暗闇が全てを吸い尽くす!漆黒のチート錬金術師。

山本正純

二年ぶりの訪問者

遂に始まったカクヨム最強キャラクター決定トーナメント。トーナメント表抽選会の日、ラス・グースに参加を依頼した男は、彼らが宿泊するホテルの一室を訪れた。
一度ノックしてからドアを開けると、そこには仲が良い姉弟がホテルのベッドの上で横になっていた。
「ラス・グースさん……」
そう呼びかけながらホテルの一室に足を踏み入れた依頼人の男は、床に描かれた魔法陣に気が付き、思わず立ち止まった。
気が付いた時、ベッドの上から姉の姿が消え、男は困惑する。そして、突然男の目の前にルス・グースが現れた。
ルスはその場にしゃがみ、床に描かれた魔法陣を触ろうとする。まさかと思った彼は慌てて両手を振った。
「ストップ。待ってください。お忘れかもしれませんが、僕は依頼人です。二年ぶりに連絡した……」
そこまでの説明を聞き、ルスは動きを止める。何とか彼女の絶対的能力、床に刻まれた魔法陣を触ると暴発する『錬金術爆弾』を回避した依頼人は、安心した表情を浮かべた。
「あなたが依頼人なのですか? お久しぶりなのです」
ルスは笑顔で頭を下げる。
「お久しぶりです。錬金術爆弾で殺す気満々でしたよね?」
こういうことに慣れている依頼人は、淡々とした口調でルスに尋ねた。
「そうなのです。対戦相手さんの奇襲に備えていました」
「奇襲なんてしないと思いますが。ところで、ラスは起きてますか?」
「最初から起きてますよ」
ラス・グースはベッドから起き、依頼人と顔を合わせる。
「そうでしたか? 二年ぶりの再会を祝福したいところですが、その前にカクヨム最強キャラクター決定トーナメントの抽選結果が発表されました」
「そのことなら分かっていますよ。抽選会をルスお姉様と見学していましたから。僕は五回勝たないと優勝できないようですね?」
「そうですよ。ということで有無を言わさず対戦相手紹介です」
話を聞かない依頼人の男は両手を一回叩いてから黒色のファイルを取り出して見せた。
「名前はブラック・ヒーター。本名はクロツグ・アマグモ。二十歳。ご存じラス・グースの次の対戦相手です。写真ですが、残念ながら入手できませんでした。噂によれば、呪脳反撃符という自分の姿を視認した時に、自動的にその相手の記憶を消したりする魔法の効果のようです」
「なるほどなのです」
ルスが頷いてから、ラスは腕を組んだ。
「高度な魔法が使えるんですね」
「その通りです。資料によれば、剣術もできます。また攻撃を防ぐマントも装備しているため、背後からの奇襲は無意味でしょう。一応資料を置いておきますから、参考程度に読んでおいてください。作戦はおふたりにお任せします」
「丸投げなのですね?」
ルスがジッと依頼人の顔を見つめてくる。すると、依頼人の男は頭を掻く。
「僕は監督ではありませんからね。依頼人です。ということで、対戦を楽しみにしていますよ。巷では、白黒対決として騒がれているようですから、恥ずかしくないようにお願いします」
頭を下げて、依頼人の男はホテルの一室から立ち去った。
それから部屋に残った姉と弟は、依頼人から受け取った資料を読み始める。




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