異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第8話 「踏まれし者 1」

 


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 子供というものは、愛情を注ぎ育てれば素晴らしい人間に育つという。
 これは本当のことなのだろうか。

 十歳の誕生日の日、俺は奴隷商人に売られた。
 母さんはこの為だけに俺を生んだのだ。
 俺を商人に売り渡し、金貨を受け取りながら言った言葉を忘れられない。


「売られると知らないこの子を育てるのは、とても滑稽だったわ。」


 ああ、母さん。
 父のいないこの家庭で
 あなたの為に頑張ってきたこの十年はなんだったのだろうか。
 農作業に励み、時には魔法を覚え
 披露した時にはとても喜んでくれたじゃないか。



 汚い街の汚い裏通り
 窮屈な檻に入れられ、商品として並べられた。
 商品を眺めるヤツらは、いろんな人種がいる。
 汚い身なりの爺さんや、派手な服を着たデブ。
 そいつら全員が恨めしく、殺してやりたかった。

 何日も経った頃、一人のガキが入荷した。
 空いていた隣の檻に入れられて騒いでいる。
 まだ6歳くらいだろうか…。
 毎日毎日、親が迎えに来てくれると信じて泣きわめいていた。

 夜になってもわめいていることがある。
 鬱陶しくて眠れやしないので、そんな時はこう言って脅すのだ。


「…おい。あんまり五月蠅いとアイツに殺されるぞ。」


 顎で商人を指すと、そいつはビクッとして声を押し殺して泣き始める。
 そうすることで、やっと俺は眠りにつくことができる。


 そいつが泣かなくなった頃のある晩、俺に話しかけてきた。


「ボ、ボクの名前は、アマンデオ。お兄ちゃん、ま…前まで、うるさくて、ごめんね?」

「もう泣かないか?」

「き、きっと、いつか、母上がボクのことを、見つけてくれる。
 だから、もう泣かないんだ。」


 おめでたい奴だな思いながら、アマンデオを見る。


「お前はどうしてここへ?」

「ま、街で母上のことを、待っていたら、急に黒い服の人たちが来て、連れてかれたんだ。」


 誘拐か。
 確かにそれなら迎えに来てくれる可能性はある。
『愛されている』なら。

 俺は、アマンデオが首に何かかけているのに気付いた。


「お前…それはペンダントか?」

「うん?これのこと?」


 アマンデオは麻の服からペンダントを取り出した。
 赤い盾に鳥の紋章が彫られているペンダントだった。
 俺はこれを見たことがある。


「アマンデオ。お前は、王族か貴族だったか?」

「う、ん。ボクの父上は、王様って呼ばれていたよ。」


 これは幸運だ。
 コイツは本当に親が迎えに来てくれるかもしれない。
 コイツに恩を売っておけば、一緒に助け出してくれるだろう。


「…俺の名前はバルトだ。」


 檻から手を伸ばし、アマンデオに握手を求める。


「お、兄ちゃん…!よろしくね。」


 アマンデオは小さな手を伸ばし、俺の手を握った。









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