異世界転生を司る女神の退屈な日常
第5話 「ユニークスキルを与えます!」
本日の転生業務を終えた女神リッカは、研究課へ向かっていた。
仕事終わりの日課である「食事」をするためである。
「エリカちゃん待ってるだろうな…」
普段なら、転生課から研究課まで一っ飛びなのだが
寝違えたせいで翼が痛いので控えてみた。
「研究課 →」と書かれた案内板に従い歩くと、無機質な扉が現れる。
扉の前に立つと、音もたてずに自動で開く。
中を覗くと、赤い髪の女神が興奮した様子で立っていた。
「リッカ遅いぞ~!」
「ごめんエリカちゃん!羽が痛くてさ…」
「また羽で包まって寝たのか?あれが許されるのは甘えん坊の子供天使までだぞ…。」
呆れ顔のエリカに対して、リッカは必至で弁解をする。
「あれが一番落ち着くんだって!エリカちゃんもやってみなよ!」
「アタシはもうずっと前に卒業したの!」
「う~…。いいと思うのになぁ…。」
小さく折りたたんでいる翼をさらに萎ませ、リッカはうなだれる。
「…そういえばエリカちゃん、わざわざ入り口で待っててくれなくてもよかったのに?」
そういわれると、ハッとエリカは顔を上げた。
「羽の話なんでどうでもいいんだった!今日アタシのところに来たんだよ!」
「来たって…何が?」
「500ポイント持ちさ!」
500ポイント―――つまりそれは、転生する際にユニークスキルを付与させることができるということだ。
転生課で仕事をする女神の数は果てしないほど多い。
それに加え、ユニークスキルを与えるほど善良ポイントを持っている生物の数も少ない。
つまり、500ポイント持ちが自分のところに来る確率は非常に少ない。
「キリキリネズミの『キリキリ』って何だろうな。地名か?」
「鳴き声とかじゃないかな。」
リッカ達は食堂の円卓に座り、本日のメニュー「キリキリネズミのカリカリ焼き」が出来上がるのを待っていた。
「それで、ユニークスキルは何を与えたの?」
「本当は最強と言われる『勇者』のスキルが良かったんだが…。
どうやら今回の転生先には、既に『勇者』のスキル持ちがいるらしくてな。」
エリカは悔しそうに手をワキワキと動かす。
「でも、『剣聖』のスキルを与えたよ。魔法は扱えないが、剣の技術だけなら『勇者』に引けを取らない。」
テーブルの上に、お皿がゴトッと置かれる。
本日のメニューの「キリキリネズミのカリカリ揚げ」はとてもシンプルな料理。
10cmほどのキリキリネズミを串刺しにし、油で揚げただけだ。
「…もうちょっと工夫しないのかな。」
「研究も糞もねえな。」
悪態をつきながら、串を手に取る。
見た目はあまりよくないが、キツネ色のネズミからは香ばしい良い匂いがする。
意を決してかじりつくと、カリッと調子のよい音を立てる。
「カリカリ揚げ」という名の通り、カリカリに揚げられている。
塩加減も程よく、見た目のインパクトを忘れてしまうほどおいしい。
「でもさ、『剣聖』って結構普通じゃない?
もっと『ユニーク』なのにしなくていいの?」
リッカがカリカリとネズミをかじるエリカに問う。
「…?『剣聖』も十分にユニークだと思うんだが。」
「『剣聖』のスキルって最近付与された人が居るから、まだ消滅してないよ?
どの異世界にも居ない『珍しい』スキルにしないと、違反になっちゃうよ~?」
「んっ?」
「えっ?」
カリカリとネズミをかじる音が止み、二人間に静寂が生まれる。
「…リッカ。一つ聞こう。
『ユニークスキルはその世界に同じものが存在してはならない』というのは知ってるな?」
「知ってる。……うん?」
リッカはネズミを皿の上に置き、少し考える。
「エリカちゃん。さっきのもう一度言ってもらっていい?」
「ユニークスキルはその世界に同じものが存在してはならない。」
「…ちょっと私が知ってるのと違うかな?」
「『その世界』って部分だろ。」
エリカは残ったネズミの尻尾を口に放り込む。
「まさかリッカ。お前『どの異世界にも存在しないユニークスキル』を与えていたのか?」
「うん…。そうだよ。とーっても悩んだ。」
「だろうな。それで?どんなスキルを与えてたんだ?」
リッカは腕を組み、思い出しながら言う。
「え~っと…。『目を閉じている間無敵になるスキル』、『小指を相手の耳に入れると記憶を読み取れるスキル』、『水をワインに変えられるスキル』
一番最近だと、『踏まれた相手より強くなれるスキル』かな?」
「…転生者が報われないぜ。」
「だって知らなかったんだもん!」
涙目になりながら、ガタンと椅子から立ち上がる。
「まあ落ち着けって。使いようによっては何とでもできるスキルだぜ。」
「そうかもしれないけど~!……!?」
不意にリッカは名前を呼ばれた気がして驚く。
「…カ。リッカ。転生課、1115番女神リッカ。明日、女神育成学校へ出頭してください。」
サーッとリッカの顔から血の気が引く。
「…おい?どうした?」
「育成学校の…、アイメルト校長先生…。呼び出しされちゃった…。」
「それは…。話を聞かれたか?」
女神には、天使が「女神育成学校」を卒業した後になることができる。
学校の教師たちは、教育した女神たちが正しく仕事をしているか時々「査察」する。
査察した際の評価によって、大天使などの上位職に就ける可能性が上がる。
評価が低い場合は、「再教育」だ。
「そんなぁ~。どうしようエリカちゃん~。」
「アタシに泣きつかれても困る。とりあえず、今日はこれから一緒に弁解を考えような?なっ?」
しょぼくれているリッカの頭を撫で、エリカは立ち上がる。
エリカに手を引っ張られ、リッカはふらふらと歩き始める。
「うぅ~。胃が、胃がぁ…。」
「どうした?」
「胃が『キリキリ』するよぅ。」
仕事終わりの日課である「食事」をするためである。
「エリカちゃん待ってるだろうな…」
普段なら、転生課から研究課まで一っ飛びなのだが
寝違えたせいで翼が痛いので控えてみた。
「研究課 →」と書かれた案内板に従い歩くと、無機質な扉が現れる。
扉の前に立つと、音もたてずに自動で開く。
中を覗くと、赤い髪の女神が興奮した様子で立っていた。
「リッカ遅いぞ~!」
「ごめんエリカちゃん!羽が痛くてさ…」
「また羽で包まって寝たのか?あれが許されるのは甘えん坊の子供天使までだぞ…。」
呆れ顔のエリカに対して、リッカは必至で弁解をする。
「あれが一番落ち着くんだって!エリカちゃんもやってみなよ!」
「アタシはもうずっと前に卒業したの!」
「う~…。いいと思うのになぁ…。」
小さく折りたたんでいる翼をさらに萎ませ、リッカはうなだれる。
「…そういえばエリカちゃん、わざわざ入り口で待っててくれなくてもよかったのに?」
そういわれると、ハッとエリカは顔を上げた。
「羽の話なんでどうでもいいんだった!今日アタシのところに来たんだよ!」
「来たって…何が?」
「500ポイント持ちさ!」
500ポイント―――つまりそれは、転生する際にユニークスキルを付与させることができるということだ。
転生課で仕事をする女神の数は果てしないほど多い。
それに加え、ユニークスキルを与えるほど善良ポイントを持っている生物の数も少ない。
つまり、500ポイント持ちが自分のところに来る確率は非常に少ない。
「キリキリネズミの『キリキリ』って何だろうな。地名か?」
「鳴き声とかじゃないかな。」
リッカ達は食堂の円卓に座り、本日のメニュー「キリキリネズミのカリカリ焼き」が出来上がるのを待っていた。
「それで、ユニークスキルは何を与えたの?」
「本当は最強と言われる『勇者』のスキルが良かったんだが…。
どうやら今回の転生先には、既に『勇者』のスキル持ちがいるらしくてな。」
エリカは悔しそうに手をワキワキと動かす。
「でも、『剣聖』のスキルを与えたよ。魔法は扱えないが、剣の技術だけなら『勇者』に引けを取らない。」
テーブルの上に、お皿がゴトッと置かれる。
本日のメニューの「キリキリネズミのカリカリ揚げ」はとてもシンプルな料理。
10cmほどのキリキリネズミを串刺しにし、油で揚げただけだ。
「…もうちょっと工夫しないのかな。」
「研究も糞もねえな。」
悪態をつきながら、串を手に取る。
見た目はあまりよくないが、キツネ色のネズミからは香ばしい良い匂いがする。
意を決してかじりつくと、カリッと調子のよい音を立てる。
「カリカリ揚げ」という名の通り、カリカリに揚げられている。
塩加減も程よく、見た目のインパクトを忘れてしまうほどおいしい。
「でもさ、『剣聖』って結構普通じゃない?
もっと『ユニーク』なのにしなくていいの?」
リッカがカリカリとネズミをかじるエリカに問う。
「…?『剣聖』も十分にユニークだと思うんだが。」
「『剣聖』のスキルって最近付与された人が居るから、まだ消滅してないよ?
どの異世界にも居ない『珍しい』スキルにしないと、違反になっちゃうよ~?」
「んっ?」
「えっ?」
カリカリとネズミをかじる音が止み、二人間に静寂が生まれる。
「…リッカ。一つ聞こう。
『ユニークスキルはその世界に同じものが存在してはならない』というのは知ってるな?」
「知ってる。……うん?」
リッカはネズミを皿の上に置き、少し考える。
「エリカちゃん。さっきのもう一度言ってもらっていい?」
「ユニークスキルはその世界に同じものが存在してはならない。」
「…ちょっと私が知ってるのと違うかな?」
「『その世界』って部分だろ。」
エリカは残ったネズミの尻尾を口に放り込む。
「まさかリッカ。お前『どの異世界にも存在しないユニークスキル』を与えていたのか?」
「うん…。そうだよ。とーっても悩んだ。」
「だろうな。それで?どんなスキルを与えてたんだ?」
リッカは腕を組み、思い出しながら言う。
「え~っと…。『目を閉じている間無敵になるスキル』、『小指を相手の耳に入れると記憶を読み取れるスキル』、『水をワインに変えられるスキル』
一番最近だと、『踏まれた相手より強くなれるスキル』かな?」
「…転生者が報われないぜ。」
「だって知らなかったんだもん!」
涙目になりながら、ガタンと椅子から立ち上がる。
「まあ落ち着けって。使いようによっては何とでもできるスキルだぜ。」
「そうかもしれないけど~!……!?」
不意にリッカは名前を呼ばれた気がして驚く。
「…カ。リッカ。転生課、1115番女神リッカ。明日、女神育成学校へ出頭してください。」
サーッとリッカの顔から血の気が引く。
「…おい?どうした?」
「育成学校の…、アイメルト校長先生…。呼び出しされちゃった…。」
「それは…。話を聞かれたか?」
女神には、天使が「女神育成学校」を卒業した後になることができる。
学校の教師たちは、教育した女神たちが正しく仕事をしているか時々「査察」する。
査察した際の評価によって、大天使などの上位職に就ける可能性が上がる。
評価が低い場合は、「再教育」だ。
「そんなぁ~。どうしようエリカちゃん~。」
「アタシに泣きつかれても困る。とりあえず、今日はこれから一緒に弁解を考えような?なっ?」
しょぼくれているリッカの頭を撫で、エリカは立ち上がる。
エリカに手を引っ張られ、リッカはふらふらと歩き始める。
「うぅ~。胃が、胃がぁ…。」
「どうした?」
「胃が『キリキリ』するよぅ。」
「異世界転生を司る女神の退屈な日常」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
2,534
-
6,825
-
-
14
-
8
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
614
-
1,144
-
-
2,860
-
4,949
-
-
2,629
-
7,284
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
3,653
-
9,436
-
-
23
-
3
-
-
218
-
165
-
-
86
-
288
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
1,301
-
8,782
-
-
3,548
-
5,228
-
-
408
-
439
-
-
220
-
516
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
42
-
14
-
-
51
-
163
-
-
34
-
83
-
-
164
-
253
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
614
-
221
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント