異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第144話 「変質」

 
「まずは火の魔法からいきましょう。
 先ずは『型』から書いて……基本的な円の魔法陣でいきましょう」


 手取り足取り教えてもらいながら魔法陣を完成させる。
 中央に火の『要素』。円の『型』に沿って『加速』の文字を描いた単純な魔法だ。
 ただ、単純ながら文字数が多い。手書きで本に書き込んだため、それなりの時間がかかった。


「これで完成ですか?
 ブワーって攻撃できるんですか?」

「これだけじゃ火が出現するだけなのよ。
 他にも『変質』って文字があって、それを加えて初めて完成と言えるわ」

「えー、まだ覚えないといけないんですか!」

「当たり前よ。これっぽちで魔法を扱えたらみんな魔法使いになってるわよ。
 とりあえず、基本の魔法陣、全部描いてって」


 渋々ペンを手に取り、白紙のページに書き込んでいく。
 幸い、馬車に掛けられている魔法のおかげで振動が少ない。
 贅沢にページを使って、4つそれぞれの『要素』を使った基本の魔法陣を描いた。


「そういえばパームちゃん、『風』の魔法ってどんな感じなんですか?」

「風は補助に用いられることが多いわ。
 骸獣スカルビーストの時に使った身体強化魔法は風の系統ね。
 攻撃に使えばこんな感じよ」


 パームが馬車の窓を開け、魔法陣を描く。
『型』は円の中に四角形が入っている複合形。よく見ると風の要素が二つ入っている。


「とりあえず簡単な『変質』を教えておくと、この文字が『圧縮』で、こっちが『射出』よ。
 『射出』は頻繁に使うから覚えるように」


 パームが魔法陣に触れ、魔力を流し込む。
 魔法陣が輝くと、目の前の空間が『く』の形に歪んだ。


「これが『圧縮』で、最後に『射出』に魔力を注ぐと……」


 パームが『射出』の文字に触れると、『く』が勢いよく放たれた。
 街道脇の木が数本切り倒される。
 グレンが驚きの悲鳴を上げた。


「こういうことよ。
 魔法陣にはすべて意味があって、魔法はその意味を素直に反映する。
 文字さえ覚えたら立派な魔法使いよ」


 運転席からグレンが覗き込む。


「リッカ! 何かするなら先に言ってくれないと困るよ!」

「えぇ、私じゃないです……」


 グレンには聞こえなかったようで、また辺りの警戒に戻ってしまった。


「……とりあえず『射出』の文字を教えるから、さっき描いた魔法陣に加えて使ってみて。
 私は本に『変質』の文字を書き込んでおくから」

「はぁい」


 馬車の外に向けて魔法陣を想像。
 とりあえず、火の魔法からだ。
 適当な位置に『射出』の文字を付け加えて発動させてみた。


「おぉ! すごい!」


 魔法陣から大きな火柱が放たれ、辺りを焦がし、またしてもグレンの悲鳴が響いた。

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