異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第37話 「女神から冒険者へ」

 
『女神様』
 その単語が耳に入って、一瞬頭が真っ白になる。
『女神』という役柄を隠そうと思っていたが(そもそも堕天したのに女神なのだろうか)
 何故バレてしまったのかわからない。

 茶髪の青年から差し出された手を掴み、立ち上がった。
 年齢は20歳いってるかどうか。
 まだ少しだけ顔に幼さを感じる。
 観察していると、青年が私に指を指してきた。


「あの〜それって……少し折れて?」


 ようやく気が付いた。
 翼を出しっぱなしだ。
 白い衣に白い翼。
 漫画や本にもあったテンプレートの様な女神格好だ。
 慌てて翼を仕舞おうとすると、鋭い痛みが走った。


「痛っ……!」

「大丈夫ですか!」


 翼を確認すると、左側の翼に折れている部分がある。
 地面を転がった時に傷付けてしまったようだ。
 まあ、この程度なら回復魔法を使えばすぐに治せるのだが……


「あぁ!そんな!僕がもっと早く来ていれば!そんな!」


 なんだか見ていて面白い。


「危ないところを助けてくれてありがとうございます」

「助けたなんて……当然な事をしただけさ!
   だが、怪我を負わせてしまって本当に申し訳ないと思っている」


 紳士的な青年だ。
 彼の身のこなしから考えるに、人間が広く生息している世界だと考えて良さそうだ。


「私の名前はリッカです。
   どうか名前を教えていただけませんか?」

「もちろんだリッカ様!
   僕の名前はグレン。グレン=トレントだ。
   ライン街に拠点を置いている冒険者さ」


『ライン街』
 良い情報を手に入れた。
 それに『冒険者』は職業のようなものなのだろう。
 とりあえず、この街に行けばこの世界の事が分かるだろう。


「グレンさん。
 よろしければ、『ライン街』への行き方を教えてもらってよいですか?」


 私がそういうと、グレンは少し驚いた顔をした。


「ライン街へ行くのかい?
 その……なんというか……。
 『天空人』が行くようなところじゃないと思うんだが……」


『天空人』
 また初めて聞く単語だ。
 たぶん、女神のような種族がいるのではないだろうか。
『天空人』は、人間から迫害を受けていたりする種族かもしれない。
 そんな中、『天空人』に見えた私を助けてくれるなんて、とても良い人じゃないか。
 この人に少しだけお世話になろう。


「じ、実はグレンさん。
 私、ちょっと事情があって、この世界のことが少し……わからないっていうか……?
 いろいろと教えてくれたらうれしいのですが」

「そうか……。
 君たち天空人も色々と大変なんだな。
 とりあえず、近くに村があるからそこまで行こう」


 あぁ良い人だなぁ……。
 こんなに良い人と出会えるなんて、なんて運が良いのだろうか。
 私を襲ってくれたトカゲ人間に感謝をせねば。
 どうか来世では恵まれた人生を歩めますように……。


「それでは、近くの村に向かいましょう!グレンさん!」


 私は張り切って声を出したのだが、なんだかグレンのほうは気が向いた顔をしていない。


「……? どうしたんですか?」

「その……君の服が目立つんだ。
 一目で天空人だとわかるし、服が薄すぎる。
 僕が先に村で服を調達してくるのが良いかもしれない」


 服装か。
 確かにグレンと比べると、私の服は場に合ってない。
 トカゲ人間のように、人を襲う輩が居るのにこの服装は防御力が感じられない。


「服は私が創るので大丈夫ですよ、グレンさん」

「創るって……?」


 私が場に合うような、冒険者が着るような服……。
 そういえば、天界で女の子が旅をする漫画を読んだ。
 彼女を参考にしてみよう。

 白を基調にした布素材で作られた半袖の服。
 スカートは冒険には不向きだろうと思い、動きやすさも兼ねそろえた半ズボンを創る。
 新しくロングブーツも創ってみた。
 最後に赤いポンチョを作って完成だ。


「できたできた!どうですか!」


 各装備を広げて見せ、グレンに自慢する。


「凄い……。
 天空人は魔法の扱いが上手いとは聞いていたが……。
 魔法陣も書かずに物を創造することまでできるのか」


「へへ~ん。これくらいお手の物なのだー!」


 胸を張って自慢した。
 女神育成学校では、下から数えた方が早い成績だったが
 異世界では自慢出来ちゃうのだ。


「それじゃあ行きましょう!」


 私もこうなれば立派な冒険者なのだ。
 なんだかワクワクしながらグレンと共に村を目指した。


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