なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~

八木山蒼

第20話 ある朝の日

 朝。俺は朝日を受けて目を覚ました。
 俺にしがみ付いて寝てるジークンを引きはがし、半身を起こし伸びをする。今日は俺が一番早かったようで、他の面々はまだぐっすりだった。

 我らが拠点はかなり広いものの部屋数には限りがあるので、眠る時は皆いっしょに寝ている。パーティ内で唯一の純女であるルナルは見た目美少女とはいえ中身が男か獣だらけの俺らといっしょに寝るのはどうかと思ったが、本人は意外と乗り気だった。

 もちろん俺としても中身はどうあれ美少女たちに囲まれて寝るのは悪い気分のわけがない。フェンが俺の上で寝ようとしてきたりジークンがベアハッグじみた抱きつき方をしてくるのは困りものではあるが。

 神官様の布団を少し直してから、俺はひとまずトイレに向かった。ベナスの街は下水道というものが通っているらしく、トイレもかなり簡単で清潔。うちの村とは大違いである。

「ふぅっ……」

 溜まっていたものを出して一息つく。言わずもがな、毎日この瞬間には自分の体というものを意識せざるを得ない。
 下の処理についてはサナと母さんから学んではいるが……女になってだいぶ経ってもやはり違和感は拭えない。下を向けば胸があるし、そのさらに下はないし。女なんだなあ、という感じがする。

 ともあれ用を足してトイレを出ると、通りかかったメイドのベルガさんと鉢合わせた。まだ朝早いというのにすっかり準備を整えて軽く掃除をしていたようだ。ちなみにベルガさんはこの家に留まる時間が一番長いので、最初にいた部屋を個室としてそのまま使ってもらってる。

「おはようございますベルガさん、朝早くからお疲れ様」

「おはようございます! メイドですからね、がんばりませんと。セイさんはいつもより少し早いですね、朝食はもう召し上がりますか?」

「いや、皆が起きてからいっしょに食べます」

「わかりました。では私はお掃除がありますので」

 ベルガさんははりきりながら掃除を続けていた。なんというかもう立派なメイドさんだ。服装に心も引っ張られてるのかもしれない。彼女の場合、それ以外に生きる道がないというのもあるのだろうけれど。

「うわっ!?」

 突然、何かに驚く声が聞こえてきた。マットの声だ、洗面所の方から聞こえた。
 行ってみると、俺がトイレに入ってる間に起きたらしいマットが鏡を前にしていた。

「おはようマット。どうした、素っ頓狂な声あげて」

「あ、ああセイ……いや、起きたからとりあえず顔洗おうとぼーっと来たら、鏡の中にいきなり女の子が映るから……」

「おいおい、もう何日美少女やってると思ってんだよ……」

「わ、わかってるよ、寝ぼけてただけだって」

 俺らが話しているとのそりとルナルが姿を現した。

「なによ、あさっぱらから騒がしい……ふああ……」

 寝ぼけ目をこすりこすりあくびをする。朝に弱いらしい。

「ああルナル、おは……ってお前、その格好!」

「バ、バカ、なんて格好してんですか!?」

「んんー……? ああ……」

 ただでさえ軽装で寝るルナル、寝ている間にずれたのか薄布1枚からその、胸が見えそうになっていた。大慌ての俺とマットだったが、当の本人は涼しい顔である。

「別にいいでしょ、女同士なんだし……それより顔洗わせてよ」

「お前な、俺らが男だって知ってんだろ?」

「元でしょ。とーぶん戻らないんだし気にしないわ。あんたらだって女の裸なんて自分ので見慣れてるくせに」

「そ、それとこれとは違うでしょうが」

 俺らがすったもんだしていると、寝室がにわかに騒がしくなってくる。

「セイー! はらへったぞ! ごはん!」

「うぎゃー! モンチーが僕の尻尾ふんだー!」

「きゃっ!? ご、ごめん」

「ううん、騒々しいのう……ワシも年寄りだった頃は朝早かったんじゃが……」

 残りの面々も続々と起きてきた。こうして、俺らパーティの1日は始まるのだった。


 朝食。ベルガさんは料理はまだ勉強中なので、トーストとスープ、好みに合わせジャムやハムなど簡単なものである。ちなみに俺はハムチーズ派。
 テーブルに皆で向かい、神官様が音頭を取る。

「女神イスリエラの加護に今日も感謝を……ティル・ラ・イスリエラ……」

 略式だが食事前のお祈りをする。フェンらはだいぶ適当にやっていたし、俺の隣の奴も完全に無視してたが。

「では、いただきます」

「いただきまーす!」

 皆であいさつし、食事を始めた。みんなで食べる食事というのはいいものだ。特に同席するのが見渡しても見渡しても美少女なら特に。

「ほら、口開けな」

 俺はジャムを塗ったパンを一口サイズにちぎり、隣に座る少女……『呪い』ことノロに差し出した。

「グッググ……」

 ノロは鋭い歯を見せて唸りながら俺を睨む。ノロはさすがにもう拘束はされていないがまだ暴走気味で目が離せず、また人間としての常識の定着率も悪い。そのため基本俺が面倒を見ていた。

「いいから。あーん」

「……グガ」

 ノロは俺には強く逆らわないので大人しく口を開けた。そこにジャムパンを押し込み、食べさせる。一度口に含めばノロはおとなしくもぐもぐと噛んで呑み込んだ。

「ンガ」

 そして次を要求するように口を開ける。ほとんどペットの餌付けみたいなもので、こうなるとかわいいものである。俺も次のパンを食べさせてやった。

「けっこう慣れてきたわねその子。『呪い』なんて言うからどうなるかと思ったけど」

「ああ、初めは食事って概念自体理解してなかったっぽかったからな、大きな進歩だ」

「隙あらばセイの首絞める癖は治ったのか?」

「まあ命令すればしばらくやめて……こら、言ってるそばから首に手伸ばすなって! スキルの性質上、本気で殺すことはできないからまあ大丈夫だろ」

「つくづく奇妙なものじゃのう、その『呪い』も……お主のスキルも」

「まったくですね」

 ただなんだかんだノロとは共生していけそうでよかった。今ルナルが言葉を教えていて、子供ぐらいの受け答えはすぐにできるようになるだろう。【美少女化】してすぐ会話できたフェンとの違いは気になるところだが……
 とその時。

「ん? ちょっとみんな、静かに」

 ドアのそばにいたルナルが気付き、俺らは少し会話を止める。静かになると、その音が俺の耳にも届いた。
 コン、コン、と、ノックらしき音が聞こえる。だが静かにしないと聞こえないくらい小さなノックだった。

「誰か来たのか?」

「見てきますね」

 ベルガさんが来客を見に行く。俺らも何となく気になって食事の手を止め、事の顛末を待った。
 するとしばらくもしない内に。

「ひっ、きゃあああっ!?」

 ベルガさんの悲鳴が響いた。

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