異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第123話 「新たな旅立ち」

 
 まだ人気のない街を通り過ぎ、港に向かう。
 船着き場に辿り着くと、待ちくたびれたかのように樽に腰を掛けたパームがいた。


「遅かったじゃない」

「まだ陽は昇ってないですよ?」

「こういう時は一時間早く来るものなの!」


 パームはこの寒い中一時間も待っていたのだろうか。
 私だったらその一時間を布団の中で過ごす選択をする。


「リッカはともかく、パームも手ぶらのようだけど平気かい?」

「リッカ、チェックチェック」


 魔法庫から私が『想像』した大きなリュックを二つ取り出す。
 容量に耐え切れなくなって破裂することもないし、爆発に巻き込まれても無傷だろう。

 パームが中身を適当に確かめ、okサインを出す。


「完璧よ。
 グレン、アナタもその重そうな荷物を持ってもらえば良いじゃない」

「どこで何が起こるか分からないからね。
 瞬時に何事にも対応できるようにリュックを持ち歩いているんだ。
 魔法庫に頼ると対応が一歩遅れる」

「ふぅん、賢明ね。
 じゃあ鎧は今どこにあるのかしら?」


「あ、私が持ってますよ!」


 ハイハイと手を挙げて答えると、グレンがギクリとした顔をする。


「へぇ、鎧は持たせてるの。
 急に背後から切りかかられたらお終いね。
 瞬時に何事にも対応する人が聞いてあきれるわ」


 確かにパームの言う通りの気がする。
 鎧は私が言い始めて魔法庫に入れた物だが、グレンの言い分を考えるとリュックを持ち歩くより鎧を着て歩いたほうが安全なのでは?

 パームがグレンに指を指しながら詰め寄る。


「アナタが遠慮してるのかどうか知らないけど、こっちはこれから命を預けるんだから。荷物持ちなんかで疲労してちゃ困るのよ。
 三人も居るんだから、それぞれ適切な役割を担うべきだわ。
 アナタは戦闘、私は支援、リッカは荷物持ちで良いじゃない!」

「そうですよグレンさん!
 後でいっぱい頑張ってもらうんですから大人しく荷物を渡してください!」

「わかったわかった!
 確かにちょっと遠慮していたんだ。
 リッカ、持ってもらっても良いかな?」

「お安い御用ですよ!
 臭い鎧も持ち歩いてたんですから、今更遠慮しないでください!」


 グレンのリュックに触れ、魔法庫に入れた。
 地平線の彼方から朝日が顔を出す。


「そろそろ行きましょう」


 グレンの案内で、船着き場に置かれている船の一つに乗り込む。
 トレント家が所有する船らしい。
 もちろん、私たち三人以外乗っていない。
 大きさは行きに乗って来た船の半分程だが、三人には十分すぎる大きさだ。

 船の中を進み、操縦室と思われる所に辿り着く。


「これ、どうやって動かすんですか?
 船長さんがいないですよ」

「魔力を動力に動くんだ。
 ひたすら真っ直ぐ進むから、時々進路を修正しながら陸を目指す」

「両手で数えるほどしか存在しない高級船よ。
 さすが貴族様ね」


 パームの皮肉交じりの言葉に、グレンは思い出したかのように言った。


「僕たちは『天空人』と交渉するという重大な役目だ。
 これは公にはされていないが、王の令でもある。
 そのことを胸に刻んでくれ」

「といっても、『人間』はアナタだけだけどね」


 グレンは苦笑しながら操縦輪を握りしめると、僅かな振動と共に船が動きはじめた。


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