なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~

八木山蒼

第25話 襲撃

 山道を越えて、俺らはセントヘレンズ大聖堂へと辿り着いた。
 といっても正確には着いたのは大聖堂周辺の聖地。そこは聖地に参拝する人々を対象とした宿や飲食店が立ち並び、聖地ながらにぎやかな雑踏が目に付く場所だ。

「おっ、あれが……」

「セントヘレンズ大聖堂」

 ただここからでも大聖堂はちらりと見える。小高い丘の上に建てられた巨大な建造物は高い塀で俗世と区分されているものの、あまりにも大きな聖堂は塀だけではその威光を隠し切れない。その片鱗を拝むだけ、あるいはこの地を踏むだけでもご利益があるとされ、一般人は入れない大聖堂の周囲で観光業は今日も潤っているようだ。

「おお……! あれが女神イスリエラに祝福されし大聖堂……! こうして近くに寄るだけでもその御力を感じるようじゃ」

 神官様は念願の地に感無量のようだ。視線はちらちらと観光地の方に向いているが。

「いやぁー久しぶりだなぁここも。あいっかわらず人は多い癖に酒がすくねーのなんの」

 ようやっと酔いが覚めてきたらしいマグナムは流石に慣れた様子だ。その隣でインフェルノも頷く。

「聖地、という呼び名には違和感があるが……スキルを持つ人間は皆、女神に感謝して生きねばならん。特に俺ら冒険者はな」

「まっ、そのスキルで今すげえ苦労してるんだけどな! ひゃははは」

「す、すみませんなんか俺のせいで……」

「ダジャレか? セイのせいって。謝るんならダジャレのつまらなさを謝りな」

「いやそういうわけじゃ……ご、ごめんなさい?」

「マジに謝んなよ! うける」

 酔いが覚めたら覚めたでめんどくさいマグナム。本当にこの男、もとい女がいればセントヘレンズ大聖堂に入れるのだろうか?

「で、いきなり大聖堂ってのも味気ねえな、せっかく観光地に来たんだからメシ食ってだべるくらいしてこうぜ。こいつもなんとかしねえといけないしな」

 マグナムは背負っている少女をぽんと揺すった。ツインテールの少女はマグナムを襲った山賊の成れの果て、Sランク冒険者の一撃を受けてあっさり沈み、未だに目を覚まさないでいる。山道に放置するのもあれなので連れてきたのだ。道中マグナムは散々その体を弄んだようだが。

「とりあえず山賊だしな、警備隊にでも押し付けてくらぁ」

「待て、お前1人じゃ怪しまれる。俺も同行しよう」

「んじゃあ広場の時計がてっぺんさすまでに、広場前の飯屋で合流しようや。じゃあな」

 山賊少女を連れて、マグナムとインフェルノは群衆の中に去っていった。

「さて、と……時間もあるし適当にここらを歩いてみるか。ね、神官様?」

「え? う、うむ……!」

「はしゃいじゃって。私もクローバーの街からあまり出たことないし、この辺りは新鮮ね」

「俺もそんなもんだ。観光地は流石に変なものが多いな」

 俺らも群衆に混じり、セントヘレンズ周辺を観光することにした。
 その背後に怪しげな視線を受けて――



 本屋でルナルと神官様が夢中になっているのを見計らって、俺はそっと2人から離れ街に出た。
 なんだかんだ1人で歩くのは久々だった。拠点ではフェンかジークンが大抵いっしょだし、冒険に出れば1人でいるのは危険すぎる。思えばこうして1人きりで街を歩くのはかなり久しいことかもしれない。
 本当に1人ならばよかったのだが。

 俺はあえて人の少ない方へと進み、やがて街の外れまでやって来た。そこまで来るともう人影はほとんどない。辺りを見渡し、道を間違えたか、といった具合に振り返る。
 すでに2人、立ちはだかっていた。

「はーいセイちゃん。セイ君の方がいいかしら? 私とは初めましてねえ」

 1人は本人が言う通り初めて会う女性。妙に露出度の高いドレスのような服を着ていて、豊満な乳房やグラマラスな足が煽情的に飛び込んでくる。だが何より目を引くのは女性が肩に軽く担ぐ、その妖艶な姿とは対照的な武骨で大きな鉄槍だった。細かな彫刻が刻まれており、ただの槍ではないとすぐにわかる。

「ひさしいなセイ・ブルーム。おれのことをおぼえているか」

 女性の隣にはこれまた対照的な幼女。妙にフリフリのかわいい服を着て、髪には花飾りまでつけているが、俺を睨む視線は鋭い……といっても年相応のかわいいものだが。手には申し訳程度のナイフを持っていた。
 おぼえているか、と聞かれたので、俺は正直に答えた。

「いや。誰だっけ」

 見覚えがあるようなないような。誰とはさっぱりわからなかった。

「きさまぁ……! よくみろ、おまえの手でこんなすがたにされたのだぞ!?」

「あーっはははっはははは! あーおかし」

「わらうなアルパぁ!」

 怒り出す幼女、大笑いする美女。口ぶりによると俺が【美少女化】した相手のようだが……いまいち思い出せない。なにせ数も多いし。

「あっはは……いやしかし、まさかターゲットが自分で1人になるとはね。おかげでこの子の練習がぜーんぶ無駄になったわ。ねえリックスちゃん?」

「だまれ……それでいいんだ」

「せっかく新しいお洋服までこしらえたのにねー、おーよちよち」

「だまれといっている! とっとと任務を終わらせるぞ」

「あらつれない。まあそうね、あまり長引いて誰かに見つかってもことだし!」

 女性はいきなり担いだ槍を振るった。重厚な槍がまるで小枝のようにヒュンと空を裂き、一瞬にして地面をえぐった。どこかのんきな空気がそれで一変する。俺は思わず寒気を覚えた。

「単刀直入に言うわ、あなたを誘拐する。スキル使われると厄介だからとりあえず気絶させるけど抵抗しないでね。怪我したいなら別だけど?」

 美女の方の目が妖しく光る。明らかにただ者ではない。

「フ、フン……俺のスキルは知っているんだろう? 言っておくがたとえ女でも俺のスキルは……」

「知ってるわよォ、お母さんすらスキルにかけちゃったんだものねえ?」

「な、なんで、それを……」

「それをふまえて警告するわよ、スキルは使わない方がいいわ。家族が大事なら、ね」

 女性の視線が鋭く俺に突き刺さった。けして口先だけの脅しじゃない、本気だ、ということが伝わってくる。

「何者なんだ……お前ら」

「それもすぐにわかるわ、まずは眠ってくれないかしら。簡単よ、ちょおっと地面に寝てくれれば……あとはこの子がやってくれるもの」

 くい、と女性が指をさす。すると街を囲う塀に隠れていたもう1人の仲間が姿を現した。

「久しぶりですねセイさん。僕のことは覚えてますか?」

 幼女と同じくらいフリフリの服を着た、水色の髪の美少女。俺はその姿にはハッとなる、わずかな出来事だが、あの一件は俺にとって強いインパクトがあったから。

「お前……トオイか!?」

「覚えててくださいましたか、嬉しいです。ねー、リックスさん」

「ぐむ……だまってしごとをしろ」

 トオイ。俺の故郷の村で突然俺の前に現れた、いわゆる男の娘だ。女になることを望み、自ら進んで【美少女化】された……俺との関係はそれだけだが、女になりたい男という存在は、俺の中に強いインパクトを残したものだ。

「なんで、お前が」

「ごめんなさいセイさん、僕、この人たちと同じ一派なんです。別方向で任務をしてたんですけど、結局あなたにいきついて……とりあえず、言うことを聞いてくださいませんか? 僕のスキル【夜光】があれば簡単に眠ってもらえますので」

「ウフフッ、一度スキルにかけられたこの子ならあなたに近づいても大丈夫だものねー」

 まさかトオイまでもが敵だとは……いったいいつからこいつらは俺に目をつけていたんだ? 俺は改めて俺を狙うものたちの存在にショックを受けていた。
 ここに来るまでの道中で、彼らが教えてくれなければどうなっていたことか。

「耳を塞げ、セイ!」

 突然、声が響く。俺はすぐに言われた通り耳を塞ぎさらにその場にしゃがみ込んだ。突然の声に他の3人が驚いている間に、俺の後ろにあった茂みから、インフェルノが飛び出してきた。

「受けてみろ、悪魔の響きを!」

 それと同時に空気がぐわんと揺れた。いや空気が揺れたんじゃない、途轍もない『音』が辺りに鳴り響いたのだ。しかしそれはただの大音量ではなく、普通の声はそのまま聞こえ、にも関わらず音のエネルギーだけが空気を伝わって響き渡る。
 Sランク冒険者インフェルノ・シンフォニー、そのスキルによる攻撃。音の大震動だ。

「な、なんでインフェルノが……!?」

「まさか……はめられたか!?」

「う、うぐぅぅぅぅ……」

 インフェルノの音をまともに受けた3人は耳を抑え動けなくなっている。インフェルノの音には指向性があるらしく、音による攻撃だが彼女らだけを責め立てている。
 たまらずに3人が逃走しようと振り返ると、すでにそこにはマグナムが立っていた。

「よお、お三方。だいたいお察しの通りさ。生憎こちとら水と音、尾行を見つけるのは得意なもんでね」

 立ちはだかるSランク冒険者に3人は完全に身動きを封じられてしまった。
 そう、実はインフェルノとマグナムは最初から俺をつけ狙う人間の存在を察知し、あらかじめ俺に自然な形で1人になりここに来るよう伝えていたのだ。見事予感は的中し、逆に敵を追い詰めることに成功した。
 しかし敵もさるもの。ここでみすみすやられはしなかった。

「Sランク……インフェルノ・シンフォニー! でもこのスキル、そう万能ではないでしょう? あなたはそれを剣術で補っていたはず……!」

 槍を持つ女性の目がインフェルノを捉える。瞬間、彼女は耳から手を離した。

「ならこれでどう!? 仇名す愚者を貫け、ブリューゲルの槍よ!」

 女性が槍を投擲した。槍は淡い光を纏い、音波もものともせずインフェルノへと迫る。インフェルノもすかさず剣を抜き対処した……しかし。

「ぐっ……!? こ、これは……」

 剣で止められたはずの槍が空中で止まり、落ちない。むしろ投擲の勢いをさらに増しぐいぐいとインフェルノを押している。

「フ、フフン、その槍は一度決めた相手を絶対に貫くのよ……! これが私たちの力、私たちの加護! さあ、スキルを槍に向けないと命を落とすわよ!」

 女性が語るにつれ槍の力がさらに増す。見た目相応の女子の力しかないインフェルノがやられるのも時間の問題だ。だが音波を解けばすぐに3人が復活し、もし1人でも逃がせば俺の家族が……
 だが俺はその時ハッと思いついた。

「そうだ……これで、どうだ!」

 俺はスキルを発動した。光が辺りを包み込み、俺以外の全員が驚いて『それ』を見る。そして光が晴れた時、映ったものは。

「えーい! 貫けーッ!」

 インフェルノの腹にぐいぐいと頭を押し付ける、小さな女の子の姿だった。
 よし、成功した。俺はほっと安堵する。純粋な無機物にかけるのは初めてだったが……うまくいったようだ。

「ま、まさか、私のブリューゲルの槍を【美少女化】したの!? なんてスキル……うぐっ!?」

 驚き慌てる女性、その隙にマグナムが拳を叩きこんでいた。

「フン、ハッ!」

 次々にマグナムが動き、残る2人も鎮圧する。それと同時にインフェルノの音も解かれ、静寂と共に残ったのは倒れ伏す3人組だった。

「さて、こいつらをふんじばって聞かねえとな、色々と」
「なんだったんでしょうね、この人たち」
「さあな、何かを知っているに違いない。それにあの武器は……」

 インフェルノさんが何かを言いかけたが。

「貫けーッ!」
「ぐお!?」

 直後、背を向けたために槍が変じた幼女のヘッドバッドがインフェルノさんの腰に思い切り決まった。小さな子とはいえ勢いのついた頭突き、さすがに痛そうだ。槍幼女はそれで満足したのかフンと鼻を鳴らして誇らしげだった。

「……この子にも、話を聞いときましょうか」
「おう、そうだな」
「ぐう……よもやこの体で腰を気遣おうとはぁ……」

 色々と気になることはあったが、ひとまず俺たちは3人+αに話を聞くことにしたのだった。

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