニルヴァ市の魔物たちは人間たちに完全に恐れおののいていた。
 彼我ひがの実力差は明らかなはず。
 なのに……ナイゼルの宣戦布告に対し、先制攻撃を仕掛けると、ルハネスは堂々と宣言せしめたのだ。

 と。
 そんな疑問に答えるかのように、ルハネスの重く低い声が響き渡った。

《諸君はいま、疑問に思っていることだろう。果たして勝てるのか――と。結論から言おう。可能である!》

 ルハネスの声に笑みが滲んだ。

《諸君は覚えているだろう。大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼによる、前代魔王への宣戦布告を。そう、我らにはかの大魔神がついておるのだ!》

「なっ……」

 僕はまたもや目を見開いた。
 こいつ、僕を当てにしているのか。

 いや、違う。
 この堂々たる振る舞いっぷり、ルハネスはわかっているのだ。コトネを守るためならば、僕も戦争に参加せざるをえなくなることを。

 僕のあの宣戦布告は、コトネを守るための言わば《脅し》であったわけだが、それを利用してきたわけだ。

《諸君にも思い出してもらいたい。十年前――我らが人間より優勢であった時代を。そう、我らがその気になりさえすれば、人間軍を殲滅せしめるくらい容易なのである!》

 ルハネスの発する語句ひとつひとつには、例えようもないほどの重厚さがあった。静聴する者がなんとなく引き込まれ、取り入られるような――そんな不思議な圧力がある。

 実際にも、喫茶店にいるすべての客、そして店員までもが、すっかり黙りこみ、ルハネスの演説に耳を傾けている。

 ただ者じゃないな……と僕は思った。
 僕を政治利用したことといい、この大胆さといい――思った以上の大物だ。アリオスと同様、なかには骨のある魔物もいるということだ。あの気取ったような息子からは想像もできない父親像だが。

《怖じ気づく必要はない! 現在を堂々と生きよ! 魔物界は今後も繁栄の一途を辿る! この私が約束しよう! 諸君はこのまま人間に虐げられていいのか!》 

 おおおおおおお! とどこかで歓声があがった。

《いまこそ我ら魔物界が一丸となる時である! みずから勝利を勝ち取りにいこう! 決して不利な戦争ではないことを改めて強調し、私の演説を終了させていただく! 聞いてくれた国民諸子には、感謝を申し上げよう》

 そのセリフを皮切りに、ルハネスの渋みがかった声はすっかり聞こえなくなった。

 やがて、ざわざわ――と、周囲の魔物たちが囁き始める。

「儂の言った通りであろう! アルゼイド卿がなんとかしてくれる。あの方は肝の据わった御仁だ」

「あ、ああ……そのようだな」

 さっきまで口論を繰り広げていた貴族も、いまの高説にすっかり熱を冷ましたらしい。さっきまでの興奮っぷりはどこへやら、静かに食事を再開した。

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