異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第67話 「すれ違い小噺」

 
「リッカ、ちょっとここで待っててね」


 昼食を済ませた後、今晩泊まる宿屋を探していた。
『探す』といっても、これだけ大きな街だ。もちろんすぐ見つかる。
 だが、元から人の流れが多い為、なかなか空いている部屋が見つからない。
 それに加えて、宿屋が一つ吹き飛んでいる。
 どこの宿屋も満室なのだ。

 今、来ている宿屋で5軒目。そろそろ野宿路線が濃厚になり始めた。
 宿屋の前で待っていると、残念そうな顔をしたグレンが出てきた。


「ダメだ、一部屋しか空いてないってさ」

「あ、じゃあここに泊まりましょう」

「えっ? 僕だけ野宿かい?」

「えっ? 一緒に泊まんないんですか?」

「だってその……、一部屋しかないし……」

「ベッドくらいなら私作れますよ!」

「あーうん。わかった。ここに泊まろう」


 なぜかグレンの挙動が少しおかしくなった気がする。
 ひとまず、グレンについて今日泊まる宿屋に入った。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「わぁ、結構狭いですね!」


 ジャンプすると頭をぶつけそうな天井に、ベッドを置くと一人しか行き来できない部屋。
 机や椅子を置くスペースすらない。
 この圧迫感がなんともいえなく好き。


「いや、これは想像以上に狭いよ。
 やっぱりここで二人なんて不可能だ……」

「まぁまぁ、見ててくださいって」


 設置されているベッドを魔法庫にしまい、代わりに部屋のサイズぴったりなベッドを生成する。
 もう、部屋全体がお布団だ。
 天井に頭をぶつけながらベッドにダイブする。
 羽みたいにフカフカのベッドだ。


「ほらココに縦になれば二人で寝れますよ!
 荷物は私が収納しておくので任せてください!」


 バシバシと布団を叩きながらアピールする。
 わざわざ野宿をする必要はない。
 だが、グレンはやはり悩ましい表情だ。


「いや、やっぱり良くないと思うよ……。
 もちろん僕がそんなことをするつもりも、自制心を失うことないけど
 やっぱり、その……若い男女が同じ屋根の下で夜を過ごすというのは、社会的に良くない」

「昨日も同じ屋根の下だったじゃないですか」

「いや違う、そういう意味じゃなくて……なんていうか、ダメなんだよ同じ部屋は」


 ははーん、なるほど。
 野宿の時から少し気になっていたが、グレンは寝相が悪い。
 つまり、今更それを気にして恥ずかしがっているんだ。
 私も昔は寝ながら翼を変な方向に曲げてしまい、痛めてしまうことがよくあった。


「グレンさんの気持ちはよく分かります。
 でも、恥ずかしがることはないですよ!
 もう野宿の時に見ちゃいましたから!」

「そんな……!
 なんてことを……」


 グレンが絶句する。
 寝相の悪さをそんなに気にしていたのか。
 なんだか少しにやけてしまう。
 この世界に来てからグレンに頼りっぱなしだったが、初めて子供っぽいところを見つけてしまった。
 言わば、グレンの弱みだ。


「グレンさんって今何歳なんですか?」

「こ、今年で20歳だ」


 当たり前だが、年下だ。
 ついつい勝ち誇ってしまう。


「えへへ、その割にはかわいいかったですよ」

「なっ……」


 その一言がトドメになったのか、グレンが泣きそうな顔になる。
 やばい、言い過ぎたかもしれない。


「いや!でもそういう人も居ますって!悪くないと思いますよ!
 私だって昔そうでしたから!」

「き、君にもついてたのかい!?」

「はい? いまだってついてますよ?
 見たじゃないですか」

「えぇ!?」


 グレンが納得していないようなので、翼を広げて見せる。


「いつの間にか大きく広げちゃって、次の日が痛いんですよね」

「翼……翼?
 僕にはついてないぞ……」


 グレンがやはり困惑した表情を浮かべている。
 だが、もう落ち着いたようだ。


「まぁ、寝相くらいでそう恥ずかしがることはないですよ
 いつか治ります。私だってマシになったんですから!」

「寝相……。
 あぁ、なんだ……よかった」


 グレンが急に安堵した様子になった。
 私の寝相がマシになったという話が大分助けになったらしい。
 少し不甲斐ない。


「えぇ!? 待ってくれ。
 僕の寝相が悪いって?」


 さっきまでなんの話を聞いていたのだろうか。
 またショックで落ち込むグレンを、私の体験談で励ます羽目になった。

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