異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第119話 「西から昇ったお日様」

 
 結局、最後に辿り着いた部屋にはイス以外何も無かった。
 椅子に腰かけたり、立ってみたり、放り投げたりしてみたが何も起こらない。
 きっと休憩室なんだろう。

 諦めて屋敷に帰ることにした。
 かなり時間を無駄にしてしまったと思う。

 巨大ベッピーが置かれていた部屋に戻ってくると、なぜかまた巨大ベッピーが置かれていたので、ありがたく頂戴する。
 光る矢印に従って道を進み、扉に辿り着く。
 今までより重い扉を押し開けると、冷たい風が吹きこんできた。

 城の地下から伸びていた道は、港へ通じていた。
 眼前に夕陽が沈む海が広がる。
 つまり、今までの道は城が攻められた時用の『避難路』なのかもしれない。
 国が統一され、魔物も辿り着かないこの島は攻められることはないだろうが……。

 まだ暖かいベッピーを冷めないうちに屋敷へ持ち帰ろうと思い、黄昏時の街を駆けだした。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 私が島の上に向かっているから夕陽がどんどん上に昇っているんだと思っていた。
 黄昏時だと思っていた街が、少しずつ明るくなる。

 まさかそんなはずは……。

 4週目通りを駆け抜け、少しだけ焦りが生まれ始めた時に住民同士の会話で決定的な一言を聞いた。


「おはようございます~」


 あれは夕陽じゃない。朝陽だ!

 無意識のうちに足が筋骨隆々になっていたかもしれない。
 自分でも驚くようなスピードで屋敷に辿り着いた。


「い、今戻りました!」

「リッカ!」


 玄関で出会ったのは、ガチガチに鎧を着こんだグレンだった。
 後ろには陣紙じんしを束で用意するパームの姿も見える。


「ごめんなさい! お夕飯すっぽかしちゃって!
 建物の中に居たら時間の感覚が分からなくて……」

「い、いや夕飯はいいんだ。
 そんなことより、誰かに連れ去られてりとかじゃないんだよね?」

「へ? それはないですよ……?」


 グレンは「ふぅ」と一息吐くと、兜を外した。


「それなら、良かった」


 ガチャガチャと歩いて自室へ帰ってしまった。


「ちょっとアナタそれでいいの?」

「えぇ? 一体どうしたんですかあの鎧は」


 パームが呆れた顔で私に突っかかってくる。


「アナタが何やってたか知らないけど、『大陸会』に攫われたんじゃないかって大騒ぎだったんだから!」

「そ、それは……」


 大陸会の一件は記憶に新しい。
 宿屋をぶち壊されて殺されそうになったんだ。

 私が逆の立場だったら……夕飯時になっても帰ってこなかったら死ぬほど心配する。
『大陸会』に攫われたんだという可能性も考えれば、居ても立っても居られない。


「ぐ、グレンさんー!」


 自室に戻る途中のグレンに何とか追いつく。
 重そうな鎧だからノロノロだ。


「本当に心配をおかけしました!
 私がちょっと……不用心な行動でした」

「いいんだ。こっちが勘違いしたこともある。
 何事もなくてよかったよ」


 グレンが私の頭をポンポンと撫でた。


「そうだグレンさん!
 心配かけたお詫びにこれあげます!」


 グレンに巨大ベッピーを手渡す。
 正直もう飽きていたところだ。


「ありがとうリッカ。
 後でみんなと食べようね」


 眠そうな眼をこすりながら受け取った。


 ライン街出発まで、あと少しだ。

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