異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第101話 「びっくらぽん」

 
「『ひえーっ』ってなによ」

「い、いや、なんか既視感が……」


 また『天空人』であるかどうか。
 パームがジッと覗き込んでくるが、先ほどから雰囲気は変わっていない。
 ただ、普通に疑問をぶつけただけのように感じる。


「なんでそんなこと聞くんですか?」

「あ、別に悪い意味じゃないわ。
 『天空人』であるのは間違いないんだけど、なんか魔力の質が違うっていうか……?」


 私には分からない次元の話だ。
『天空人』同士を察知する『感覚』。
 女神を察知した時は普通とは違うということだろうか?


「わ、私は強くて利口でカッコイイので……」

「はぁ? なにそれ」

「なんでもないです」


 あまりウケは良くないようだ。
 クッキーをバリバリ食べて誤魔化す。


「……まぁ別にいいわ。
 実はアナタと同じような人を知っているのよ」

「私のような人が?
 クッキーとビスケット、どっちが好きかな!」

「……念のために言っておくけど、似てるのは性格とか見た目のことじゃないわ。
 魔力の質のことよ」


 ……それってもしかして、女神なのでは?


「パームちゃん、その人は他に私と同じところってある?」

「そうねぇ……髪の色くらいかしら?
 なに? もしかしてあの人と張り合おうとしてるの?
 それは無理よ!決定的な違いがあるんだから!」


 パームが胸の前で手を組み、どこか憧れた目で遠くを見る。


「あの人には私たちと違って、とっても綺麗で大きな翼があるのよ!
 アナタが張り合うなんて100世代は無理だわ」


 少しムッときた。
 思い知らせてやろう。


「パームちゃぁん、それってもしかして……」


 椅子からゆっくりと立ち上がり、十分なスペースを確保する。


「こぉんな翼ですかぁ?」


 バサッと大きく翼を広げた。
 目一杯広げた為、部屋に風が巻き起こる。

 私の翼を見たパームは、目を白黒させた。


「ひえーっ」

「ふへへ、にやにや」


 パームは椅子から立ち上がり、恐る恐る手を伸ばして翼に触れた。


「本物……ね、本物本物……」

「本物ですよ!カッコイイですね!」


 よたよたと歩き、椅子に座ったパームを見て翼を仕舞う。
 もうクッキーは残っていない。


「こうなると、頭の良さはともかくそっくりだわ。
 アナタはあの人と……ベルタ様と何か関係が?」

「さぁ、さっぱりです!」

「一度会うべきだわ。
 なにか特別な関係があると思う」

「あ、里に行く計画は立てていますよ~」

「そう……。
 早いうちに行った方がよいと思うわ」


 部屋はいつの間にか薄暗くなっていた。
 話し込んでいるうちに、だいぶ時間が経過していたようだ。
 パームが部屋の四隅にある蝋燭へ火を灯した。


「そうだ、宿屋じゃなくてウチに泊まったら?
 ご飯も作ってあげるわよ」

「泊まりたい!けど……うー今日はダメです!
 一緒に旅をした人のお家でお世話になる予定なので……。
 明日ならきっと泊まれるんですけど……?」

「一緒に旅をした人がいるの!?
 へ、へぇ、じゃあまぁ明日にしましょう。
 そしたら暗くなる前に帰った方がいいわ」


『トーテム』から出ると、陽はすっかり落ちていた。
 だが、周囲の奇抜な建物からは煌びやかな明かりが放たれている。
 この街では、暗闇の中を歩くハメにはならなそうだ。


「それじゃあパームちゃん、また明日来ますね」

「えぇ、まだまだ聞きたいことがあるから楽しみにしてるわ」


 華やかな街を歩きながら少しだけ考える。
 私と似た存在の『天空人』、ベルタ。
 たぶんこの人は女神なのだろう。

 この人はなぜこの世界にいるのだろうか。
 私のように堕天したのだろうか。それとも……。

 なんにしても、天空人の里に行く理由が出来た。
 グレンたちよりも深く、この世界について知っているはずだ。

 帰り道は、迷うことなく屋敷に辿り着くことが出来た。

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