異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第57話 「見た目が大切」

 
「やあ、お待たせ。
 明後日の夜に出航だってさ」


 ベンチに座りながら海を眺めていると、乗船の手配を終えたグレンが隣に座った。


「グレンさん。
 海の底、魚が居ますよ。可愛いですね」


 海底に居るずんぐりむっくりした魚を指さす。
 ゆっくりとヒレを動かして泳いでいる。
 お目目がくりくりで、非常にキュートだ。


「あぁ、鈍足魚だよ。昨日食べたやつ」

「えー……」


 こんなに可愛いと知っていたら、注文しなかったのに……。
 もう食べないと決心しながらも、昨日の味を思い出して唾液が出る。


「そういえば、天空人は殺傷をしないって聞いたからベジタリアンなんだと思ってたよ」

「お肉食べないとか人生損ですよ損!」


 天空人のことはよく知らないが、さすがに肉を食べないことはないだろう。
 なんと言ったって美味しいんだから。


「今日はこれからどうするんですか?」

「えっとね、武器屋に行きたいんだけどいいかな?」

「新しい剣でも買うんですか?」


 グレンの腰に下がっている剣に目をやる。
 一見、多少の傷はあるがまだまだ使えそうだ。


「いや、キミ用の杖を買ってもらいたいんだ。
 杖を持っていたほうが、『魔法使い』と名乗れるからね」


 初めてベンガルと合ったときのことを思い出す。
 天空人ではないのだが、そう疑いをかけられた時に否定する術がなかった。
 杖を手に「魔法使いです」と名乗っていたほうが、自然なのだろう。


「わかりました。
 私の杖を買いに行きましょう」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 需要がほかの物に比べて多いからだろう。
 商店通りにあるひと際大きな建物が武器屋さんだ。
 壁や棚には大小さまざまな剣のほかに、ハンマーや槍、弓などたくさんの武器が架けられていた。


「リッカ、こっちだよ」


 グレンの後を追い、棚の間を縫って進んで建物の一角に辿り着く。
 そこには数十種類の杖が並んでいた。
 片手で振り回せるような小ぶりな杖から、両手で持つ大きな杖まである。
 どれも、色や装飾が違う。素材が違うのだろう。

 すぐ手元にあった黒い大きな杖を手に取ってみる。
 不思議だ。杖があったかい。
 僅かながら、杖に魔力が流れている。
 魔力の流れを把握してみると、杖の内部が魔法陣のようになっていることに気が付く。

 なるほど。
 杖が魔力を増幅させているんだ。
 私が無意識に放出している魔力を増幅させているからあったかく感じる。


「僕も少しだけ魔法の心得はあるんだ。
 一緒に良さそうな杖を見つけてここで買っちゃおう」

「私、これが良いです」


 周りの杖を見通してみたが、大して構造に変わりは無い。
 なんとなく惹かれる一番最初に手に取った杖をグレンに見せる。


「早いね、早い。
 これは……クロマツの杖だね
 かなり癖のある杖だと思うけど、大丈夫?」

「大丈夫です!」

「それじゃあ、杖を持ってこっちに来てね」


 店主のおじさんのところまで杖を持って行き、紫貨シカを取り出す。
 おじさんが「足りるかな、足りるかな」と慌てながら、お釣りの金貨をかき集めていた。


 おまけで付いてきた杖用の留め具を服に取り付け、背中に杖を背負う。
 お飾りながら、背中を預けるパートナー。愛杖『クロちゃん』を私は手に入れた。

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