異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第4話 「女神の朝」

 天界は陽が傾かない。
 つまり、夜が存在しない。
 その代わりに、天界では大気中に存在する「魔力」が周期的に変化する。
 大気中の魔力が少なくなると住人たちは眠り、多くなると活動を開始する。

「ん……。」

 中央区の西のはずれ
 森の中に建てられた大きな家がある。
 古ぼけた部屋の一角で、女神リッカは魔力の高まりを感じ目を覚ました。

 ベッドから身を起こし、伸びをしながら白い翼を大きく広げる。
 まどろみながら窓を開けると、新鮮な空気が部屋に流れ込んでくる。
 相変わらず、遠くのほうでは「中央局」が浮かんでいた。


 鳥のさえずりを聞きながら長い廊下を歩き、リビングにたどり着く。
 広いリビングには大きな暖炉のそばに木の椅子が二つと小さなテーブルが一つ。
 リッカはテーブルの上のポットを手にすると、玄関を開け外に出た。


 新鮮な空気をたくさん吸いながら、「んーっ」と大きくまた伸びる。
 軽い体操を終えると、家の裏にある小さな川へ向かった。

 少しひんやりとする丸石を素足で感じながら、転ばないように川へ近づく。
 川のそばにしゃがみこみ、手を差し込むと水の冷たさが腕の上ってくる。
 両手で水をすくい、顔を洗い寝ぼけた頭を起こす。

「ふわぁ~冷たい!」

 ピチャピチャと少し遊んでから、リッカはポットに水を入れた。


 家に戻ると、リッカはポットと火を中に浮かべ水を沸かす。
 戸棚から紅茶の葉とカップを一つ足りだし、机に並べる。

 沸騰したポットに紅茶の葉を入れ、軽く揺らす。
 透明な液体が、少しずつ紅く染まる。

 十分に色が染まると、カップへこぼさないように注いだ。
 砂糖をほんの少し入れ、一口すする。

「ふぅ……」

 長い間明かりの灯っていない暖炉を見ながら
 リッカは少しずつ紅茶を飲んでいった。


「……お仕事、行かないと。」

 空になったカップを片付け、支度をする。

 玄関の扉に手をかけ、つぶやく。

「いってきます。」

 誰もいない大きな屋敷に、リッカの小さな声が吸い込まれていった。


 中央局へ向け飛び立とうとすると、右の翼に鋭い痛みが走った。

「いっ…た?」

 困惑しながら、翼の動作を確認する。
 どうやら翼を開こうとすると痛むらしい。
 目立った外傷はない。

「あぁ…そっか。」

 寝違えたんだ。


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