異世界転生を司る女神の退屈な日常
第30話 「転生者たち」
エリカ達との食事を終え、図書館には寄らずに家に帰ってきた。
テンシから受け取った転生者の資料を読む為だ。
暖炉の前に座り、紅茶を用意して資料を広げる。
転生したのが遅い順から読むことにした。
一番最初に私がユニークスキルを与えた人間は————————
種族————————人間
名前————————エドリック=カートマン
年齢————————57歳
死因————————餓死
この時のことはよく覚えている。
初めての500ポイント持ちだった為、緊張してセリフを忘れてしまった。
マニュアルと睨めっこしながら転生させた記憶がある。
この人に与えたユニークスキルは『無死』だ。
目を閉じている間、つまり無視している間は無敵になるというスキルだ。
この頃はよく、エリカに朝たたき起こされていたので
眠っている間は邪魔されたくないと思い、生み出されたスキルだ。
エドリック=カートマンは、転生先でマリー=ザルロックという名で生きたらしい。
ユニークスキルを持つ転生者は、必ず魔王、またはそれと同等の存在がいる世界に生まれる。
マリー=ザルロックも例外では無かったが、争いに巻き込まれずに円満に生涯を終えたらしい。
自身が持つユニークスキルの存在には気づいていなかったようだ。
ユニークスキルの存在に気が付くことがないまま人生を終えるとは思わなかった。
元々は、魔王に対抗する為のスキルであるが、存在に気が付かないのであれば対抗する意思も芽生えないだろう。
反省してスキルを与えていかなければならない。
次の資料に目を通す。
種族————————人間
名前————————岸田 隆盛
年齢————————88歳
死因————————自然死
この人物は、死因が老衰だった。
実は老衰により死ぬ人間は結構少ない。
大半が事故死であったり、他殺であったりなのだ。
この人に与えたユニークスキルは『小耳にはさんだ小指』だ。
小指を相手の耳に入れると記憶を読み取れるというスキルだ。
これは、女神育成学校に勤めているある先生が
物事を思い出そうとするときに小指を耳に突っ込む癖があり、それを参考にした。
この頃から、ユニークスキルは戦闘にだけ用いるべきではないと考えていたので
日常でも使えるようにしてみたのだが…………。
岸田 隆盛は、カルラーオオタイリクガメという生物に転生していた。
水辺に生きる甲羅を持った非常に巨大な生物のようだ。
なんとまだ生きているらしい。
推定800歳~900歳となっている。並の女神より長生きだ。
どうやら、誰かの耳に小指を突っ込むことはなさそうな人生を歩んでいる。
…………魔王に対抗する為にユニークスキルを与えているのに
魔王に対抗する意思が芽生えるような生き物に転生させなければ意味がないのではないだろうか。
転生先の世界や生物は上層部決めているので、あとで確認を取ったほうがいいかもしれない。
次の資料は、ユニークスキル『お水男爵』を与えた人間だ。
このスキルは水をワインに変えることが出来るというスキルだ。
種族————————人間
名前————————ミネルヴァ=ランクル
年齢————————37歳
死因————————溺死
このスキルは、ミネルヴァ=ランクルが考案したものだった。
生前から大のワイン好きで、彼女の希望によりこのスキルを与えた。
ユニークスキルを与える理由を説明すると
彼女はこの能力をうまく使い魔王を圧倒してみせると豪語していたが、どうなっただろうか。
彼女は物心がついた頃から、この能力を自在に操れるようになっていたようだ。
水をワインに変えるという『奇跡』を起こす子供だとされ、彼女の国で崇められていたようだ。
しかし、それが戦争の火種になってしまった。
多くの国と争う中、彼女が原因だと考えた人間によって殺されてしまった。
つまり、私のせいで彼女は死んでしまった。
そう考えると、罪の意識が芽生える。
今まで考えたことはなかったが、そもそもユニークスキルを与えた生き物達は皆、死地に出向いているといっても過言ではないだろう。
資料を投げ出してため息を吐く。
前回、連続で5人もユニークスキルを与えた生き物達の資料は手元にない。
彼らもまた、私が間接的に殺しているようなものだ。
もっとよく考えてユニークスキルを与えればよかった……。
ソファーにもたれこみ、天井を仰ぐ。
喉が嫌に乾いて感じるが、紅茶を飲む気にもならない。
しばらくの間、そうしていろんなことを考えていたが、一人の転生者の資料を見ていなかった。
私の唯一の功績。魔王を討伐した転生者の資料。
投げ出した資料を拾い上げ、目当ての物を見つける。
種族————————子鬼
名前————————ブンジ
年齢————————25歳
死因————————ショック死
ブンジは酷く人間を恨んでいる子鬼だった。
仲間を皆殺しにされた挙句、自身は魔物使いに囚われてこき使われた。
そして最後には、見世物にされながら殺されたらしい。
彼が来世でも弱い生き物に生まれてしまったとしても、起死回生できるように『踏まれし者』のユニークスキルを与えた。
踏まれた相手より強くなれるというスキルであれば、彼がもう無残に殺されることはないだろうと考えたのだ。
皮肉にも彼は恨んでいた人間に転生し、魔王を討伐した。
つまり、無事に人生を万々歳で過ごしているわけだ。
勇者として称えられ、安定した生涯を送って…………?
その後の動向——————————————不明
資料の最後にそう綴られていた。
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