異世界はチートなカードで乗り切ろう!?

田中 凪

60.1-Sという脅威

1週間が経ち、いよいよ闘技祭当日になり、学年ごとのトーナメント表が発表された。このトーナメントはクラス関係なく実技の評価が高い者をシード枠にしているため、Sクラスの中の数名は1回戦から出る必要があるが。
「さてみなさん、いよいよ闘技祭ですね。今日は同学年との試合です。実技の授業はどのクラスも同じなので、あとは地力の勝負となります。頑張ってくださいね」
開会式が行われる前にゾルダはそう言ってクラスを激励した。
開会式では、学園長の挨拶と生徒会長の挨拶、そして国王の挨拶もあった。あの人そんなに暇じゃないはずなのにな…無理してでも娘の晴れ姿を見に来たのかな?
と、ハルトは思っていたのだが、開会式が終わった直後に国王に呼び出され、王城まで転移するように頼まれた。また、シストリナの出番がきたら闘技場に転移させるように、とも頼まれた。
「頼んだぞ」
「あっはい」
あまりにも自然に頼まれたので、つい了承してしまった。シストリナやハルトが出場するのは午後となっている。そのため、時間はそこそこあるのでのんびり観戦することにした。
「やあハルトくん、隣いいかい?」
「いいですよ。ラヴァールさん」
そんなハルトに声をかけたのはこちらも午前中は暇を持て余しているラヴァールだった。
「今年以降は君のクラスに荒らされそうだね。学園長権限で出禁になるかも」
「あぁ、ありそうですね。僕が教えていると、どうしても魔法の威力や精度がありえないほど上がりますからね」
「羨ましい限りだよ。おっ、始まるみたいだね」
ラヴァールと雑談していると、1年生の第1試合が始まった。
試合は、やはり長引くことが多く、予定通りには進んでいなかったが、フィーリアの出番になった。
「彼女は確か、実戦と筆記の合計でギリギリSクラスに入った子だね」
「えぇ、ですが、ここ数ヶ月の特訓の成果もあるので別人と言ってもいいほどになりましたよ」
「だろうね。楽しみだよ」



時は少しフィーリアが闘技場に出てくる少し前に遡る。
「わ、私ほんとに勝てるのかな…」
「なーに情けない顔してんのさ。ハルトが『同学年の他クラスであなた達にかなう人はいないので自信をもってこの闘技祭に臨んでください』って言ってたでしょ?」
未だに自信が持てず、クヨクヨしているフィーリアにリヴィアが話しかける。
「だ、だって…私、まだ模擬戦で一回も勝てたことないんだよ?それにそれに魔法もみんなと比べてそこまで強くないんだよ?」
「バカねぇ、それは”私たちの中”で見た場合でしょ?他のクラスの模擬戦を見たときに『楽そうだな』って思ったでしょ?なら平気よ。頑張っていってらっしゃい」
「う、うん!ありがとうリヴィアちゃん。行ってくるね」
フィーリアの初戦の相手はBクラスのレオルスだった。彼は近接戦を主体としており、一般的には遠距離戦を主体とするフィーリアは不利である。が、ハルトは後衛でも自衛ができるようにと近接戦闘をメインで教えていた。というのは建前でハルトは魔法は教えられてもその他の弓等の遠距離武器の扱いは教えることができない。というのが本音であったりする。
フィーリアは緊張しながらも舞台に立つ。
『さぁて1回戦第10試合の選手が揃いました!先に登場したのはSクラスのフィーリア=ロドシー!子爵家のご令嬢で弓による遠距離攻撃が得意です!このような闘技祭では不利と言えるでしょう!対するはCクラスのレオルス!Bランク冒険者パーティ【ジャイアントクロウ】のリーダー、ロッソの息子で、近接戦闘をその父親から教えられています!遠距離対近距離でなおかつ距離を開けられないこの状況をどうひっくり返すのか!必見です!』
「両者見合って!……試合、開始!」
「速攻で終わらせてやらぁ!」
開始の合図とともに仕掛けたのはレオルスだった。その踏み込みは年齢を考慮すると目を見張るものがあったが、それ以上に鋭い踏み込みを見慣れているため、フィーリアは「あ、なんかいけそう」と思った。
後衛職にあっさりと初撃をかわされ、レオルスは少しではあるが驚く。所詮は後衛職だと思い、甘く見ていた。しっかりと意識を切りかえて動こうとした瞬間…
「う、動けない…?」
フィーリアがすでに魔法を発動し、植物に絡まれて身動きが取れなくなっていた。
「これで終わりです!【リーフストライク】!」
フィーリアの詠唱により、レオルスの動きを封じていた植物から無数の葉が出現し、滅多打ちにされる。
「そこまで!勝者、フィーリア!」
「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」
一瞬のできごとではあったが、目に見えない速度での攻撃、というような分かりにくいものではなかったためかフィーリアに多くの賞賛が贈られる。
『一瞬で決着がついてしまったぁぁぁぁ!!強い!強すぎる!クラスが違うだけでここまで差が出てしまうのか?!これは他のSクラスのメンバーにも期待が持てそうです!』
そんな観客達を、実況の生徒は更に煽るようにそう言った。



「…強いね。僕らでも気付きにくいほどの隠密性を持ったバインド系の魔法を使えて、そのまま攻撃にも使えるときた。自信なくしちゃうよ」
「フィーリアはもともと魔法を隠すのは得意でしたからね。魔力制御ができるようになってくれば更に察知させにくくできますよ」
「おそろしいね。そして何より、羨ましい」
ハルトの魔力制御力は国の魔導師長よりも遥かに高く、その力の一端に触れられる1-Sの面々にラヴァールは嫉妬していた。ラヴァールは強くなることに貪欲であり、日々強くなる方法を模索し、苦悩していた。そんな中でスルスルと強くなっていく後輩達を見て羨ましいと思うのは自明の理であろう。
「僕もハルトくんに教えてもらおうかな…」
ふと、そんな言葉をこぼしたラヴァールにハルトは
「でしたら、色々と条件はありますが、放課後の特訓に参加しますか?」
と提案した。遥斗の思惑としては、邪神の軍勢の進行に対抗出来る人間は多ければ多いほど守れるものが増える。また、ラヴァールは生徒会長をやっていることもあり、それなりに勉強もできるので、地球の知識を教えてもすぐに覚えられるだろう。というのもあった。
「本当かい?!それなら闘技祭の今日の分が終わったら頼むよ!」
ハルトはラヴァールの食いつきっぷりに若干驚くも肯定する。
「はい、先程言ったように条件はありますが…それと、さすがに今日からは無理ですよ。体の負担が大きすぎて明日戦えなくなります」
「戦えなくなるのは困るな。仕方ない、闘技祭が全て終わってからにしよう」
「えぇ、そうしてください」
そんな話をしていると今度はリヴィアの出番になっていた。
「彼女は現宮廷魔導師団の団長の娘さんで基本属性なら全部扱えるけど魔力操作がおぼつかなかった子だよね?」
「そうです。それにしても全員覚えているんですか?」
「Sクラスのメンバーならね。今年はなかなか質が高いしね」
ラヴァールはハルトを見ながらそう言った。
「…そうですか」



「…さて、いきますか」
リヴィアは自分の頬を叩いて気合いを入れ直すと舞台に立つ。初戦の相手は幸いにも、同じ魔道士タイプであった。
『さあ、次の試合は魔道士対魔道士となっております!大迫力の法撃戦となるでしょう!それでは選手の紹介です!まずはフレア王国の現宮廷魔導師長のご令嬢であるリヴィア=イクラス!基本属性全てに適性を持っているという脅威の新入生です!しかし、魔力操作がおぼつかず、その長所を活かしきれていません!学園に入学してからどれほど成長したのか、必見です!そんな彼女の対戦相手はエクロッド=アヴァンタール!こちらはフレア王国の第1宮廷魔導師隊の副隊長のご子息で、基本属性3つに加え、特殊属性を1つ持っています!宮廷魔導師のナンバーワンとナンバースリーの代理戦のような構図となっています!』
「両者見合って!……試合、開始!」
試合開始の合図とともに両者が魔法を展開する。
「おや、そんなに魔法を展開して大丈夫かい?そんなことやったら君は暴走してしまうんじゃ…」
「私だっていつまでも昔のままじゃないのよ。今までの私だと思って舐めてかかったら痛い目見るわよ?」
エクロッドの記憶ではリヴィアは1つの魔法を制御するので精一杯だったはすだが、彼女は現在、10個ほど展開している。正直、成長が急すぎて驚いているほどだ。
「そうみたいだね…」
その成長ぶりをみて気を引き締め、更に展開する魔法を増やす。



この場にラヴァール以外の上級生がいたら卒倒しているであろうこの試合を観戦しながら本当に1年生同士で間違いないのかを疑問に思ったラヴァールは、ハルトに尋ねる。
「これ、本当に1年生同士の試合かい?」
「上級生のものを見ていないのでわからないですがそのハズです…」
が、ハルトもこれほど高レベルな戦いであるとは思っていなかったため困惑しているようだった。



魔法の展開を終わらせ、2人が動いたのはほぼ同時だった。
「いっけぇぇぇ!!」
「今日こそ勝たせてもらうわ!」
魔法がぶつかり合い、互いに相殺する…ように思われたが、数ヶ月間ハルトの指導を受け地球の知識を学んだリヴィアの魔法の方が威力が高く、殺しきれなかった威力がエクロッドに向かってくる。
「バカな?!」
回避をしようとすると自分の足が植物のツタに絡まれており、動けないことに気づく。
「くっ、我が身を守れ!【ロックシールド】!」
回避ができないと悟ると即座に防御魔法を発動し魔法を防ぎきった。が、魔法が【ロックシールド】に当たる時に生じた土煙に乗じてリヴィアが詰めてきていた。
「油断しすぎよ」
「なっ?!」
いつの間にか接近していたリヴィアにナイフの先端と魔法陣を突きつけられ降参する。
「そこまで!」
『素晴らしい法撃戦を制したのはリヴィア=イクラスだぁぁ!この法撃戦は上級生のものにも見劣りしないほどの迫力でした!2人に盛大な拍手を!』



フィーリアとリヴィアが危なげなく1回戦を突破し上機嫌なハルトに対し、ラヴァールはとんでもない集団になってしまったと頭を抱えた。
その後も試合は順調に進み、1-Sの面々は圧倒的な強さを見せつけ、次々と駒を進めて無事一日目を終えた。


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