暗闇が全てを吸い尽くす!漆黒のチート錬金術師。

山本正純

帰還

いつものように暗黒空間を周囲に配置しようとしていたラスの手が止まる。その異変にティンク自身も気が付く。
「聖なる三角錐の兄ちゃん。どうやら戦っている場合じゃなさそうだな。鳥たちが騒いでいる。何かの予兆だろう」
ティンクがいうように、公園に生息する鳥たちが大きく鳴いていた。響く鳥の鳴き声を聞きながら、ラスは空を見上げる。
そして、思わぬ異変を前にして眉をひそめた。
「はい。原因は分かりませんが、円状の空間の歪みが確認されました。そこから光が漏れていますね。こんな現象は初めてです」
二人の話を傍で聞いていたティンクの連れの少女は首を傾げる。
「空間の歪みなんて見えません」
「ヘルメス族には見えるんだ」
ティンクに耳打ちされた連れに少女はようやく納得した。
続けてティンクがラスに尋ねる。
「本当に歪んでいるだけか? 天変地異でも起きるんじゃないのか?」
「確証はありませんが、おそらく……」
言い切るよりも早く、光の速さで上空から何かが飛んできた。ソレが落下したと思われる地点から白煙が昇り始める。


まさかと思ったラスは、一瞬消えた。そして、ソレが落下したと思われる地点に瞬間移動。そこはエレクトプラズムの洞窟の出口。
直撃した出口は、瓦礫で塞がっていた。
被害を確認したラスは、再びティンクの前に姿を現す。
「天変地異で間違いないようです。あの歪みの影響で、エレクトプラズムの洞窟の出口が塞がっていました。おそらく、アレが光輝いた時、アルケアは滅びます」
「何とかならねぇのか?」
「暗黒空間で、あの空間の歪みを取り込んでしまえば対処可能です。しかし、容量が足りません。威力を下げることは可能ですが、最低でも周辺の数十の都市が文字通り消失します」
「そうか。それで、周辺の数十の都市が滅びるまでどのくらいかかる?」
「少なく見積もっても、一分です。一分もあれば、僕達だけでも安全なところへ避難できます」
「そんなの許されるわけがありません!」
突然ティンクの連れの少女が声を荒げた。その少女の瞳は正義感で燃えていた。それを見たラスが尋ねる。
「魔法陣を書く物を誰か持っていませんか?」
この問いを聞いていたマキは右手を挙げる。
「持っていますよ」
そう言いながらマキはラスに白いチョークを渡す。受け取ったラスは視線をティンクの連れの少女に向けて質問を続ける。
「もう一つお聞きします。あなたの絶対的能力は何ですか?」
「触った物を何でも壊すことができるようです。この手で触れてしまえば、どんなに熱い炎でもたちまち消えてしまう」
不安を取り除いたヘルメス族の少年は、一秒ほどで魔法陣を地面に記した。すると、魔法陣の上で竜巻が発生。それは空間の歪みの近くまで飛んで行った。
「この魔法陣の中心が、空間の歪みから発される何かの落下地点です。手短に作戦を説明します。まずティンクさんは、魔法陣から少し離れた位置で、この槌を叩いてください」
説明しながら、赤と緑のツートンカラーの槌を五大錬金術師に投げる。
「紅蓮風神の槌か」
「はい。五大錬金術師なら使いこなせて当たり前です。ということで、連れの少女をお借りします。僕が消えたら、すぐに叩いてください」
ラスは唐突に連れの少女の右手を掴む。そして、すぐに二人は五大錬金術師の前から姿を消した。


それに合わせ、ティンクが紅蓮風神の槌を叩く。魔法陣が出現したのと同時に、消えたラスたちが現れた。
「今です。飛んでください」
ラスの指示を聞き、ティンクの連れは魔法陣の上でジャンプした。同じくラスも飛ぶ。
二人の体は文字通り空を飛び、発生した竜巻の中に飲み込まれていく。
同時期、ラスは空間の歪みを暗黒空間で覆い、片手で紅蓮風神の槌と同じ魔法陣を記す。
「これで届きます。左手を上に」
ティンクの連れの少女の左手は、見えない何かに触れた。その瞬間、ラスの目に見えていた空間の歪みから漏れる光が消える。
世界が救われる瞬間をこの目で見届けたラスは、連れの少女と共に瞬間移動で、安全に着地した。


丁度その時、ラスの前にあの男が姿を現した。その男の隣には、幼い少女。
「ルスお姉様と依頼主」
早過ぎる帰還にラスは途惑った。一方でティンクと連れの少女は、突然現れた謎の人物の存在に首を傾げた。そして、マキ・シイナは思わず目を丸くする。
ルスはラスとの久しぶりの再会に涙する。
それから依頼主は、マキの存在に気が付き、溜息を吐く。


「大体のことは分かります。異世界転生して、絶対的能力者になったと。そして、その能力によってクルスやティンクを呼んでしまった。
EMETHシステムの解除方法を探しているのだから、来て当たり前なことも分かります。しかし、ラスとティンクたちと邂逅は、もう少し後のはずなんですよ」
メタ発言を連発する謎の人物の声を聞き、ティンクは思い出す。
「その声、俺にカクヨム杯とかいう大会に参加しないかと言ってきた奴だな」
「はい。その件でしたら、怒っていません。まさか、こんなことになっていたなんて。一応、ラブの所に寄っておいて助かりました。ということで、ルス。アレを試してください」
「分かったのです」
ルスは依頼人と視線を合わせ、一瞬の内に複雑な魔法陣を書きあげた。それと同時に、依頼主はマキに近づいて、彼女の右肩に触れる。
「ラス。依頼料は次の機会にお支払いします。僕はこれから、彼女を転生させた神とケンカをしに行きますから」
そう告げると依頼主はマキ・シイナと共に姿を消した。一方でルスが記した魔法陣が一つの巨大都市全体を包み込むほど大きくなり、ピンク色に点滅する。
発動から数秒後、ルスはラスの太ももに触れ、ティンク達の目の前で消えた。


「ルスお姉様。何をしたのですか?」
二人きりの研究室の中でラスが尋ねる。
「依頼主からの紹介で、ラブっていう人に会ったのです。その人は、特定の人物に関する記憶を消すシステムを開発していたそうです。それを応用して魔法陣にしたのが、さっきの奴なのです」
「一つの街にいた不特定多数の人物の記憶から、マキ・シイナの存在を消去したということですね。流石です。ルスお姉様」
ラスに褒められたルスは、笑顔になった。それからルスは、目を輝かせてラスに詰め寄る。
「忘れていたのです。ラスが暗黒空間に封じ込めた二十階級魔法の解析」
これからルスはラスと共に二十階級魔法という未知の存在を如何にして錬金術に変換するのかという研究を始めた。


「椎名真紀をアルケアへ転生させた神というのは、あなたですね? 預言者さん」
真紀から話を聞いた依頼主は、神と名乗る人物を相対している。預言者と呼ばれた巨乳の女は頬を緩ませた。



完結

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