異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第76話 「偽りの日常」

 
 エリカの家一帯はあれ以来、監視課によって封鎖された。
 カナエが自分だけの手では負えないと判断し、上に今回のことを報告した。
 現場にボクは居なかったことになっている。
 監視課に個人的な依頼をすること自体が違反であるからだ。
 その方が都合よい。

 監視課の話によると、エリカの家は『空間特異点』と認定されたらしい。
 つまり、空間の歪み、異世界の穴だ。
 普通なら『異世界の穴』は、転生課の特別な部屋でしか開かない。
 要するに、仕事場でしか開くことができないのだ。
 なぜかその『異世界の穴』が、エリカの家で発生した。
 だから、その穴に引き込まれて消える事もあるし、逆にそこから何かが出てくることもある
 と、いうのが表向きの発表らしい。

 もちろん納得していない。
 家全体が古びた理由は? 他の家族が消えていたのにエリカが何も言わなかった理由は?
『異世界の穴』という話だけでは説明のつかないことがたくさんある。
 監視課も実体を把握できていないんだろう。

 結局、ボクは普段通りの日常を演じるしかなかった。
 下手に首を突っ込めばどうなるかわからない。
 機械的に毎日の仕事をこなしていた。

 奇跡課の仕事を早めに切り上げ、部屋を出る。
 ボクの場合は、転生課と奇跡課を兼任している為、個室を与えられている。
 普通の女神たちは、大ホールで仕事をしている。
 奇跡課の出口を目指して、大ホールを通りかかった時、少し違和感を覚えた。
 近くを通りかかった女神に、それとなく聞いてみる。


「……今日は人数が少ないと感じるのです」

「えぇ? ……ほんとですね!
 やけに仕事が多いと思ったら、人数が少なかったのかー」


 ……まぁ、仕事に集中していれば気が付くことはないだろう。
 本当に、僅かながら少なく感じる。
 たまたま、欠勤する人が重なっただけかもしれない。
 だが、エリカが一瞬で消えたことが頭をよぎる。


「……今日欠勤した女神をリストアップしてもらえますか?」

「えぇ!? テンシさん!
 きっと不慮の事故とかで仕方なく休んでるんですよ!
 叱らないでやってください!」

「……別にそんなつもりじゃないのです。
 とっとと資料を作ってほしいのです」


 なぜか泣きそうな女神を急かし、欠勤した女神のリストを受け取る。
 本日の欠勤は総勢32人。
 奇跡課すべての人数は、数千は居る。
 そう考えると少なく見えるが、あまりそうとも言えない。
 そもそも、健康体の女神にとって体調不良はまずないし
 溺れるほど娯楽もない。
 欠勤する理由がないのだ。

 ……いや、悪く考えすぎかもしれない。
 たまたま人数が重なっただけだ。
 深く考えるのは後でいい。

 リストを手に、監視課に居るカナエの元へ向かった。

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