異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第36話 「出会い」

 
 今回請けたクエストは『はぐれた蜥蜴人リザードマンの討伐』。
 本来、沼地に生息する蜥蜴人が、なんらかの理由で住む土地を追われたのだろう。
 木々に覆われた土道を歩ていると、一瞬空気が張り詰めたように感じた。
 この感覚は身に覚えがある。
 蜥蜴人が叫んだ時に発生する超音波のようなものだ。
 誰かが蜥蜴人と戦闘しているのかもしれない。加勢しなければ。

 茶髪の青年は、汚れるのも構わずに地面に手をつき、四つん這いになる。
 次の瞬間、力強い足跡だけを残し、彼の姿はそこにはなかった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ま、待って!話せば!話せばわかるから!」


 すごい勢いで追いかけてくるトカゲ人間から逃げながら対話に持ち込もうとする。
 だが、彼らにはまるで聞く意思が無いように思える。

 そうか!言葉が通じてないんだ!
 テレパシーなら転生課の仕事でいつも使っていたからお手の物だ!

 そう思い、走りながら意識を集中してみる。


(こんにちは!私の名前はリッカです!)

(コロセ!コロセ!コロセ!)
(ニクダ!ニクダ!ニクダ!ニクダ!)
(ギャォォォオオオ)


 あぁやばい。
 たぶん私は食料なんだ。
 これは対話は難しいだろう。

 とりあえず、逃げることに全力を尽くそう。
 走りながら翼を出す。


「ギャォォォオオオッ!!!」

「わ!」

 急に近くで聞こえた叫び声に驚いて、あたふたと飛び上がった。
 ギクシャクと翼を動かした為、高く舞い上がることが出来ずに地面スレスレを飛行する。

 これじゃあ走ってるのと変わらない!

 魔力でブーストをかけようとした瞬間、目の前に木がそびえ立っているのに気が付いた。
 慌てて身体を捻って木を避けるが、バランスを失って地面に落ちる。
 飛んでいた勢いのまま地面を転がり、ようやく止まった頃にはもうトカゲ人間が目の前に迫っていた。
 何か魔法を唱えて応戦しようとしたとき────


 風を切り、凄まじい勢いで『何か』がトカゲ人間に突っ込んだ。

 トカゲ人間は吹き飛ぶ──というより『はじけ飛んだ』。
 緑色の肉片が、血しぶきがまき散って白い衣を彩る。

 残った二匹のトカゲ人間が叫び声をあげ、突然の乱入者に驚く。
 通り過ぎていった『何か』が土煙を上げながら帰って来た。
 そこでようやく『何か』の正体が分かった。
 鉄の鎧を着ている一人の人間だ。
 ブレーキをかけているのだろうか、両足で必死に踏ん張っている。
 だが勢いは衰えず、そのまま残った二匹のトカゲ人間に突っ込むと
 私の近くに居た一匹に蹴りを入れた。

 ブレーキをかけていたが、十分な勢いだ。
 トカゲ人間は悲鳴を上げながら吹っ飛んでいく。

 蹴りをしたことでようやく立ち止まった人間が、私を守るように前に立ち、片手剣を構えた。
 トカゲ人間がようやく捉えた乱入者に切りかかる。
 人間は片手剣を軽やかに扱い、それを受け流す。
 バランスを崩したトカゲ人間に体当たりをして、距離を取ると
 身体を大きく回転させながら斬り、トカゲ人間の首を刎ねた。

 首から大量に血を噴き出しながら、制御を失った身体が痙攣しながら倒れる。

 茶髪の青年は、片手剣の血を振り払いながら腰に仕舞うと、私に手を差し出してきた。


「お怪我はありませんか?『女神』様」

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