異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第70話 「片隅の欠片」

 
 地獄————それは善良ポイントが0より下回った者の為にある。
 一体何が行われているかわからないが、地獄で過ごすことによって、マイナスポイントを0まで引き上げることができるらしい。
 そして、地獄は転生する者の為だけにあるわけではない。
 天界に過ごす神々の為にも存在する。
 何をしたのかわからないが、神でも善良ポイントが0を下回る場合がある。
 その場合は、地獄行きだ。
 もちろん、一定の期間を経て天界に戻ってくることが出来る。


「ホイ!ホイホイ!」

「……もうちょっとマトモな言葉を喋れないのですか」


 カナエが映像を観ながら何か喚いている。
 場所は監視課のカナエの部屋。
 最近、エリカ関連のことでよくここに来ている。

 ここに通いつめ、カナエの協力によってエリカの情報を得られたことは何もない。
 それが、エリカは地獄に居るという証拠にもなっている。

 なんとももどかしいが、地獄までエリカを追う必要はない。
 地獄に居るのならば、いずれこっちに戻ってくるはずなのだ。

 問題は、なぜエリカが地獄へ行ってしまったのか。
 普通に考えれば、エリカの善良ポイントがマイナスになってしまう何かが起こってしまったからだ。
 一体何をしたのか。最近は、過去の映像を追ってカナエにそれを調べてもらっている。


「おっほらここら辺からじゃネ」


 カナエが観ている映像を覗くと、そこはリッカの家だった。
 悲しげな顔のリッカ、張り詰めた表情のエリカ、そしてボクとアイメルト先生が居た。


「……こんなところまでしっかり監視しているのですね」

「まぁ、堕天したリッカとやらは職務放棄してたからネ。
 厳重監視対象だったと思うヨ」


 映像を観ていると、エリカがリッカの家の壁をぶん殴って穴を開け、飛び出していった。


「よーっし、カナエ追っちゃうゾォ」


 リッカの家に固定されていた画面が急に動き出す。
 エリカの開けた穴を飛び出し、ぴったりとエリカの後ろにくっついた。


「すごいっショ!
 監視課の目からは逃げられないんだゼ!」


 今観ている映像は、過去の映像のはずだ。
 なのに、ここまで詳細にカメラを動かせるのには驚いた。
 噂の何倍も恐ろしい監視体制だ。

 エリカは自宅に辿り着くと、扉を乱暴に開け一直線に自分の部屋に向かう。
 そのままベッドに飛び込んで動かなくなった。


「ン? こいつ、家族と一緒に暮らしてるよナ?」

「……暮らしているのですよ。
 一度、会ったことがあるので間違いないのです」

「ンッンー? おっかしいナー?」


 画面の映像がエリカから離れ、家中を映し出す。
 カナエの感じた疑問にすぐに気が付いた。
 この時からすでに、エリカの家族の姿が見当たらない。

 映像はまたエリカを映す。
 相変わらずベッドの上から動かない。
 そのまま長い時間、微動だにしないエリカの姿が映し出されていた。


「……早送りとかできないのですか?」

「もうやってるヨ」


 よく観れば、窓の明かりが強くなったり弱くなったりしている。
 これは、一日の終わりと始まりがなんども訪れていることを表していた。
 それなのにエリカは少しもベッドの上から動かない。
 もう何日も仕事に行ってないと考えられる。


「……もしかして、エリカも堕天したのでは」

「それだったら、ミーの記憶に残るはずサ」


 映像を観ていると、急にエリカの姿がベッドから消えた。


「ワォ、早送りしすぎたかナ」


 カナエが映像を巻き戻すと、再びベッドにエリカの姿が現れる。
 そして、また消える。
 巻き戻す、消えるを何度か繰り返した。


「……カナエ、早送りしすぎなのですよ。
 もっと落ち着いて操作するのです」

「アー、ンー。
 いやそれがサ、これ当倍速なんだよネ……」


 もう一度映像を観ると、ベッドの上で微動だにしないエリカが、急に消えた。
    ベッドに残ったシワだけが、確かに誰かが存在した証を残していた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品