異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第79話 「備え付けのシックスセンス」

 
 私が今乗っている船はかなり大きい。
 その理由は、ライン街への渡航を目的とした上層にある『一般区』のほかに、下層にある商人たちの乗る『商人区』があるからだ。
 比較すると、3:7ほどの割合で商人層のほうが大きい。
 普通に考えて、人のほかに荷物を積み込む必要があるからだろう。

 グレンの許可を貰って船の中を歩き回っていると、他のとは雰囲気の違う階段を見つけた。
 直感的に、下層への階段だとわかる。
「下層へは行っちゃダメだからね」
 グレンの言葉が頭をよぎる。

 ……ダメと言われたら行きたくなるよね。
 しょうがない、仕方がない。

 階段を下りていくと、鉄で作られた頑丈な扉が現れる。
 冷たいノブを傾けてみると案の定、鍵が掛かっていた。

 ふふん、そんなもんじゃ私の好奇心は止められないのさ!

 昔、イタズラの為に培った技術が私にある。
 扉を抑えながら、『ノブ』のみを魔法庫にしまう。
 空いた穴から向こう側を覗き、誰もいないことを確認してから扉をゆっくり開けた。

 ちょろいちょろい。

 慎重にドアノブを元の空間に出現させ、扉が開かないことを確認する。
 完璧だ。これで下層に入れた。
 にぎやかな声が聞こえる方向に向け、廊下を歩いた。


 まず、なんといっても広い。
 三人は並んで歩ける廊下に天井の高い広い部屋。
 至る所に絨毯が敷かれている。
 きっと、客室のも上層よりずっと広くて大きいんだろう。

 私は別に狭い所が好きだから羨ましくない羨ましくない。

 人の流れに沿って歩いていくと、ひと際大きな部屋に出た。
 テーブルがたくさん置かれており、その上には料理が並べられている。
 上層の甲板のような雰囲気だ。
 みんなここで食事を食べるんだろう。

 並べられている料理を片っ端から食べてみる。
 良かった。一番懸念していたことは『味に差がある』ということだったが、大して変わりない。
 見た目は少しこっちのほうが良い気がする。
 とりあえず、上層で見られなかった料理を全部食べてしまおう。

 パクパクと料理を食べていると、不思議な感覚に襲われた。
『ここに居るよ!』という主張を無言でされたような感じだ。
 料理を口に詰め込みながら辺りを見渡す。
 すぐ近くを歩いていた桃髪のお姉さんと目があった。

 お姉さんは、少し驚いた顔をしていた。
 何となく小さく会釈する。

 綺麗な服を着ているなぁ。

 そんなことを考えていたら、お姉さんが近づいてきて私の手を引っ張って歩き始めた。


「んん!? んー! まだあの料理食べてないー!」


 お姉さんはお構いなく歩き続け、私が上層から降りてきた階段の付近でやっと止まった。


「どうしてここに居るの?」


 えぇ!?
 上層から来たのがバレてるらしい。
 とりあえず謝っておこう。


「ご、ごめんなさい」

「……まぁ、居るのならもうどうしようもできないね。
 あなた、名前は?」

「リ、リッカです……」

「リッカかぁ……。私はパームよ。
 私以外にもココに来ている人は初めて見たわ。
 どこかしらで縁があるだろうね、よろしく」

「パームちゃん、さん。よろしくお願いします……」


『ココに来ている』って……。
 同じ上層からこっそりやって来ているのだろうか?


「私のお店は『五週目通り』にあるから。
 後で絶対に来てね!」


 そういうと、パームは踵を返して元来た道を戻っていった。

 いやぁ、怖かった。
 もうこりごりだ、上層へ戻ろう。
 パームちゃんさん、凄い堂々としているっていうか、自信のあるような顔してたなぁ。

 人の目がない事を確認してから、降りてきたのと同じ手順で上層へ戻った。

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