異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第147話 「故郷へ」

 
「うー寒い寒い」


 顔に冷気が当たり、目を覚ました。
 窓側の宿命はこれか……。

 既に朝日が昇っていた。

『想像』で小さな火を宙に浮かべようとして思いとどまる。
 白い魔導書を取り出し、『変質』の文字を見ながら魔法陣を描く。

 前夜の特訓のおかげで、何とか魔法陣を宙に描けるようになった。
 仕組みを理解したせいだろうか。

 火の要素に『滞空』の文字を加えて魔法を唱える。
 これで『想像』と同じはずだ。

 出現した火は、狙い通りその場に浮かんだが思ったよりもずっと大きかった。
 熱風が顔を襲う。


「なぁに……? 何これ! あっつ!」


 火に照らされてパームが目を覚ます。
 暖かい目覚めだ。


「パームちゃん! 部屋が暖かくなりますよ!」

「馬鹿アナタ! 天井焦げる! 火事になるって!」


 おっと。
 魔力の注入をやめて火を消す。
 また寒い朝の到来だ。


「アナタねぇ……。
 何も不便な魔法陣を使わなくたって、『想像』があるでしょう」


 パームがリュックの中から小さな赤色の球体を取り出し、魔力を込めると宙に浮く。
 球体からは熱が放たれているようで、部屋がすぐに暖まった。

 サッと着替えを済ませ、新しく毛皮のポンチョを『想像』する。
 赤いポンチョとはさようなら!


「リッカ、グレンが起きてるか見てきて」

「はぁい」


 部屋を出て、すぐ目の前の扉を叩いて開けた。


「グレンさんー? おはようございますー!
 ……寒い!」


 扉を開けると、冷気が流れ出てきた。


「あ、おはようリッカ。
 もう準備は出来た? ご飯食べに行けるかい」

「行けますけど……。
 何でこの部屋はこんなに寒いんですか」

「さっきまで氷があったからだね」


 グレンの指さした先には、床が少し湿っているところがあった。
 私が昨日、届けた氷を置いた所だ。


「窓から捨てれば良かったのに……」

「暗くて窓下の様子が分からなくてね。
 でも、おかげさまで唇が引き締まったよ」


 グレンがニンマリと歯を出さずに笑った


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 パームが最後の一切れ、骸獣スカルビーストの肉を食べ終わる。
 お気に召したようだ。


「これからの予定だけど、北門を出て北上する。
 パトスの中継所ではなく、森村『セイラ』を経由したいんだけどいいかな」


 地理がさっぱりな私にとってはどうでも良い情報だが、パームが疑問の声を上げた。


「セイラに行くのは遠回りよ。
 パトスの中継所を目指せば、今夜にでも着くわ。物資もたくさんあるはず」


 セイラがどんな村なのか分からないが、私も物資がある所のほうが安心はする。


「どうしてグレンさんは、その村に行きたいんですか?」


 グレンが少し、歯切れが悪そうに答えた。


「母上の……故郷なんだ」

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