異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第126話 「余計な解釈」

 

「怒ってますか?」

「怒ってないさ、別に。通り越して呆れてるのさ。
 明日の朝食は無いから覚悟しておくんだね」


 グレンが不機嫌そうに夕食を口に運ぶ。
 パームが静かに笑うと、グレンに睨まれていた。

 私とパームはグレンから逃げたが、あの後ずっと逃げ回っていたわけではない。
 すぐに私の部屋に合流してずっとお喋りしていた。
 しかしグレンは何を思ったのか、私たちが鬼ごっこの次は『かくれんぼ』を始めたんだと思ったらしく、船を隅々まで探し回っていたらしい。

 その間、船は停まりっぱなしだったわけで、本来なら夜には『ナイーラ港』に着くはずが海のど真ん中で一夜を過ごすことになった。


「夜の間ずっと走らせてちゃダメなんですか?」

「真っ直ぐ走るといっても、波や風の影響で僅かにずれるんだ。
 『命を預かってる』身としては、そんな危険な行為は出来ないね」


 グレンが食事を終え、席を立ちあがる。


「僕はもう寝るよ。
 今日は歩き回って疲れたからね。
 頼むから、夜は静かにして」


 机の上には、からっぽの食器だけが残された。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「結構グレンって皮肉を言ってくるのね。
 もっと直接言えば良いのに、聞いててイライラしてきたわ」


 パームがぶつくさ言いながら食器を洗う。
 夜の水は冷たい。


「えー皮肉なんて言ってたんですか?」

「『命を預かってる』とかってところよ。
 私の言った言葉をそのまま使ってきたわ。腹立つー!」

「まぁ私たちが悪い原因だからねぇ」

「確かに悪い事をしたわ!
 けど、今しかできないっていうか……楽しかったわ! 危ないけど」


 危ない事=楽しい事というのは、天界に居た頃から持っていた感覚だ。
 そもそも危ない事がなかった。
 どんなことがあっても、だいたい飛べば何とかなるからだ。


「きっとアイツは過保護に育てられてきたから人生の楽しみ方を知らないのよ」

「きっとグレンさんは私たちが羨ましいんですね」


 私が冗談でいった一言にパームが反応する。


「それよ」


 指をパチンと鳴らして肯定する。


「グレンはきっと羨ましいから仲間に入れてほしくて怒ったんだわ!
 だって、普通なら船中探し回らずに操縦に戻るでしょう。
 わざわざかくれんぼに付き合ったのは、自分も楽しみたかったからだわ!」

「おーなるほど」

「つまりよ。グレンが去り際に残した『静かにしてくれ』と『疲れたから寝る』という言葉……。
 これは二つの意味を持つことになるわ」


 パームが最後の食器を洗い終わり、水切り籠に並べた。


「『寝る』ということは自室にいる事を示していて、『静かにしてくれ』は『何かしてくれ』ってことよ」

「パームちゃんは探偵さんみたいですねぇ。
『何か』て何ですか?」

「それを決めさせる為に、私たちを二人にしたのよ」


 パームが綺麗になった食卓にもう一度座り、不敵な笑みを浮かべた。


「リッカ、作戦会議よ。
 エンターテイナーは商人に必須の技術。
 海上密室の恐ろしさをとことん思い知らせてやるわ……!」


 パームの魔道具、私の魔法をお互いに見せあった。
 夜はまだ始まったばかりだ。

「異世界転生を司る女神の退屈な日常」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く