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やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

決戦―1

「なるほど、異空間を作り上げたのか。まったく大魔神らしい、常識はずれな力だよ」

 なおも魔王ワイズは余裕な態度を崩さなかった。興味津々にあたりを見渡しながら、ときおり奇妙な笑い声をあげている。

 ――妙だな。

 彼我ひがの実力差は魔王だってわかっているはず。
 しかも、俺の許可がなければ第三者が異空間に来ることはできない。これは正真正銘のサシ、一対一なのだ。

 なのにあいつの余裕……
 いったいどういうことだ……? 

 俺のそんな疑念に応えるかのように、魔王は懐から小袋を取り出した。目を凝らすと、赤い錠剤が大量に入っているのが見える。

 薬?

 俺が戸惑っている間に、魔王はその袋の中身を一気に呑み込んだ。水もなにもない。何十錠もの薬物を、貪るように噛み砕く。

 呑み損ねた薬の破片をまき散らしながら、魔王は途切れ途切れに声を発した。 

「おお……素晴ら……しい。この世の……この世界の悪が正されていく……」

 精神安定剤。
 脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

 俺に無謀な喧嘩をふっかけてきたのも、多くの女性を誘拐し続けてきたのも、まさかこの薬に乗って……

「そこまで堕ちたか、魔王ワイズ!」

 俺は気づかぬうちに大声を張り上げていた。 

 魔物を仕切るはずの魔王が薬に頼り……あろうことか、自国民を傷つけているとは。笑い話にもならない。

「フフ……貴様にはわかるまい! 世界はもう取り返しのつかぬ段階まで来てしまった! こうでもしないと……わしは!」 

「ちっ……!」

 薬物の効果なのか、魔王の魔力が飛躍的に高まっていく。もはや古代竜リュザークごときでは勝負にならないだろう。 

「ハアアアアアア!」

 魔王が両腕を天空に掲げ、一際でかい声を発した。
 突如。
 魔王の全身が紫色の光柱に包まれた。禍々しい魔力の胎動たいどうを感じる。魔王の呑み込んだ薬物は、事ここに至っても魔力の膨張を続けていた。 

「ウオオオオオオオ!」

 魔王の雄叫びと同時に、紫の光柱が薄れ、周囲に散っていく。
 そうして再び姿を現した魔王は、もはや俺の知る魔王ワイズではなかった。 

 ――骸骨竜がいこつりゅう

 一言で表現すればそんな言葉が適切だろう。

 頭部と思わしき部分には、巨大な眼窩がんかと、獰猛な顎。あの口に呑み込まれたが最期、一般の魔物では生きて帰れないだろう。

「グオオオオオオッ!」 

 骸骨竜は四つん這いの姿勢になると、両の翼を大きく広げ、はためかせた。それだけで暴風が舞う。ここが魔王の私室であれば、宝石類がすべて吹き飛んでいっただろう。

「グフフ……」
 野太さを増した魔王の声が、僕の耳朶じだを刺激する。
「どうだ! これが儂の真の姿! いくら大魔神とて、これには驚かざるをえまい!」

「……ああ。たしかに驚きはしたが」

 所詮、神の領域に届かない俗物の魔力である。
 俺はふうと息を吐くと、顔の前で人差し指を立ててみせた。

「ひとつだけ、わかったことがある。これがおまえの限界ということは……ステータスというシステムを作成したのは、おまえじゃないな?」

「ム……」

 図星を突かれたのか、骸骨竜は押し黙った。

 魔王はたしかに強いが、それは一般人の世界でしかない。ステータスという、いわば世界の管理者のごときシステムを作りあげるのは不可能だ。

 まさに俺のような……神の力を持つ者でなければ。

 ――やはりそうだ。

 魔王を倒したからといって、すべてが丸く収まるわけではなさそうである。

 だが、いまは……
 俺は骸骨竜に向け、ひょいひょいと手招きしてみせた。

「来い。相手してやるよ」

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