異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

★第121話 「リュック死す」

 
「そうよ! なにもリュックに詰め込む必要ないじゃない!」


 休憩中のパームが突然叫んだ。
 嫌な予感がする。


「アナタの……魔法庫だっけ?
 それに入れてほしいわ!」


 やっぱり。
 満面の笑みを浮かべるパームにストップをかける。


「ダメですよ。
 魔法庫に入れるにしても、リュックに詰め込まないとダメです」

「なんでよ」

「魔法庫は私の記憶によって出し入れしてますから。
 いきなりたくさんの物を入れちゃうと、存在を忘れちゃって取り出せなくなるんですよ」

「むぅ……」


 パームが諦めてリュックに物を詰め込み始めるが、しばらくすると中身がはじけて飛び出した。


「リュック……それしかないんですか?」

「昨晩、寝ずに『想像』したのよ。
 ここで諦めたら私の睡眠時間が報われないわ」


 窓際の椅子に座ってパームのことを眺め続けた。
 思った以上にパームは頑固だ。
 めげずにリュックに詰めては取り出しを繰り返しているが、そもそも全部入りきらないのではないだろうか。
 出口のない迷路に放り込まれたようなものだろう。

 久々に魔導書を取り出して何か役立てる魔法が無いか探してみると『物体を小さくする魔法』を見つけた。
 ちらっとパームを見ると、またリュックの中身を床にぶちまけているところだった。

 紙とペンを『想像』し、魔法陣の暗記に取り掛かる。
 覚えるのが早いか、諦めるのが早いか勝負が始まった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 お昼を過ぎた頃、集中を解いて窓の外の喧騒に気づく。
 随分と暗記も手慣れてきたものだ。
 パームに目をやると、床にぐったりとしているが、寝ながら物をリュックに放り投げている。
 ……心が折れてしまっているように見えるが、私の勝ちでいいだろう。やった!

 座っていた椅子に魔法をかけてみる。
 一瞬薄く輝くと、みるみる小さくなり手のひらサイズになった。


「パームちゃん?」

「んー? 何よー」

「びっくりして椅子が小っちゃくなっちゃった!」


 パームがだるそうに手の上の小さな椅子を見る。
 元々置いてあったところと交互に見比べると、顔に生気が戻って来た。


「凄いわ! 物を小さくする魔法!
 アナタ最高ね! もっと早くに教えてよ!」

「えへえへえさっき覚えました!」

「覚えたの? やるわね!」

「えへへへえへえ」


 床に散らばっている魔道具に魔法をかけると、どれも摘まめる程の大きさになった。
 リュックなんかいらずに、両手で掬って運べる量だ。


「きゃー! もっと持って行けるじゃない!
 これも入れるわ……あとこれも!」

「ちょいちょいですよ!」


 パームが嬉しそうに部屋中から魔道具をかき集めてくる。
 私はそれに魔法をかけて、どんどんリュックに放り込んだ。


 小さな魔道具でリュックがいっぱいになると、パームもさすがに満足したようだ。


「ほんと最高ね! アナタ商人にモテるわよ」

「えー? ほんとですかー?」

「ほんとよ! 少なくとも私は大好きだわ!」

「ふふえへへ」


 二人でニヤニヤ笑っていると、急にパームが後ろから押されたようにふらついた。


「痛ったぁ……。
 ちょっとリッカ、急に元に戻さないでよ」

「へぇ? 何がですか?」


 パームの後ろには、ゴロッと椅子が転がっていた。
 あれはたぶん……最初に小さくした椅子だ。


「私、何もやってないですよ……?」

「……ふーん」


 二人で転がった椅子を眺める。
 つまり『物体を小さくする魔法』は時限式で元に戻る!


「やっば!」

「商人にモテるって言ったの、前言撤回だわ」


 パームが言い終わるのと同時にリュックがはじけ飛んだ。

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