消えたCDケース

山本正純

消えたCDケース

給食が終わり、昼休みが始まる時間。ある小学校の教室で、その長髪の少女は推理小説を読んでいた。
校庭から蝉の鳴き声が鬱陶しい程聞こえて来たが、ピンク色のフレームの眼鏡を掛けた彼女は気にしない。
そんな中で、おかっぱ頭の同級生が少女に声を掛ける。
優希ゆきちゃん」
自分の名前を呼ばれ、彼女は視線を文庫本から目の前に立つ友達に向けた。
冬香ふゆかちゃん。もしかしてCDのこと?」
要件を先に言われ、冬香は首を縦に振る。
「うん。金曜日に約束した通り、持ってきたよ。探偵の交響曲のサントラ。ちょっとした事件があって、約束守れないかもって思ったけど」
そう言いながら冬香は優希の机のCDケースを置く。すると、優希は事件という言葉に反応して、目を輝かせた。
「事件って何?」
そう尋ねられ、冬香は事件の概要を説明する。
「このケースが消えたの。約束した先週の金曜日までは、確かに自分の部屋の机の上にあったはずなのにね。土曜日の朝になったら、机の上に付属のブックレットしか残されていなかった。CDはプレイヤーの中にあったけどね。それで、今朝CDケースが私の部屋の机の上に戻されていた」
「つまり、盗まれたのはCDケースのみ」
優希は顎に手を置き考え込む。その仕草に合わせて冬香は頷いた。
「なんでCDケースだけがなくなったんだろう。ミステリファンの優希ちゃんなら分かるかな?」
「事件の概要だけで犯人は推理できないよ。内部犯だとすると、容疑者は冬香ちゃんの家族ということになるけどね。CDケースだけ盗んで、今朝盗んだ物を返しに行く泥棒なんて聞いたことないし。ということで、先週の土曜日の容疑者の行動を教えて」
冬香は思い出しながら、優希に話す。
「家は私も含めた六人家族だって前に話したよね? 先週の土曜日なら、お父さんとお母さんは家のリビングでゴロゴロしてたよ。長男の一春いちはるお兄さんは、朝からキャンプに出かけていていなかった。長女の夏子なつこお姉さんは、友達の家でDVD鑑賞をやりに出かけていたなぁ。自分が持ってるイケメン俳優が主演の連続ドラマを友達の家のホームシアターで一気見するんだって話してた。次男の秋和あきかずお兄さんは、友達にゲームを借りに友達の家に出かけたよ。家に帰ってきてからは、部屋に引き籠って据え置き型のRPGゲームをやってたみたい」
容疑者たちの行動を知り、優希は再び唸る。
「一番怪しいのは秋和お兄さん。その友達がゲームのパッケージを無くしたから、代わりに空のCDケースを持って来いと要求したパターン」
この推理に冬香は異議を唱えた。
「残念だけど、それは違うよ。秋和お兄さんと夏子お姉さんが帰ってきた後に、二人の部屋を調べたから。だけど、ケースは見つからなかった。一春お兄さんの部屋も調べたけど、なかったし。その時にお兄さんたちに訊いてみたんだけど……」
「何だって?」
優希は興味津津に冬香の顔を覗き込む。
「秋和お兄さんはハッキリと知らないって言ってたよ。夏子お姉さんは、DVDをファイルに入れて保管しているから、わざわざケースに入れるはずがないと首を横に振った」
「一春お兄さんは?」
この問いに冬香は眉をひそめた。
「一春お兄さんには話を一度も聞けてないの。私は早寝遅起きだから、キャンプに出かけた時や帰ってきた時にも顔を合わせていない。お母さんが言うには、一春お兄さんは昨日の夜に帰ってきたみたい。今朝も一春お兄さんはサッカー部の朝練に出かけたよ」
「なるほど。三人目の容疑者の聴取は終わっていないって……」
優希が言い切ろうとした時、冬香は何かを思い出したように大声を出した。
「思い出した。事件とは関係ないかもだけど、返ってきたケースから微かに線香の匂いが」
この証言を聞き、優希は頬を緩めた。
「分かったよ。一春お兄さんがCDケース消失事件の犯人だって」
突然推理が始まり、冬香は驚く。
「なんで一春お兄さんが犯人なの? ただ話を聞けていないだけで犯人と決めつけるのはおかしいと思うけど」
「犯人が欲しかったのは、CDケースだけだったんでしょう。だから不必要なブックレットを机の上に置き、CDをプレイヤーの中に入れた」
「全然答えになってないよ」
困惑する冬香を無視して、優希は推理を続けた。
「先週土曜日、一春お兄さんはキャンプに出かけたんでしょう。そして、CDケースから線香の匂いがした。この二つの事実を組み合わせると真実が見えてくるんだよ。一春お兄さんはキャンプの必需品である蚊取り線香を、CDケースに入れて持ち出した。これが真実です」
CDケースと蚊取り線香。二つの物が上手く結びつかない冬香は首を傾げた。
「よく分からないな」
「蚊取り線香とCDは同じ大きさで同じ形をしているんだよ。蚊取り線香は缶に入れられて販売されている。でも、缶ごとキャンプの荷物に入れてしまったら、かさばってしまう。だから、お兄さんは必要な分の蚊取り線香をケースに入れて持ち出したんだと思う」
そこまで聞き、冬香は納得の表情を浮かべる。
「そう。じゃあ、一春お兄さんに聞いてみるよ」


翌日の朝、優希は教室で冬香から話を聞いた。昨日の推理通り、一春お兄さんが犯人だったと冬香は嬉しそうに語った。
優希も自身の初推理が当たったことで、優越感に浸り、笑顔になる。そのまま彼女は、ランドセルから推理小説の文庫本を取り出し、そっと開いた。




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