プロローグ

　先の見えないほど白く長い廊下を一人の女神が歩いている。
　真っ白な羽衣に真っ白なロングヘアーが、一歩進むごとに気だるそうに左右へと揺れる。　
　彼女の左右には無数の石の扉が並び、その一つ一つに番号が書かれている。
　331…332…333…334………
　彼女はそれらを尻目に歩みを進めていく……。


　1115

「……はぁ」

　彼女は扉の前に立ち止まり、一つため息をついた。

「もう着いちゃった。」

　そうつぶやくと、純白の女神リッカは扉に手をかけた。



　天界―――それは神々が生きる世界。光沢のある石で建てられた大きな美しい造形の建物がいくつも立ち並び、青い空には天使たちが飛び交う……。

　そんな世界にひと際目立つ建物がある。それは天界のちょうど中央にある建物だ。
　それはとてもとても大きく、並の天使の飛行速度だと端から端まで半日も移動に時間がかかってしまう大きさだ。
　そんな巨大な建物にかかわらず、ふわふわと宙に浮いている。
　天界の中央区であれば、その建物「中央局」がかならず目に入るだろう。


　中央局は大きく二つ役割がある。まず一つ目が天界を管理する役割だ。ほかの局と連携を取り合う通信課。天使たちの学校を管理する教育課。神々の堕天を防ぐ監視課などがある。

　もう一つの役割が、異世界を管理する役割だ。無数に存在する異世界を制御することで、世界間のバランスを保ち、互いに干渉することがないようにする。

　様々な世界で死んだ生物たちを転生させる転生課。バランスを保つために異世界に干渉する奇跡課。異世界の文化を調査する研究課などがある。



「眠いなぁ～…」

　リッカはそうつぶやきながら扉を開け、先ほどとは打って変わった暗闇の世界へ足を踏み入れた。
　扉を閉めると跡形もなく姿を消し、暗闇の世界にはリッカの姿がだけが浮いている。

　ぐっ…と背伸びをしながらリッカが片手を突き出すと、そこに二つの椅子が召喚された。

「あ～。あ～。」

　声の調子を確認しながら片方の椅子に座る。
　長髪を整え、装飾用な光の玉を召喚し落ち着いた空間を作る。

　とろん…と眠そうだった目は、いつの間にかハッキリ開かれ、優しそうな瞳へと変化している。
　リッカは正面の椅子へ向き直り、暗闇の世界で一人つぶやく。

「1115番。女神リッカ、準備が整いました。対象者の転送をお願いします。」

　そう言うと、目の前の椅子が淡い緑色の光に包まれ、生物がそこに転送され始める。
「今日の転生ノルマは何人だったかな…」と転生を司る女神リッカは考えながら、対象生物へと注意を向けた。


　ただ毎日繰り返す転生。そんな退屈な仕事の毎日をリッカは飽き飽きとしていた。
　そんな彼女の本日最初の対象生物は人間界の爬虫類
　トカゲだった。