なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~

八木山蒼

第17話 1300年前の記録-”神魔大戦”

 石像から元に戻った男……元男で現少女の元石像という非常にややこしい存在は、名前をルクスと言った。

「ふむふむ」

 一通りルクスから話を聞いた魔女ベルディアーデは頷き、結論を出す。

「あなたがいた時代の国や地理から察するに……あなたが生きていたのは今から1300年前の時代かしら」

「せ、せんさんびゃくねんまえ!?」

 驚く声は俺らとルクスで重なった。

「つ、つまり私は、1300年間も石にされていたということなのか!?」

「ええ。いやはや依頼までした甲斐があったかしら、1300年前の人間と話せるなんて楽しすぎるかしら~」

「ル、ルクス……さんは、その間の記憶はないのか?」

「う、うむ。朧げに、あるようなないような……はっきりとはわからん」

「石化の呪いの強さが幸いしたのかしら。私でも解けないレベルに呪いが強かった分、精神もほぼ眠った状態で、石としての強度も高く今日まで壊れなかったのかしら。もしもっと呪いが弱かったらあなたは1300年の孤独を味わっていたでしょうし、そこまで経たずに粉々だったでしょうね」

「な、なんと……改めて思えば、身震いするな……」

 ついさっきまで石像だった少女。思えば1300年間の時を経て、俺らの前で彼女が動き喋るのは奇跡に等しい。ベルディアーデの言った通り、1300年の間に心が壊れるか、体が壊れていたかもしれなかったんだ。

「すまぬ、覚醒してすぐは混乱しておった。改めて礼を言わせてくれ、よくぞ私を救ってくれた」

「礼ならそっちのセイに言うかしら、彼女があなたにその体を与えてくれたのかしら」

「そうであったか……セイ殿、感謝いたす」

「まあ俺も仕事で頼まれただけだし……スキルのおかげだな」

「すきる? この、私の体をおなごにした妖術のことか」

「あれ、まさかスキル知らないのか?」

 スキルという単語そのものに首を傾げるようだったルクスを怪訝に思うと、ベルディアーデが笑いながら言った。

「1300年前にはスキルは存在しないのかしら。私も本で読んだだけなんだけどね」

「スキルが存在しない? そんなことがありえるのか」

「スキルは女神イスリエラが与える力。太古の時代にはその慣習はなかったのかしら。そういった歴史的事実も全て、このルクスが知っているってことかしら。うふふ、知的好奇心にビリビリ来るかしら~」

 1300年前は俺が想像もつかないほどの昔らしい。まさかスキルがない時代があるとは思わなかった。そういった1300年前のことをこのルクスからなら色々聞ける、なるほどベルディアーデが恥を忍んで俺に仕事を頼むわけである。

「それにルクス。1300年前っていうと、ひょっとしてあなたが石にされたのは、あの大戦でのことなんじゃないかしら?」

「む……大戦とは?」

「今の時代では神魔大戦と呼ばれている、地上を舞台にした神と魔王の大規模戦争かしら。膨大な魔物が魔界から沸き上がり、人類は殲滅の淵にまで立たされたと言われているかしら」

 神魔大戦、それは俺にも聞き覚えがあった。俺らの村では神殿で簡単な教育を受けるのだが、その授業の中で聞いた気がする。しかしあまりにも昔のことなのでピンと来ていなかったのだが……

「おそらくだが、その通りだろう。あれは恐るべきことだった。ある日突然魔物が地上に溢れかえり、私たちも剣をとり戦ったのだが、魔の軍勢は強く……私も結局あのように石とされてしまった」

「あなたは相当強かったのでしょうね、あの大戦で大半の人間は惨殺されて、人類はほぼ絶滅寸前になったそうかしら。そんな中でわざわざここまで強く石化されたのだから」

「かもな……私も多くの魔物を倒し、人のため戦ったつもりだった。だがそうか、結局人類はそこまで追い詰められたのか……」

「俺も初耳だぞベルディアーデ、絶滅寸前って……」

「ルナルさん、魔術師の中では常識だったりするのか?」

「いえ……私も初めて知ったわ、神魔大戦のことは知っていたけど、人類がそんなに追い詰められてたなんて……魔女さま、どういうことなんですか?」

「残された記録や地中の遺物を調べる限り、あの大戦で人類は9割以上滅ぼされたとみて間違いないかしら。神と魔王、その戦いの舞台となった地上は焦土と化し、まさしく暗黒の時代だったらしいかしら」

 ベルディアーデの話を聞いたルクスは神妙な顔で頷いた。

「無理もない……あの戦いはそれほどに熾烈であった。私は半ばで離脱したが、そうなってもおかしくはないと思える。そんな魔物の侵攻であった」

「女神イスリエラにより人間に力……スキルが与えられるようになったのもその大戦からと聞いているかしら。同時にこの地上に魔物が溢れかえるようになったのも、ね」

 俺はちらりとフェンを見た。彼女もまたそんな魔物の一体なのだろうか。今はちょこんと椅子の上におすわりしているが。

「でも女神さま、人間がそこまで減ったのなら、たった1300年でどうやって今ほどに持ち直したんですか?」

「そうね、不思議なのはそこかしら」

「ん、1300年もあればなんとかなるんじゃないのか?」

「バカ言ってんじゃないの、戦争でそこまで疲弊した世界でスキルも未発達、ろくな医療もない世界でたった5%の人間からどれだけ増えるのよ。1300年なんて生物学的には瞬きよ瞬き」

「ルナルちゃんの言う通りかしら。普通にやったのならば1300年の間でこんなに人類が復興することはありえないかしら。神職の人は、女神の加護だって言うのでしょうけれど……私もあながち間違いじゃあないと思っているかしら」

 ベルディアーデはおもむろに俺に視線を向けて微笑んだ。なぜ今俺を? と俺は首を傾げたが……彼女が語ったのは、きわめて興味深く、そして恐ろしいことだった。

「人が子を産み、その数を増やすために必要なのは女性かしら。50の男に1の女がいても無意味、しかし1の男に50の女ならば、理論上は圧倒的に人口を増やしやすいのかしら。女神イスリエラが滅びかけた人類の為に、それを救う力……スキルを与えたのだとすれば、考えられるのは……『女性を増やすスキル』。男を女に変えたり、魔物や物質を人間の女に変えたり」

 『女性を増やすスキル』……それって、つまり。

「お、俺の【美少女化】が……人類の危機を救うためのスキルだった、ってことなのか?」

「あくまで推測かしら。でもこの推測にはもうひとつの推測がついてくるのかしら」

 ベルディアーデはさも楽しげに語った。

「【美少女化】スキルが人類を救うためのスキルなら、なぜ今与えられたのか。ひょっとしたら、かつての神魔大戦に匹敵するほどの危機が、現代の人間に迫っているのかもしれないかしら……うふふっ」

 ベルディアーデは俺を見つめて笑っていた。俺はまったく笑えなかった。



 その後、ルクスは予定通りベルディアーデの家で面倒を見ることになった。小間使いとして働きながら、ルクスは現代の常識などを教わり、ベルディアーデはルクスに1300年前の色々なことを聞くつもりらしい。

 俺はベルディアーデから報酬として充分な金額と、俺の【美少女化】スキルを謎を追求し、解除に協力することを約束してもらった。魔女に手助けしてもらえるのはありがたいが、自力での解除を目指すルナルは複雑そうだった。

 依頼を終え、俺らは魔女の森を後にする。
 だが俺の胸にはベルディアーデが語った話がしこりのように残っているのだった。

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