異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

番外編2-1 「蚊帳の外が一番」

 
 女神は『心技体』すべてが優秀でなければならない。
 と、天使の頃から教えられていた。

『心』つまり、精神のことだ。
 転生課であれば、転生させる対象生物。奇跡課であれば、監視する世界。
 すべてを正しく、公正に扱わなければならない。
 私情で左右させてはならないのだ。
 その点、『精神』の育成は大切だ。

『技』つまり、技術のことだ。
 女神は様々な知識を持ち合わせなければならない。
 配属した課で仕事の失敗は許されない。
 異世界のバランス崩壊は、天界の存在が傾くほど危険だと言われている。
 その為に仕事を完璧にこなす『技術』は最も大切だ。

『体』つまり、体力のことだ。
 本当に訳が分からない。
『体力』なんて、女神の仕事に少しも関係ないのではないだろうか。
 しかも、体力を成長させる為に行う授業が、なぜ『組み手』なのだろうか。
 この授業内容を考案した神は堕天すれば良いと思う。ちくしょうめ!

 幸い、勝ち残り戦なので私は早々に退場することが出来た。
 動きやすいように『想像』した丈の短いズボンが恨めしい。
 体育館に座り込むと、ひんやりと空気が太ももを伝う。

 5つあるリングで順調に勝ち残っていた女神五人が、一つの大きなリングに集結する。
 いよいよ最終戦だ。これから5人で乱闘という、天界ではあるまじき行為が行われる。

 私が応援するのはただ一人、紅の女神候補生だ。


「エリカちゃんー!
 けちょんけちょんにしちゃえー!」


 私の応援に気づいたエリカが、腕を上げて答える。
 まぁ、優勝することは間違いないだろう。
 だが、ただ一人気になる人物がリングに立っていた。

 黒髪短髪の女神候補生だ。
 初めて見る。何よりも目つきが怖い!強そうだ。

 体育教師であるリール=アテネ先生の合図で、乱闘が始まった。

 エリカの前に飛び出してきたのは、二人の女神候補生。
 優勝候補のエリカを共謀して倒すつもりらしい。

 エリカは迫りくる二人に対して、両手を上下に落ち着いて構えた。
 二人から放たれる拳を、蹴りを、エリカは構えた両手で綺麗に捌き始める。
 よく見ると、捌きながら相手の身体に打撃を与えていた。
 ……というよりも、あれは攻撃してる『フリ』だろう。
 試合を長引かせたいという気持ちに加えて……。

 エリカは防御の薄い右側の一人に向けて、ミドルキックを放った。
 スラりと伸びた綺麗な足が、一人の脇腹に食い込む。
「ぐえっ」と苦しそうなうめき声を上げて、よろめいた。

 驚いた左側の生徒が、エリカから視線を外してしまう。
 ニヤリと笑ったエリカが、残った脚を軸に逆回転を始めた。今度は回し蹴りだ。
 エリカから注意を外してしまったもう一人の顎に、エリカの踵が突き刺さる。


「ひぇっ」


 思わず声を上げてしまうほど、『エグイ』音が出た。
 だが、小さく悲鳴を上げた私とは裏腹に、周りの生徒たちからは歓声が上がる。

 そう、エリカはパフォーマンスを欠かさない。
 圧倒的強さ故の余裕だ。

 回し蹴りを食らった生徒は回転しながら吹っ飛び、床に倒れたまま起き上がってこない。
 完璧なダウンだ。

「まだ、戦うか?」

「う……ギブです……」


 エリカは、脇腹を抑える女神候補生に声を掛け、戦意喪失を確認した。


「じゃあ、こいつを運ぶの手伝ってくれ」


 エリカと苦しそうな生徒がリングの外にダウンした生徒を引きずり出す。
 安置を確認したエリカがリングに戻り、立っている一人と対峙する。


「待たせたな、エリカだ」

「ネイリス。
 ボコボコにしてやんよ」


 私の想像した通り、リングの上には紅と黒の女神候補生が残った。

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