異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第141話 「神託」

 
 毎日、送られてくる生物を転生させ、転生させ、異世界を監視し、干渉し、時間が過ぎていった。
 もう何日も休んでいない。
 だが、疲れはない。
 元々、こうする為にボク達は生まれているんだ。
 食べることも、寝ることも必要ない。
 生命を管理する側の立場。
 ある意味『死んでいる』といえる。

 そんなボクでも、なぜか魔力は切れる。
 魔力の回復は時間に身を任せるしかない。
 この時ばかりは、非常に『退屈』で余計なことまで考えてしまう。

 転生課の仕事場、薄暗い空間の椅子に深く座り込む。
 もう、飲み物は口にしない。

 天界の人口減少は相変わらず進行している。
 娯楽に身を委ねていない退屈な神々なら、もう気が付いているはずだ。

 カナエと共に調べていると、あることが分かった。
『身長の高い奴らが消えて天界の平均身長が下がってるヨ。ミー達の時代がやってくるネ!』
 これはカナエが茶化して言った表現だが、要は大人が消えることが多いということだ。
 子供が消えないわけではない。
 実際、一番最初に消えたのはエリカの家族だ。

 消えるのには何か条件があるはずだ。
 大人に多くて子供に少ないモノ……。
 そして何よりも気になるのは、ボクも消える可能性があるのかということだ。
 もしかしたら、実はもう天界からは消えていて、これはボクの見ている夢なのかもしれない。

 深く考えないようにしていると、扉がノックされた。
 ここまでやってくるのはカナエくらいだ。


「……やっとノックすることを覚えたのですね。
 褒めてやるのです」

「あれ? 私ってそう思われてるんですね」


 その声を聞いてギョッとした。
 扉を開けて入って来たのは、装飾の目立つローブを着込んだ人物。
 天界で唯一『聖母』の名を持つ、マリアだったからだ。


「ご、ごめんなさい。
 友人が来たと思ったので、ついそう言ってしまったのです」


 ふふっと笑い声が聞こえた。
 恥ずかしくて顔を見ることが出来ない。


「大丈夫です。分かってますよ、女神テンシ」


 ドキドキしてしまう。
 何でボクの所にやって来たんだろう。


「『テンシ』って名前なのに女神なんですよね。
 もっと前に会っていたら、『天使テンシ』と呼ぶハメになってました」

「……はい?」


 ボクの名前に関して、どの地位の女神でも持つ感想は一緒なのだろうか。
 どこぞの馬鹿女神が頭に浮かぶ。


「失礼。緊張してるようだったので、少し冗談を」

「……そうなのですか」


 もうちょっと別の冗談にしてほしかった。
 でも、案外気さくな女神なのかもしれない。
 話すこと自体初めてだ。


「女神テンシ、しっかり休んでいますか?」

「……今、休んでいた所なのです」

「違います。ベッドの上で目を瞑ることを休むって言うんですよ。
 こんなの『ちょっと一息』です」

「……でも、眠くないのです」

「身体は疲れないからですよ。
 貴女には精神の休息が必要です。
 いろいろと『悩みの種』があるらしいですしね」


 マリアにそう言われ、ギクリとする。
 高い地位を持つマリア
 やっぱり、何もかも知っているのだろうか。


「……マリア様、聞きたいことがあるのです」

「そうねえ……すべての疑問に対して言えるのは、『時間が解決する』ってことね。
 ただし、一時期的なものよ。
 それ以降は、貴女たち次第って所かしら」

「……マリア様が何かしてくれてるのですか?」

「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。
 とにかく現段階、貴女には普通の生活を送ってほしいの。
 ここ数か月の勤労を評価して、いずれ表彰をします。
 だから、しっかり体調を整えてください」


『表彰』……?
 ボクは表彰されるのか。

 マリアが背を向け扉を開ける。


「今回の表彰は特別ですからね。
 何で表彰されるかは皆に内緒ですよ!」


 パタンと扉が閉まり、静寂が訪れる。
 表彰……されるんだ、特別に。
 あの言い方だと、魔王討伐はできてないんだろう。

 それにしても、よくわからない人だった。
 結局、顔を直接見ていない気がする。
 どんな髪型だったのかも思い出せない。

 魔法庫からミルクを取り出して飲む。
 たまには家に帰ろう。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品