異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

★第136話 「深淵の中からこんばんは」

 夢と現の狭間を彷徨う。

 エリカ達とご飯を食べていた。
 研究課題の食堂だ。
 見た目が悪い料理なのだが、味は良い。
 けれど、これは夢だと私は分かっている。
 二人の表情がよく見えない。

 ぼんやりと暖かい光が見え、野宿の真っ最中だということを思い出す。
 夢の続きを見たいと思い、覚醒しそうになるのを堪えて目を瞑る。

 白いベッドの上、無機質な天井。
 ここは……どこだ。
 私の知らないところ。
 また暖かい光が見え、顔を動かす。
 日差しが差し込む窓からは、窓がたくさんついた大きな建物が見えた。

 窓の外が少しずつぼやけ、無機質な部屋も歪み始める。
 遂には真っ暗になってしまった。

 ぼんやりとする視界を動かすと、魔道具の炎が見えた。
 気が付くと白いベッドの上ではなく。青い寝袋に包まれていた。

 炎の周りを見回すと、グレンとパームが寝ている様子が見える。
 まだ朝には程遠いようだ。
 寝袋に頭を突っ込み、瞼を下ろす。

 焚火から時折聞こえる、『パキッ』という木の爆ぜる音が心地よい。
 暗闇の中、また眠りに落ちていった。

 ……

 …………

『パキッ』?
 焚火の木が爆ぜる音だと思っていたが、木を使っていない。
 魔道具から静かに炎が出ているはずだ。
 ……何の音だ。

 寝袋から顔を出して炎を見る。
 ゆらゆらと音もなく揺れていた。
 暗闇の中、耳を澄ましてみる。

 グレンとパームの寝息。
 お馬さんが首を振る音。
 遠くで川の流れる音。
 風で木が揺れる音……。


 パキッ


 気のせいだったと思い始めた時、確かに聞こえた。
 街道の脇、林の中からだ。
 枝が折れる音の様だ。
 眼を凝らして林の中を探し回るが何も見えない。

 寝袋から這い出てグレンの脇に移動する。


「グレンさん、起きてください。
 なんかいますよなんか」


 肩を揺すると、すぐに起きてくれた。
 眠そうな眼をこすりながら答える。

「なんかって……なんだい?
 動物かい?」

「ああそっか、動物かもしれませんね」


 正直、魔物の印象が強すぎて野生動物の存在をすっかり忘れていた。
 1人で臆病になり過ぎていたかもしれない。


「起こしちゃってごめんなさい」

「平気だよ、警戒するに越したことはないからね。
 結界もあるけど、念のため様子を見てみようか」


 グレンが傍らの剣を取り寄せ、立ち上がる。
 パームを起こさないように、一緒に結界の端まで移動して林を眺める。
『パキッ』という音はもう聞こえない。


「どう?リッカ、何か居るかい」

「いやー、何も居ませんね」

「僕たちが来たから隠れたのかもしれない。
 リッカ、確か『光の球』とか出せたよね。
 林の所に出せば、驚いて逃げ出すと思う」

「そうですねぇ。
 ちょっと待ってくださいね」


 林の上空に、小さな光の球を無数に『想像』した。
 優しい光が、ふわふわと林に舞い降りていく。


「あんな光も出せるんだ。
 星が落ちてきたみたいで綺麗だ」

「えへへ、流れ星も出せちゃいますよ」


 鋭く落ちていく光も『想像』した。
 ふわふわと降下する光球よりもずっと速く林の中に落ちていき、地面に当たると小さく光り輝く。

 その光に驚いたようで、林の中で動きがあった。


「グレンさん、何か動きましたよ!」

「そうみたいだね。
 少し大きかったから、『ハクビ』か『ブンジン』か……」


 女神の眼は、暗闇の中で動く動物をしっかり捉えた。
 木で邪魔されて全体は良く見えないが、茶色の体毛に覆われている。

 ふわふわの光球が林に舞い落ちると、茶毛の動物は動きを止めた。


「わぁ……」


 ずんぐりとした身体。
 手が異様に長い。
 太い首の上には、ぽっかりと目に穴が開いた骸骨。

 動物じゃない。
骸獣スカルビースト』。
 魔物だ!

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