異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第83話 「チャン=サン」

 
『私たち天空人』

 パームの言ったことが一瞬理解できなかった。
 自らが『天空人』であるということに加え、私のことまで『天空人』だという。

「な……ナゼバレタ」

「何故って……。
 あなただって私に気が付いていたじゃない」

「気が付いていたって……」


 もしかして、あのなんとも言えない『感覚』のことだろうか。
 今もひしひしとパームから感じ取ることが出来る。


「もしかして知らない?」

「知らないです……」

「はえー、まあ色々と事情もあるだろうからね」


 素直に答えたら、納得してくれた。
 さすがに『天界から来た』という事情は察していないだろう。


「私たち『天空人』には、お互いを認識する力があるのよ。
 いまみたいに、近くに居れば『天空人』かどうか判別することが出来るの」


 そんなことが可能だったのか。
 女神同士だとそんなことは無かったのになぁ。


「私、『天空人』と会うのはパームちゃんさんが初めてです!」

「へぇ、それは驚いた。
 今までよく生きてこられたねぇ。
 街に住む『天空人』三箇条は知ってる?」

「知らないです」

「人間に『知られるな』、『教えるな』、『信用するな』だよ。
 里の外に住む者たちは、この3つを守らなくちゃいけない」


 グレンに『知られてる』し『信用してる』。
 まぁ、天空人じゃないからいいか。


「他の『天空人』は里に住んでるんですか?」

「うん、そう。
 ずーっと北にある寒い所に住んでる」


 全然見かけないと思ったら、そういうことか。
 てっきり、街でひもじく縮こまって生きていると思っていた。


「……本当に何も知らなそうね。
 ライン街に着いたら絶対に私のお店に来てね、いろいろ教えてあげるから」

「えーっと、二週目通り?」

「五週目通りよ。
 さぁ、もう帰った方がいいよ。見回りが来る」


 急いで皿の上の料理を口に頬張り、席を立つ。


「それじゃあ、絶対にお店に行きます!」

「今度会った時は、『さん』をつけないでね」


 扉に向かって歩いてパームから離れると、あの『感覚』が消えた。
 パームが消えてしまったんじゃないかと思って振り返ると、すぐそこに居た。
 10mも離れていない。


「大丈夫、またすぐ会えるから!」


 パームが私を励まして手を振ってくれる。
 私も手を振り返してから、扉から出た。

 パームと出会えたことは幸いだった。
 見たところ、私が想像していたより不自由な生活を送っていない。
 この世界最大級とも言える街に、店を構えているんだ。

 自室のベッドに寝っ転がり、これからするべきことを考える。
 私が女神としてこの世界でするべきことは、なるべく天界の理不尽な『システム』から遠ざけることだ。
 その為には、要らない争いを生まない世界にしたい。
 天空人と人間は仲良くするべきだろう。

 ……魔物どうしよっか、魔物。
 テレパシーの回路はつなげられたけど、意思疎通はできなかったしなぁ。
 骸獣スカルビーストなんて目が合うだけでアウトだしなぁ。
 全然存在感が無いけど、魔王もいるらしいしなぁ。
 どうしよっか魔王……。


 答えが出ない思考はぐるぐると回り、意識を暗闇へと誘っていった。
 星空の明かりは何も照らさなかった。

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