攻略対象外だけど、好きなんです!

藤色

7 「巨大飛行船に乗船!」

 遠くから話し声が聞こえる。耳を澄ませると、聞こえてくるのは二人の男の声だった。二人の声色は楽しげで、能力者のことを話しているようだった。
 声音からして、前世ではよく聴いた、砂原くんと伏見くんの声だった。

……二人が!!そこに!!いる!!

 前世から何度も願ったことが、今まさに叶えられようとしている。
 私は心の底から湧き上がる、『大好きです』と伝えたい気持ちを押し殺し、ふんわりとはにかんだ。

「こんにちは。突然だけど、君たちが新しい能力者?」

 砂原くんはにこやかに私たちに話しかけた。
 その姿はまさしく美少年であり、好青年でもあった。
 会いたかったという気持ちときらきらと太陽に照らされた金髪と相まってか、砂原くんは神のように光り輝いていた。
 話しかけられたことが嬉しくて涙が出てしまいそうな気持ちを抑え、質問に答える。

「え、ええ。私たち二人とも、能力者です。」
「そっか。じゃあ、自己紹介といこうか。俺は砂原 隼。気軽に隼って呼んでよ。これからよろしくね。」

 そう言って、彼は私と隣の美澄くんに握手を求めた。
 自己紹介されなくても、砂原くんのことは前世からよく知っているのだが、ここで明かすのはやめておかないと大変なことになるだろう。
 それに、彼に引かれるのは私も嫌だ。
 そんなことを考えつつ、砂原くんからの握手に応え、美澄くんも握手を終えると、隣にいた伏見くんが挨拶をした。

「俺は伏見 和樹だ。和樹と呼んでくれ。」

 伏見くんとも握手を済ませると、今度は美澄くんが口を開いた。

「僕は美澄 紬と言うんだ。紬と呼んでくれると嬉しいよ。これからよろしくね。」
「私は入須 雪月です。気軽に雪月と呼んでくださいね。これからよろしくお願いします。」

 美澄くんに続き挨拶をし、私は砂原くんからの好感度を上げるべく、さりげなくふわりと微笑んだ。

「ところで、この船には他に人はいるのかな?」

 美澄くんが聞く。

「今のところは、僕ら二人だけかな?……あとは、ヒヨコさんがいるっけ。」
「ヒヨコさん、ですか?」
「んーー、説明しづらいんだけど、……あ!ほらほら、あそこにいるのがヒヨコさんだよ。」

 そう言って、砂原くんは船内の掃除をしているヒヨコさんを指さした。 ヒヨコさんの存在は前世でも可愛かったが…これは想像以上かもしれない。
 特注品なのか、サイズの合ったメイド服を着ているヒヨコさんは楽しそうに掃除をしていた。時折、バランスを崩したのか、こけてしまうヒヨコさんには、思わず手を差し出したくなる。

「か、可愛いですね…♡あれがヒヨコさんですか?」
「うん。そうだよね、和樹?」
「ああ。」
「ふふ、可愛いですね〜!とても癒やされます。」
「そうだね。……ところでさ、お腹空かない?」

 砂原くんの声を聞いて、手元の腕時計を確認する。
 針は12時を指していた。

「あら、もうこんな時間なのですね…。確かに、お腹が空いてきました。」
「二人って、料理とかできたりする?」
「僕はできないけど…雪月はどう?」
「趣味程度ですが…、少し嗜んでおります。」
「趣味程度でも十分だよ!実は俺たち、他に料理ができる人がいなくて、困ってたんだ!……頼めるかな?」

 実は、二人が料理が得意ではないのは知っていた。
 だからこそ、私はこれまで料理を猛特訓したのだ。
 今まで料理を練習していたのは、まさに今日のためだと断言してもいい。
 私は遠慮がちに目を傾け、頰を赤らめた。

「わ、私で良ければ…ぜひ……!」
「じゃあ早速、食堂に行こうか。」






 厨房に着いた私は、冷蔵庫に保存されている食材を確認する。中には豚や牛、鳥と言ったお肉から、ブロッコリーやほうれん草など、何から何まで少しずつ置いてあった。
 ……ここは、私の一番の得意料理を披露しようかな。
 作る料理を決めた私は、慣れた手つきで卵を玉子焼きへと変化させた。
 匂いにつられたのか、三人が厨房に入ってきた。

「うーん、いい匂いだね。すごく美味しそうだ。趣味程度とはとても思えないよ。」

 砂原くんが「料理、とても上手なんだね」と感嘆の声をあげた。
『天にも昇る心地』の意味が、今ならよくわかる。
 生きてて、よかった…!!

「ふふ、ありがとうございます。」






 全員分の料理を並べると、砂原くんが声をかけた。
 私たちは手を合わせ…

「料理、揃ったかな?…じゃあ、いただきます!」
「「「いただきます!」」」

 まず、最初に自信作の玉子焼きを口に入れる。
 砂糖の甘さと、少量入れた塩が丁度よくマッチして、自分で言うのも何だが、すごく美味しい。

「すっごく美味しいよ、さすが雪月。」

 美澄くんが褒める。
 美澄くんのお墨付きを頂いたということは、結構いい線いっていると思う。

「あ、それ俺も言おうと思ってたのに!……雪月、とても美味しいよ。ありがとね。」
「そ、そんな……。ありがとう、ございます。」

 砂原くんにも褒められた私は心の中でつぶやく。
(神様仏様隼様ありがとうございます!!)

こうして私は、幸せな昼食を終えたのだった。




「「「「ごちそうさまでした。」」」」
「あー、美味しかった。これからも、料理は君にお願いしてもいいかな?」

 私は「もちろん!」とはにかんで答えた。

「私にできることなら、何でも任せてください!」
「ありがとう。よろしく頼むよ。……じゃあ、お礼と言ったらなんだけど、和樹、二人に船の中を案内しようか。」
「ああ。」


 こうして私たちの飛行船での生活は、順調なスタートを切った。



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