異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第7話 「『勇者』の仕事は『魔王』討伐です」

「…それで?やっぱり怒られたのか。」


 場所は異世界研究課の食堂
 アイメルトの説教からようやく解放されたリッカは
 仕事終わりのエリカと食堂で合流していた。


「うぅ。ず~っと怒られてたよぉ。」


 涙目のリッカは机に突っ伏す。


「…あぁ。でもね、怒られただけじゃなくて褒められたよ。」

「なに褒められるようなことをしたんだ?」

「魔王を討伐したらしいよ?踏まれたら強くなる人。」

「それって…。昨日話した『踏まれた相手より強くなるスキル』を持つ奴がか!?」


 エリカは目を見開いて驚愕し、手をワナワナと震わせた。


「魔王を討伐するのは『勇者』だってお決まりだろ!?
 『勇者』のスキル持ちですら必ず討伐をできるとは限らないのに
 なんでそんな変なスキルを持った奴が…。」


 エリカが頭を抱えてうなだれる。


「狙ってやったわけじゃないんだけどねぇ?」

「それが問題なんだよ!」


『魔王』という存在に対するのが『勇者』
『魔王』が出現したときに対抗して送り出すのが『勇者』である。
 つまり、『魔王』という大きなエネルギーと同じくらいエネルギーを持つのが『勇者』なのだ。
 そして『勇者』は『魔王』がいるときにしか存在できない。
『魔王』がいなくなれば『勇者』もいなくなる。
 こうしてお互いにエネルギーを打ち消しあうことで、世界はバランスを保っている。


「『勇者』様も『勇者』のスキルを与えて送り出した女神も報われねえぁ。」

「えぇ?どうして?」

「極端に言うなら『評価』を横取りされたわけだ。『勇者』も女神も。」


 転生課の仕事は、ほかの課と違い必要とされる能力が少ない。
 つまり、女神であればだれにでもできる仕事なのだ。
 そして、転生課に属する女神が挙げられる唯一の大きな評価が『転生者の魔王討伐』なのだ。
『魔王』が生まれた世界に女神たちは我先にと『勇者』を送りこもうとする。



「それで?『姓』はもらえそうなのか?」

 評価が高い女神には『姓』が与えられる。
 それは『ヴォール』の姓を持つアイメルトのように『能力』手に入れるということだ。


「それがず~っと怒られてたから、聞きそびれちゃってわかんない。
 でも、近いうちに『表彰会』があるらしくて、それに出席するように言われたよ~?」

「『表彰会』?あぁ、学校に行ってたころ半年に一回くらいあったやつか。
 そうするとお前はだれかの『ついで』だな『ついで』。
 さすがに一回『魔王』を討伐したくらいで『姓』はもらえないよな。」

「さすがにねぇ。誰かすごいことしたんだろうなぁ…。」


 二人の前に小さなお皿が並べられる。
 本日のメニューは『仙人の愛する豆』
 小さなお皿の上には小さな豆が一粒だけ乗っている。


「…二日連続でハズレっぽいね。」

「あ~あ。仕事終わりの一番の楽しみだっていうのに…。」


 エリカは豆をひょいっと口の中に放りこむと、コリコリとした音がする。


「味は…しねえな。ただの豆だ豆。」

「味しないねぇ。」

「どこの世界だよこんな豆食ってるやつ。」


 空っぽになった皿を見つめ、エリカがぼやいた。




 ……

「そういえば…。」


 リッカがふとした様子でエリカに尋ねる。


「『魔王』がいなくなると『勇者』もいなくなるんだよね?」

「あぁ。正確には『勇者』のスキルが消え、『勇者』のスキルを持っていた生き物は普通の生き物に戻るってことだ。
 心配することはないぜ。『勇者』として生きてきたのなら『勇者』のスキルがなくても十分に生きられる。」

「や、私が気になったのはさ、バランスの問題なんだよね。」

「『魔王』もいなくなって『勇者』もいなくなればつり合いが……!」


 エリカがハッとした口を止める。


「私が送り出した『魔王』も倒してしまう力を持った『踏まれし者』はどうなるの?」

「……さぁな。」


 エリカは思いつめた様子で考え込む。


「……まぁ。まぁさ。」

「うん?」

「アタシたちの考えることじゃねえな!
 お偉いさん方に任せよう!」


 エリカはそう言うと、悪い予感を振り払うようにHAHAHAと笑った。






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