闇の王

雪桜 尚

格の違いと配下の契約

「それじゃあ、始めようか」

俺と七つの大罪の面々は、魔王城の庭で、早退していた。
俺は、別に殺気立っているわけじゃないのだが、七つの大罪の面々はものすごく警戒している。
ちょっと前までただの高校生だったのに……傷つくな。

「ルールは、殺したら負け。勝利条件は、相手を戦闘不能にするか、降参させるかのどちらかだ。それでいいか?」
「ああ、構わん」

暴食のベルゼブブが頷く。

「それじゃ、いつでもかかってこい」

プラプラと両手を振って、ストレッチを始める。

「ほら、こいよ。来ないんだったら俺から行くぞ?」

腰を低くして、攻撃態勢をとる。
そして、弾丸のようなスピードで、傲慢のルシファーに突っ込む。

「な、速い!!」

推進力を100パーセント威力に変換した正拳突きを繰り出す。
ルシファーは、大きく飛び退くことで攻撃範囲から逃れようとするが、全く間に合わず鳩尾にクリーンヒットした。

「こいつ、アホだろ」
「ああ、その馬鹿は七つの大罪の中で最も知能がない。まあ実力はたしかなのだ、ぶべら!」
「油断は禁物だぞ?ベルゼブブ」

余裕をかましていたベルゼブブの脳天にかかと落としを決め込む。
勿論、ベルゼブブの意識は刈り取られた。

「みんなぁ〜!ちゃんとフォーメーションとって戦うよぉ〜」

色欲のアスモデウスが指示を飛ばす。

「私とぉ〜レヴィちゃんが後衛ぃ、サタンとぉマモンとぉベルフェはぁ前衛ねぇ?絶対等しちゃダメだよぉ〜」
「「分かった……(おうよ!)」」
「しゃーねぇなぁ、だりいけどやってやるよ」

すぐに指示通り陣形を組めるあたりは、最強の魔族っぽい。
まぁ、俺にはあまり関係のないことだが。

「ふん!!」

サタンがその二メートルを優に超える体躯から、超パワーの一撃を繰り出す。
俺は、左手でそれを受け止める。

「その程度で七つの大罪とは、片腹痛いな!」

右の拳で、鳩尾を狙い撃つ。

「ごはぁ!!」

サタンが宙に舞う。
しかし、意識は失っていないようだ。

「流石魔王、一撃が重い。でも、これでカースが発動できる」

そう言うと、サタンの周りに真紅のオーラが立ち上った。
サタンが腰を落とし、ルシファーを倒した時の俺と同じ姿勢をとる。

「ほう、俺に真っ向から勝負を挑んでくるか。面白い」

俺も、同じ姿勢を取り、迎え撃つ準備をする。

「はぁ!!」
「うおら!!」

互いに地面を強くけり、ちょうど中間で拳が交錯する。
その瞬間、後方から魔法が飛んでくる。さらに、両サイドからも拳が飛んでくる。

「なかなかいい連携だ。十点中八点くらいだな」

確かにいい攻撃だったが、いささかスピードとパワーが足りない。

「影縫・双」

俺の影が二つに分かれ、サイドから殴りかかってきた二人に絡みつく。

「な、なんだこれ!!?」
「み、身動きとれん」

そのままミノムシのようにされて庭に転がされる。

終焉の防壁アビス・シールド

巨大な闇の壁が、二つの魔法を阻む。
アスモデウスの魔法は完璧に防いだが、レヴィアタンの魔法は、防壁にひびが入るほどの威力だった。

「レヴィアタンの魔法はすごい威力だな……危うく突破されるところだったな」
「七つの大罪で総合力で最強はレヴィアタン……」

ずっと思っていたが、サタンの話し方は、ものすごく機嫌が悪そうに聞こえるな。

「さすが……我々を召喚しただけの力はある……」
「そりゃありがとよ」

その言葉とともに二つの拳の均衡が崩れた。
少しづつ少しづつサタンの拳が押されていく。

「なかなか、強かったぞ」

サタンの拳を押し切り体制を崩す。そのまま、足払いでサタンを宙に浮かし、ミノムシのように転がっている二人にぶつける。

「残るはお二人さんだけだな」

俺は奥にいる二人を見据えて告げる。

「うそぉ……サタンが力負けぇ?どれだけ今回の魔王様は強いのよぅ」
「ですですぅ。その力憧れますぅ、羨ましいですぅ。嫉妬ですぅ!」

なかなか癖の強い二人を残してしまった……

砂塵嵐サンドストーム

土魔法で視界をふさぎ、魔法の使用を防ぐ。

「ふえぇ……目に砂が入って痛いですぅ!」
荒れ狂う暴風と稲妻テンペスト!」

レヴィアタンは泣き言を言っていたが、アスモデウスは冷静に魔法で砂を吹き飛ばす。
まさか、ここまで強力な風魔法が使えるとは思はなかった。
しかし、魔法を吹き飛ばすまでの時間で俺は始祖魔法の構築を完了していた。

「これで終わりだな。始祖魔法発動、始まりの神器ホーリー・ビギンズ

空中に巨大な魔方陣が浮かび上がり、その中から一つの武器が現れる。

「聖剣・グランマグナ」

剣からは聖なるオーラがにじみ出ていて、持っているだけでダメージを受けている感覚がある。
それを終焉魔法で闇属性に塗り替える。

「終焉魔装」

聖剣・グランマグナが俺の持っているところから、黒く染まっていく。

「さしづめ、裏聖剣・グランマグナと言ったところか?」

グランマグナは、完全に黒に染まり、禍々しいオーラを漂わせている。

「な、なんですかぁ、その剣はぁ!!」
「ちょっとぉ、さすがにそれは反則でしょぉ」

俺は、グランマグナを上段に構える。

「さ、行くぞ?」

レヴィアタンとアスモデウスが身構える。

「ハァ!!!」

上段から袈裟懸けにグランマグナを振るう。
グランマグナの漆黒の瘴気が、斬撃を成してアスモデウスに迫る。

「ちょ、えぇ……斬撃とぶとかぁ、反則でしょぉ……」
「アスちゃん!!危ない!!!」

アスモデウスの目の前に、巨大な氷の壁が出現する。
しかし、氷の壁はバターを切るがごとく何の抵抗もなく切り分けられ、斬撃がアスモデウスの意識を刈り取る。

「残ったのはレヴィアタンだけだな」
「うぅ、魔王様強いですぅ」

若干逃げ腰になりながらも、しっかりと戦う構えを作るレヴィアタン。

「来て、リヴァイアサン」

レヴィアタンの少し後ろに水色の魔方陣が浮かび上がる。
そして、大量の水とともに巨大な青の龍が姿を現した。

「ほう、モンスターテイムか……」
「リヴァイアサン、やって!」

リヴァイアサンが大きく口を開く。
そして、そこに大量に水が集まり、ボーリング玉ほどの大きさに集約される。
俺は、魔法を発動する。当たっても死なないのは分かっているが、痛いのは嫌なので、全力で防ぐ。

「超水圧レーザーですぅ」
暗き影の邪防壁シールド・オブ・シャドー

影の防壁に、水のレーザーがぶつかる。
若干の抵抗は見せたが、俺の防壁を突き破った。

「マジか!!」

体をひねって躱そうとするも時すでに遅し。
俺の右わき腹の肉をえぐり取っていった。
血があふれだす。あまりの痛みに俺は片膝をついた。

「痛~。まさか破られるとは……」
「エッヘンなのですぅ」

レヴィアタンンはその新調の梁に大きな胸を張る。
そうしているさなかに、俺の傷は完全回復していた。

「さ、傷も治ったことだし、行くよ!!」
「わ、わ、わ、リヴァイアサン、構えて!!」

リヴァイアサンが身構えるもそれは遅すぎた。
俺はリヴァイアサンをグランマグナで滅多切りにして、その意識を手放させる。
そして、サイドステップでレヴィアタンを翻弄しながら後ろを取る。

王手チェックメイトだ」

その首元にグランマグナの鋭利な刃をあてる。

「うぅ、私の負けなのですぅ」
「それじゃ、俺の配下になってくれるってことでいいのかな?」
「はいなのですぅ。七つの大罪を代表して私が宣言するのですぅ。我々七つの大罪は魔王様に服従をするのですぅ」

そして、リヴァイアサンが俺の手を取り、その甲にキスをする。

「な、ちょおま、何してんの?」
「配下の契約ですぅ」

こうして、俺は七つの大罪と配下の契約を完了した。
後でルナに聞いた話だが、七つの大罪と契約した魔王は歴代で二人目で年五百年ぶりのことらしい。





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