異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第137話 「狙い」

 
 光に追いやられて森から出てきたのは『骸獣スカルビースト』。
 よく見ると、一体だけじゃない。
 白い光に照らせれ、暗闇の中に骸獣の白い顔がぼんやりと4つ浮かび上がっていた。


「ぐ、グレンさん!
 骸獣ですよ!顔見ちゃダメです!」


 骸獣の眼窩には、幻惑の魔法陣がびっしりと書き込まれている。
 常人はそれを見ただけで発狂してしまうらしい。


「分かってる、大丈夫だ。
 なんで骸獣がこんな街道の近くまで……」


 グレンが骸獣の足元を見ながら、籠手を嵌めて剣を握る。


「注意しながらパームを起こしてあげて。
 耐幻の魔法を頼もう」


 焚火の近くに戻ると、パームはまだ呑気に寝袋に包まれていた。


「パームちゃん、朝じゃないですよー!
 目を瞑ったまま起きてください」

「う……ん?
 なぁに? 私、寝起きは機嫌悪いんだからね。
 しょうもない事で起こしたんだったら怒るわよ」


 パームが私を睨みながら起き上がった。


「わ! 目を開けちゃダメですって!」

「なに! なによー!」


 慌ててパームの目を手で隠そうとするが、手で振り払われた。


「リッカ! そろそろ……ヤバイかも……!」


 グレンの方を見ると、結界のすぐ側まで骸獣スカルビーストが歩み寄っていた。
 三体の骸獣が結界に触れながらグレンをジッと見つめている。


「パームちゃんは見ちゃダメですよー……?」

「あぁ、骸獣ね」


 パームはガッツリ骸獣のことを見ていた。
 だが、別におかしくなっている様子はない。


「なに? 別に平気よ。
 あんな自然の理で偶々幻術の魔法陣になった模様なんて、効果があるのは人間くらいだわ」

「わ、凄い」

「アナタもでしょ。
 グレン、ちょっと待ってね」


 パームが細長い布切れを取り出し、小さな魔法陣を描いた。
 それを持って、グレンの方に近づく。


「ちょっと失礼するわね」


 パームは、細長い布切れをグレンの眼を覆うように巻いた。


「ま、待ってくれ。
 耐幻の魔法を頼むよ。
 何も見えない!」

「目を閉じてるから見えないのよ。
 ほら、目を開けてみなさい」

「……おぉ、見える」


 丁度、グレンの目元にある魔法陣が薄く輝いていた。


骸獣スカルビーストの幻術は、見なければ平気なのよ。
 わざわざ魔力消費のデカい耐幻の魔法を唱えなくても、布を透過してみれば幻術に掛からないわ」

「初耳だ……。
 これは助かる」


 グレンが顔を上げ、三体の骸獣を睨みつける。


「さて、結界に阻まれてお互いに手出しをすることは出来ない。
 骸獣が諦めるのを待つか、それとも……」

「あれ? そういえば4体居たはずですよ。
 もう一体はどこに行ったんですかね」

「骸獣は戦略的に狩りをするわ。
 この三体が囮で、どこかに隠れてるんじゃないかしら」

「でも、こいつらは何で手出しを出来ないのに撤退しないのか。
 作戦通りにいかないからって動作を止める程バカじゃないだろう」


 三体の骸獣は、ジッと私たちのことを見ていた。
 手出しをしてこないと分かっていても、目を離すことが出来ない。


(やべぇ)


「いま骸獣が『やべえ』って言いましたよ」

「言ってないよ」

「言ってないわよ。
 アナタもちょっと頭を動かしなさい」


 言ったのに。
 これだからテレパシーの使えない人たちは……。

 骸獣に意識を集中して、何を考えてるのか読み取る。


(モウスコシ)


 もう少し?
 もう少しで何が起きるんだろう。

 骸獣の視線は、私たちを見ていない気がした。


(ウマ)


 ウマ?
 お馬さんのこと……か!


「グレンさん!
 骸獣の目的は私たちじゃないです!」


 骸獣と同じ視線の先。
 後ろを振り返って叫んだ。


「お馬さんが狙われてます!」


 4体目の骸獣が、お馬さんの結界に張り付いていた。

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