Heavy Days

柏崎 聖

第1話 季節の始まり1

 寒い。
 暖かいはずのこの季節は、まだ始まりを告げていなかった。
 冷たい風が肌に突き刺さるように肌につく。
 この季節が、一番似合うだろう彼女の容姿は景色によく映えていた。
 彼女の顔は涙に濡れていた。そして、ふと一言。

「あなたの事が好き...、好きよ」

 静かなこの場に、よく響いた。

「あぁ、俺もお前が好き...」

 最後の言葉まで届いただろうか。届いたかも分からぬうちに、俺は倒れ込んでいた。
 春の季節にふさわしい桃色の花びらが、空を待っていた。
 まるで、2人を祝福するかのように。



 季節の始まり

 春。別れの季節でもあり、出会いの季節でもある。
 青春時代で恐らく最も印象深いだろう。
 その真っ只中、高校生である人は皆一様にこの季節が好きだ。
 俺もその1人。
 俺の名前は、谷岡たにおか 研次けんじ
 高校3年生で性格が少し神経質の頭のいい学生だ。
 とか自分で言ってる時点で馬鹿なのだが。

 俺達が普段通っている、この桜山高校の校庭に咲く桜は今満開を迎えていた。
 今年で3年生になった俺は、高校生活の最後の1年に差し掛かっていた。
 折角の2年間、俺はただ勉強に集中していたが、最後の1年はしたいことをする。
そう心に決めていた。
 なぜなら高校に入った時からの目標があったからだ。
 それは恋愛。恋だった。

 これをやらないと卒業出来ない。絶対にやり遂げてやる!

 そんなことを考えていると、ふと後ろから声が聞こえた。

「おはよう、研次君」
「お、おはよう」

 驚きが声に出て、半分声が裏返っていた。黒髪のショートヘアーの女の子が近づいてきた。
 彼女は、山川やまかわ 由奈ゆな。俺のクラスメイトの1人で高校で知り合った女子の中で最も仲が良い。
 成績、性格ともに良く皆から慕われる模範の女子校生だ。

「久しぶりだね」
「そうだな、春休みは1度も会わなかったし」
「春休みはどうだった?」
「まぁ、家でずっと勉強してたかな。由奈は?」

 男子からも人気が高い彼女だが彼女には大きな欠陥がある。

「私は家でゴロゴロしてお菓子食べて、のんびりして...って何言ってんだろ私!」

 彼女は顔を真っ赤にしていた。
 そう、彼女の大きな欠陥とはこの事である。
 彼女は俺と同じ帰宅部であるが故に、家でだらだらするという模範生らしからぬところが玉に瑕なのだ。

 春休み。
 俺は帰宅部だから外出することはほとんど無く、今年大学受験を迎えるので勉強に励んでいた。
 ここまで2年間、目標である恋愛をしてこなかったのは、受験のために時間を割いていたからだ。
 目標がなんだったのかもいつもの間にか忘れて、気づけば3年生になっていたのだ。

「勉強しとけよ、暇ならさ。それに、せっかく可愛いんだから、そこら辺は直しておいたほうがいいと思うぞ」

 思わず本音が漏れてしまった。

「研次君ってやっぱり優しいんだね」

 顔を赤らめたまま俯き小声で呟いた。

「べ、別にそんなことは無いけど。それに...」
「それに?」

 言い出そうと思ったとき、予鈴がなった。
 予鈴の音は、春の風に乗って俺達のところまではっきり届いた。

「そ、それにもうすぐ始まるぞ!」
「そうだね、急がないと廊下に立たされちゃう」
「本当に立たされるのは漫画くらいだろ」

 俺ら2人は笑いながら教室へと走り出した。


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