異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第17話 「図書館」

 
 図書館は女神育成学校の隣に位置する。
 普段は、女神や天使たちの教育の一環などで利用されている。
 というか、それ以外に利用する人が居ないのだ。

 しかし、本日はその図書館が大盛況だった。
 女神リッカが望んだ褒美により、図書館に人間の書物が大量に取り寄せられたからだ。
 様々なジャンルの小説や雑誌、写真集や漫画までもがあった。



「エリカちゃん!エリカちゃん!すごいの見つけた!」


 そう言ってエリカに『世界のグルメ:レシピブック百選』を見せた。
 どこかの異世界の料理が大きな写真と共に、作り方まで載っている素晴らしい本だ。


「やめろやめろ!そんなの見ても作れないし食えないんだぞ。
 こういう本のほうが役に立つぜ。」


 エリカが持っている本は『今すぐ使える!もしもの時の護身術』という本だ。


「エリカちゃん、天界に『もしも』って時は訪れないと思うよ…。」

「そんなこともないぜ、リッカ。ちょっとアタシの手首握ってみろ。」


 リッカはそう言われ、エリカが差し出した手首を握ってみる。


「ほいっ。」


 エリカが掛け声を上げるとともに、リッカの視界が一回転して背中から着地した。
 護身術とやらを使い、投げられたのだろう。


「……なっ?」

「『なっ?』じゃないよ!エリカちゃんひどい…。」

「はっはっはー。偉大なり護身術!
 もっと面白い本がないか探してくるぜ。」

 そういうと、エリカは目ぼしい本を探しに行ってしまった。


 私は一人で立ち上がり、羽衣を軽くはたく。
 投げられたことは少しだけ怒ってるけど、それよりもうれしかった。
 働き始めて以来、エリカちゃんの生き生きとした姿を久しぶりに見られたからだ。
 エリカちゃんもこの日常が退屈で仕方がなかったんだと思う。
 いや、きっと天界中の神々もそうだ。
 じゃあなんで、今まで表彰された神々は、このような『娯楽』を求めなかったんだろう。
 ………
 ……………


「…まあいっか。」


 少し考えてもわからないなら私には一生わからない!

 そう割り切り、リッカは自分も目ぼしい本を探しに図書館を歩き回った。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「役に立つ本か~…。」


 エリカの言った言葉が頭から離れない。
 材料がないからレシピ本はダメ。
 病気にもならないから健康本もダメ。
 エリカちゃんのように運動は得意じゃないから、護身術の本もダメ…。

 私が得意なことは…?
 飛ぶのは遅い、覚えも悪い、運動苦手……。
 強いて誇れることと言えば、魔力の量が多いことぐらいだ。
 だからと言って、魔法が得意なわけではない。


「とりあえず、魔法関連の本でも見てみよう。」


 私は、『魔導書コーナー』と書かれたところにやってきた。
 老いた神が少しいるくらいで、閑散としている。
 試しに分厚い本を一冊取り出してみた。

 ……驚いた。
 私たちと同じように魔力を使うのは一緒だが
 発動までの仕組みが根本的に違う。

 私たちは魔力を直接具現化して使う。
 火を起こしたいならパチパチと揺れる火をイメージして…
 水を出したいのならサラサラと流れる水をイメージする。
 それだけだ。

 人間は、私たちより魔力の扱いが下手なのであろう
 演唱などで言葉にしたり、魔法陣などで魔力の流れを制御しないと発動できないらしい。

 私は『想像』して魔法を発動するのが苦手なのだ。
 魔法陣や演唱を用いると、『想像』は必要なく発動できるらしい。
 きっとこれらは計算でいう『式』の役割なのであろう。

 この魔法のやり方なら、私も簡単に扱えるかも。
 そう思い、その魔導書を胸に抱えた。



 図書館を歩き回っていると、ほかのところより何倍もにぎわっているところがあった。
『漫画コーナー』というところだ。
 天使たちをかき分け、試しに一冊手に取ってみると、大部分が絵で構成された本らしい。
 なるほど、これなら場面をわざわざ想像しなくてもよい為、頭を空っぽにして読める。
 どちらかというと『天使向け』の本の種類かもしれないが、小説などよりこっちのほうが性にあう。

 どれか面白そうな漫画はないか探してみる。
『魔法少女アリス』、『ブルスコワンダーランド』、『般若』………
 タイトルに惹かれて様々な漫画を手に取ってみるが、どれも「これだ!」となるような内容ではない。

 なんといっても異世界中の漫画がここにある。
 これだけの膨大な量があれば、いくつか私にピッタリな漫画はあるだろう。

「気長に探そう。」そう思ったとき、一つのタイトルが目に入った。




 『向日葵』



 どこかで見たことがある。
 そんな気がしてその漫画を手に取った。
 向日葵畑で捨てられていた子犬を一人の男の子が拾い、一緒に成長していく物語のようだ。


 ……漫画の絵もストーリーも、どこかで見たことがあった気がした。
 パタンと閉じ、表紙をもう一度見ると『作家:香川道子かがわ みちこ』と書かれていた。

 転生させた人間にこんな人が居たのかな…?
 まぁ読んでいればいずれ何か思いだすだろうと思い、その漫画も借りることにした。
 連載中の漫画らしいので、時間がたてば新しい本が取り入れられるだろう。


 毎日少しずつ、大切に読んでいこう。

 そう思い、リッカはどこかへ消えた友人を探してまた歩き出した。




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