やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~
彼女の決意
「え……!?」
さすがに驚きを禁じえなかった。
アリオスといえば、凄腕の剣士であり、色々な実績を上げているんじゃなかったのか。なのに、こんなに早くクビを斬られるとは。
「もしかしなくても……この事件が関係あるのかい?」
「そうだろうな。誘拐事件の調査帰りに、いきなり通達された」
「…………」
僕はなにも言えなかった。
そもそもアリオスは誘拐事件の調査のために城下町に派遣されたはずだ。なのに、その命令に従っただけで排除された……
そして、そのアリオスがいない間にニルヴァ市が襲撃された……
やはり妙だ。なにかが動いている。
「な、なんで……」
声を発したのは女子生徒だった。
「事件のことをまともに調べてくれてるのはアリオス様だけだったのに……アリオス様がいなくなったら……」
「すまない……。俺の力不足だったようだ」
申し訳なさそうに言うと、アリオスは悔やむように目を閉じた。
彼は彼なりに事件を追ってきた。
クビになったことはもちろん、その捜査を途中で断念せざるをえないことも残念なのだろう。
おそらく。
この城下町において、犯人を捕らえられる者はひとりもいない。
そうと気づいた犯人は、間違いなく犯行をエスカレートさせるだろう……
「私、もう……我慢できない!」
ふと、コトネがいきり立ったように大声を発した。
「エルくん、私が《囮》になるから……犯人を現行で捕まえて!」
「なっ……」
またしても思いがけない発言だった。
囮になる……すなわち、あえて敵に捕まることで、犯人の尻尾を出すつもりということだ。
「だ、駄目に決まってるだろう!? どう考えても危ないじゃないか!」
「わかってる。わかってるけど……、私、もう我慢できないの。このままだと、多くの魔物が……あの苦しみを……!」
そこでコトネは両目をぎゅっと閉じ、なにかを思い出したかのように表情を歪ませた。
そう。
たしかコトネは過去において男に襲われかけた。
そんな彼女だからこそわかるのだろう。被害者の辛さと苦しみとが。
そんな僕の考えが通じたのか、コトネはふいに僕と目を合わせると、ゆっくり首を横に振った。
「もちろんそれもあるよ。でも……それだけじゃない。この事件は《残されたほう》だって苦しいよ。大切なヒトが、いつ帰ってくるかもわからない……そんなの、苦しすぎるよ」
「あ……」
思わず僕はかすれ声を発した。
「ふふ。強い娘だな」
アリオスが苦笑いを浮かべる。
「笑い事じゃないよ、まったく」
僕はふうと息をつくと、まっすぐにコトネを見据えた。
「……覚悟は固いみたいだね?」
「うん。私はエルくんみたいに強くないから……私なりに、できることをしたい」
「そっか……」
たしかにコトネの瞳には微塵の迷いもない。
仮にコトネの囮がうまく成功すれば、一気に事件解決に結びつくだろう。解雇に追い込まれたアリオスも報われるというものだ。
それに。
「もし、危ないと判断したら問答無用で止めるよ。それでいいかな?」
僕は大魔神だ。
犯人さえわかれば、あとは瞬殺してしまえばいい。
「……うん。エルくんがいるから、私も覚悟を決められたし」
「まったく……君という女は……」
相変わらずだ。
自分の身よりも、他人の安全を優先するところは。
けれど、彼女のそんな部分に惹かれたのも事実である。
「……わかった。その作戦に乗ろう。ただしコトネ、君も危ないと思ったらすぐに退却するんだよ?」
「うん。わかってる」
僕の想い人はしっかり頷いた。
「……どうやら話がまとまったようだな」
アリオスは苦笑いを引っ込め、いつもの真剣きわまる表情で言った。
「ならば、俺も手を貸そう。もう警備隊ではないが、魔物を守る気持ちは潰えていない」
「そうか……ま、助かるよ」
彼ほどの達人ならば、足手まといになることはあるまい。
「よ……よくわからないが、犯人を捕まえてくれるのか?」
取り残された男子生徒が目を丸くして言う。
「うん。期待して待っててよ」
「お願いします。でも、どうか無理をなさらないで」
女子生徒も深々と頭を下げた。
さすがに驚きを禁じえなかった。
アリオスといえば、凄腕の剣士であり、色々な実績を上げているんじゃなかったのか。なのに、こんなに早くクビを斬られるとは。
「もしかしなくても……この事件が関係あるのかい?」
「そうだろうな。誘拐事件の調査帰りに、いきなり通達された」
「…………」
僕はなにも言えなかった。
そもそもアリオスは誘拐事件の調査のために城下町に派遣されたはずだ。なのに、その命令に従っただけで排除された……
そして、そのアリオスがいない間にニルヴァ市が襲撃された……
やはり妙だ。なにかが動いている。
「な、なんで……」
声を発したのは女子生徒だった。
「事件のことをまともに調べてくれてるのはアリオス様だけだったのに……アリオス様がいなくなったら……」
「すまない……。俺の力不足だったようだ」
申し訳なさそうに言うと、アリオスは悔やむように目を閉じた。
彼は彼なりに事件を追ってきた。
クビになったことはもちろん、その捜査を途中で断念せざるをえないことも残念なのだろう。
おそらく。
この城下町において、犯人を捕らえられる者はひとりもいない。
そうと気づいた犯人は、間違いなく犯行をエスカレートさせるだろう……
「私、もう……我慢できない!」
ふと、コトネがいきり立ったように大声を発した。
「エルくん、私が《囮》になるから……犯人を現行で捕まえて!」
「なっ……」
またしても思いがけない発言だった。
囮になる……すなわち、あえて敵に捕まることで、犯人の尻尾を出すつもりということだ。
「だ、駄目に決まってるだろう!? どう考えても危ないじゃないか!」
「わかってる。わかってるけど……、私、もう我慢できないの。このままだと、多くの魔物が……あの苦しみを……!」
そこでコトネは両目をぎゅっと閉じ、なにかを思い出したかのように表情を歪ませた。
そう。
たしかコトネは過去において男に襲われかけた。
そんな彼女だからこそわかるのだろう。被害者の辛さと苦しみとが。
そんな僕の考えが通じたのか、コトネはふいに僕と目を合わせると、ゆっくり首を横に振った。
「もちろんそれもあるよ。でも……それだけじゃない。この事件は《残されたほう》だって苦しいよ。大切なヒトが、いつ帰ってくるかもわからない……そんなの、苦しすぎるよ」
「あ……」
思わず僕はかすれ声を発した。
「ふふ。強い娘だな」
アリオスが苦笑いを浮かべる。
「笑い事じゃないよ、まったく」
僕はふうと息をつくと、まっすぐにコトネを見据えた。
「……覚悟は固いみたいだね?」
「うん。私はエルくんみたいに強くないから……私なりに、できることをしたい」
「そっか……」
たしかにコトネの瞳には微塵の迷いもない。
仮にコトネの囮がうまく成功すれば、一気に事件解決に結びつくだろう。解雇に追い込まれたアリオスも報われるというものだ。
それに。
「もし、危ないと判断したら問答無用で止めるよ。それでいいかな?」
僕は大魔神だ。
犯人さえわかれば、あとは瞬殺してしまえばいい。
「……うん。エルくんがいるから、私も覚悟を決められたし」
「まったく……君という女は……」
相変わらずだ。
自分の身よりも、他人の安全を優先するところは。
けれど、彼女のそんな部分に惹かれたのも事実である。
「……わかった。その作戦に乗ろう。ただしコトネ、君も危ないと思ったらすぐに退却するんだよ?」
「うん。わかってる」
僕の想い人はしっかり頷いた。
「……どうやら話がまとまったようだな」
アリオスは苦笑いを引っ込め、いつもの真剣きわまる表情で言った。
「ならば、俺も手を貸そう。もう警備隊ではないが、魔物を守る気持ちは潰えていない」
「そうか……ま、助かるよ」
彼ほどの達人ならば、足手まといになることはあるまい。
「よ……よくわからないが、犯人を捕まえてくれるのか?」
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「うん。期待して待っててよ」
「お願いします。でも、どうか無理をなさらないで」
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