異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第131話 「試行錯誤」

 
「なんか変わった宿屋だね。
 神殿みたいというか、別の世界にいるみたいだよ」


 グレンが宿屋に辿り着いてから感嘆の声をあげる。
 三人一部屋なのだが、十分すぎる広さだ。
 もしかしたら気を使って特別大きな部屋にしてくれたのかもしれない。


「高かったんじゃない?」

「タダよ無料タダ。なんでも、この宿屋はリッカが建設したらしいし」

「わー!わ! なぜか部屋にトイレが付いてないらしいですよ!
 ちょっと不便ですね!」

「まぁこれくらい頑丈な建物だと、仮に襲撃されても安心だね」


 助かった。グレンにパームの声は届いていないようだ。

 グレンが無駄に大きな石机の上に剣を置く。


「それじゃあ、さっそく剣を創ってもらってよいかな?
 重さは多少変化しても良いけど、剣の長さは同じにしてほしいんだ」

「ほほう。どれどれ……」


 グレンの剣を持ち上げてみる。
 何とか踏ん張って両手で持ち上げられる重さだ。
 床に剣先を置き、剣と身長比べをしてみる。
 柄の部分が胸のあたりまできた。私の勝ちだ。


「ふふふふ……いきますよー!」


 空に手をかざし、『想像』を開始する。
 身体で感じた重さ。
 胸の高さまでの長さ。
 美しく輝く刃。
 すべてを切り裂ける最強の剣を、私は想像した。

 一瞬で生成されたのは、とてもとてもシンプルな鉄の剣。
 装飾も何も施していない。まずはお試しだ。
 宙に現れた剣を両手で掴み取るが、重さに耐え切れず床に剣先を落とす。

 まるで水面を切るように、石の床に剣がめり込んだ。
 切れ味は完璧だ。


「ど、どうですかグレンさん!
 まずはお試しですよ!」


 グレンの剣と並べて置く。
 長さ、重さ共にほとんど一緒のはずだが……。


「刃幅がだいぶ……細くなってるね。
 あと、結構重くなってる」


 比べてみると、元の剣より二回りほど刃幅が細かった。
 自信のあった重さも違うのは少しショックだ。
 重いイメージを持ちすぎたのかもしれない。


「ただ、やっぱりすごいね。
 刃と柄がどうやってくっついてるのか謎だし、切れ味も抜群だ。
 石の上に落としたのに、刃こぼれもない」

「えへへ、ちょろいですよ!」

「はいはい、『ちょろい』は上手く想像できてからにしましょうね。
 グレン、後は私に任せて頂戴」


 批評役がパームに入れ替わる。
 ここからが本番だ。


「まずはそうねぇ……。
 とっても軽くて良いから、真っ白で刃の長さは一緒、刃幅が太い剣を『想像』してもらえるかしら」

「はい!」


 ぽんっと紙のような剣を生成して石机の上に置く。
 パームはカバンからペンを取り出し、剣に刃の形や模様を書き込んでいった。


「このデザインの剣を創りましょう」

「えー結構普通ですね。
 剣先が十字架になってるやつとか創れますよ?」

「アナタ、それじゃあ鞘に入れられないでしょ」

「……そうですね!」


 パームのデザインした通り、剣を『想像』してみる。


「剣の長さ、短くなったわ」


 想像


「刃が曲がってる」


 想像


「柄を握っただけで砕けたわ」


 想像


「表と裏でデザインが違う!」


 想像想像想像想像……。

 無駄に大きな石机の上に、どんどん剣が積み重なっていった。

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