異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第100話 「店柱」

 
 扉を開けると、「カランカラン」と小気味良い音が鳴り響く。


「いらっしゃいませー」


 奥の陳列棚の影から、桃髪の人物、パームが顔を出した。


「えへへパームちゃん」

「あ!リッカ!
 本当に来てくれた!」


 パームが嬉しそうに近づいてきて、私の手を握った。


「まずはお礼を言わなくちゃね。
 船の時は本当にありがとう!
 アナタが居なかったらどうなっていたか分からないわ」


 パームの握る力が強まる。
 助けることが出来たのは本当に偶然だった。
 前日に『集中されなくなる魔法』を偶々覚えたから助けることが出来た。

 もしも、他の魔法を選んでいたら。
 私に好奇心が無く、そもそも下層に侵入していなかったら。
 パームを助けることはできなかった。


「パームちゃんを助けることが出来たのは『幸運』でした。
 きっと日頃の行いが良かったからですね!」

「え? そ、そうかしら」


 ただ、この世界に来て覚えた魔法で初めてちゃんと人を救えた気がする。
 その事実が、少しだけ私に高揚感を覚えさせた。


「取り敢えず、立ち話も何だから上に行きましょ。
 お茶を用意するわ」

「やった!」


『トーテム』の店内は、一階と二階がお店。
 三階がパームの部屋という感じになっていた。
 お店兼住宅ということだ。

 パームの部屋は、ちょうど外から見ると『顔』の部分だ。
 無駄な家具が無い実用的な部屋だった。


「そこに椅子に座って待ってて」


 指定された椅子の側には、小さな窓が二つ付いている。
 この窓が外から見ると『眼』になっているんだろう。

 窓から外を見下ろすと、道を歩く人が大勢見える。
 時々、上を見上げた人が私と目が合う。
 ……いや、私と目が合っているのではなく『トーテム君』と目が合っているんだ。


「面白いでしょ、ここからの眺め」


 テーブルの上にカップが二つ置かれ、中央には山盛りのクッキーもある。


「建物のデザインを考える時にとっても迷ったわ。
 周りの奇抜なお店よりも目を惹くにはどうしたらいいかって……。
 それで思いついたのがこの建物ってワケ」

「どうしてですか?
 他と比べてあんまり目立つ色合いじゃないですよね」

「人間って面白いことに『視線』や『気配』に敏感なのよね。
 だから、この建物は人型にしたの。
 眼で街行く人を見下ろし、他とは違う雰囲気で気配を出す……って感じでね」

「へぇー。てっきり可愛さで勝負したんだと思いました!」

「か、可愛い? 可愛いかしらこの建物」

「可愛いですよ!
 そういえば、ドアノブの猫も良いですよね!」

「気づいた?
 あれはお店を建ててからしばらく後の話なんだけど……」


 クッキーを食べ、紅茶を飲む。
 なんだか、久々に充実した会話をしたような気がした。
 よくよく思えば、マトモに女の子と会話するのはパームが初めてだ。
 似たような境遇だから、なおさら親近感も湧く。


「ところでリッカ、一つ疑問に思っていることがあったんだけどいいかしら」

「はーい?
 何でも聞いてください!」

「アナタ、本当に『天空人』?」



「ひえーっ」

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