やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

ステータスが全部99999だったけど、これはすごいことらしい

 おぎゃーと永遠に泣き続ける男。
 無言で屈伸をし続ける男。

 彼らに困惑の表情を浮かべながら、女の子が
「あ、あの」
 と話しかけてきた。

「助けてくれてありがとうございます。あ、あの、なんとお礼を言ったらいいか……」

「気にしなくていいよ。結果的に助けただけだし」

 僕は片手を女の子に差し出した。少女はやはり困惑していたようだが、数秒後、僕の手を取って立ち上がった。

「でも、君だって魔物だろう? いくら小さいとは言っても、ちゃんと闘えば人間なんかに負けはしないんじゃない?」

「え、そんな、無理です!」

 女の子は両手をぶんぶん振る。

「このヒトたち、相当強かったです。お母さんもお姉ちゃんも、あのヒトたちにやられて、それで……」

「…………」

 少なからぬ衝撃を受け、僕はあんぐり口を開いた。

 ――あんなのが、強いだって?
 いまの男たちくらい、一般の魔物なら軽く蹴散らせるはずだ。
 たいした戦闘力も感じられなかったし、子どもでも負けはしないはずである。

 なのに……
 ――考えられる可能性はひとつだ。

 魔物の大幅な弱体化。
 僕が封印されている間に、世界の常識が変わっている……?

 そして、その推測をさらに決定づける発言が、女の子の口から発せられた。

「お兄様……お強いですね。ステータスはいくつですか?」

「ス、ステータス……?」
 聞き慣れない言葉だった。
「ごめん。なんのことだかわからないや。僕にもわかるように、一から説明してくれないかい?」

「え? あ、はい……」

 少女はまたも戸惑ったように目を瞬かせる。なぜこんなことも知らないのか――とでも言いたげだったが、女の子は親切にも説明を始めてくれた。

「その……一言でいえば、その魔物の強さを数値で表したものです。数値が高ければ高いほど、その魔物は強い……ということになります」

 女の子いわく。
 ステータスには、以下の七項目があるらしい。


 HP……その人の生命の残量。なくなると死ぬ。
 MP……その人の活力。なくなると魔法が使用できない。

 STR……物理攻撃力。 
 DEF……物理防御力。
 ATS……魔法攻撃力。
 ADF……魔法防御力
 SPD……スピード。

 ちなみに、女の子のステータスはすべて50前後に留まっているらしい。

 また、自分のステータスは「ステータス・オープン」と唱えることで、自身の視界に浮かび上がってくるようだ。
 さらに裏技として、「ステータス・オープン・シェア」と唱えることにより、他人にも自分のステータスを見せることができるらしい。

「……と、簡単ですけど、これがステータスについての説明です。……あの、わかりましたか?」

「…………」

 わかる。少女の説明はこの上なくわかりやすかった。

 けれど。
 ――納得できない。

 僕が記憶を失う前は、こんなシステムは存在していなかったはずだ。
 これじゃ、これじゃまるで……

 誰かに、管理されてるみたいじゃないか――

 魔物の弱体化についてもそうだ。
 僕が封印されている間に、なにか不穏なことが起きたとしか思えない。

 でも、いったい誰が、なんのために……
 そんな僕の考察は、次の少女の言葉によって遮られた。

「あの……もしよろしければ、見せていただけませんか? あなたのステータス……」

「あ、ああ……」

 別に見られたところで困るものでもあるまい。
 僕は記憶をたぐり寄せながら、さっき教えてもらった呪文を唱えた。

「えっと、ステータス・オープン・シェア」
 すると、僕の視界右上に、黒い文字が浮かび上がる。


《 大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ

 HP……99999/99999
 MP……99999/99999

 STR……99999 
 DEF……99999
 ATS……99999
 ADF……99999
 SPD……99999   》



「す、すごい……」
 女の子が絶句したように口をパクパクさせる。
「数字が全部99999……。しかも、大魔神って……」

 次の瞬間、僕は女の子に両手を握られていた。輝かしい瞳で見つめられる。

「すごい! お兄さんは私たちは救世主です! よかったぁ……本当に」

 台詞の後半は涙混じりだった。
 僕が現れたことが本当に嬉しいらしい。理由までは不明だが。

 苦手だった。こんな視線が。過度に期待されるということが。
 僕は記憶を失う前、他者と関わることが全然なかった。
 苦手なのだ。他人そのものが。

 僕はさっと少女から手を離すと、代わりに小さい声で訊ねた。

「……とりあえず、道案内をしてもらえるかな? 早くここから出たいんだ」

 確かめなくてはならない。
 いったい《世界》になにが起きているのか。
 そして、僕が何者であるかを。

 少女はすこし残念そうに頷くと、素直に出口まで案内してくれた。


コメント

  • にせまんじゅう

    ヒロイン(?)来たぁー(≧∇≦)

    0
  • おたけT

    でっかい赤ん坊に無言屈伸男、すごい光景だなw

    0
  • 蘆屋紫黒

    お兄さんは私達の救世主ですじゃない?

    0
  • ノベルバユーザー168547

    記憶あるやん…

    3
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