なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~

八木山蒼

第7話 スキルが効かない男

 家の中に運び込んでから少しして、魔術師ゴズは目を覚ました。

「そ、その、さっきはすまなかった。わ、私はどうも他人が苦手でな……」

 ハゲ頭の横柄な魔術師は一転、赤髪の美少女となり申し訳なさそうに座っていた。ただしゴズの家はあまりにも物が多く、俺らも適当に座れと言われたものの座る場所が見つからなかったので俺らは結局全員立ったままである。

「特にその、恥ずかしながら女性が苦手なのだ。女性と会い、その臭いを受けると、どうすればいいかわからなくなって、とにかく追い返そうとあんな態度を……よ、4人も女性が、それもこんなかわいい子がいきなり訪ねてきたのでな、テンパってしまって……」
「そういうことだったのか。あんたも難儀な性格してるな」
「今は大丈夫なのか?」
「う、うむ。私の家は私の臭いで満ちているからな、この臭いがあれば落ち着ける」

 ゴズの語った通り家の中は独特の臭いで満ちている、というか異臭が溢れていた。俺らはまだ平気だが大変なのは狼の特徴を残すフェンだ。

「うがー! セイ、ここ臭い! 臭いぞ!」
「鼻をつまめフェン、人間の体ならできるから」
「ああ、臭いが気になるなら……」

 ゴズは物が散乱した部屋にごそごそと手を突っ込み何やら小瓶を取り出した。ゴズはその小瓶の中身を部屋に撒く、すると部屋の異臭がぱったりと収まった。

「あっ、臭いのが消えたぞセイ! ちょっと残ってるけど大丈夫になった!」
「すごいな、一瞬でこんなに消臭できるのか?」
「わ、私は臭いの研究をしていてな、この薬を使えば消臭は簡単だ。た、他人の臭いも消すから、私も落ち着ける……そうそう、それとそっちの君は指を怪我していたな」

 ゴズはまたゴミ溜めのような部屋を漁り小瓶を取り出すと、俺の手を取ってさっきドアに挟んだ指に薬をつけた。するとこれまた一瞬で痛みが引いてしまった。

「ち、鎮痛剤だ、治ったわけではないが痛みはなくなるよ」
「すごい……あんたやっぱりすごい魔術師なんだな」

 使える魔法もスキルによって決まるので、実際の魔術師という職業は研究者の側面も強く持つ。特に薬物調合なんかは魔術師の仕事だ。

「お、女の子に褒められると照れるな……で、でも、本当は男なんだって?」
「ああ、俺らは全員あんたをその姿に変えたのと同じ力で美少女になってるんだ」
「それこそすごい力だ。私をこんな姿に変えてしまうなんて……わ、私、じ、自分から女の子の臭いがするなんて思ってなかったから……」

 ゴズはもじもじとどもりながらだらだら汗を流していた。なるほどハゲの中年を当てはめてみると悪い意味で魔術師らしい。だが今は童顔でグラマーな美少女なので、いじらしいギャップを微笑ましく見れた。

「それでのうゴズとやら、実はワシら元の姿に戻る方法がなくての、高名な魔術師と聞くお主が何かわからぬか聞きに来たんじゃ」
「変えた俺が言うのもあれだけど、あんたも元の姿に戻りたいだろ?」
「い、いや、実のところ私はこの体でいいと思っている……ま、前の体に比べれば、美少女の方がな……女性の方が嗅覚も鋭敏というし……」
「そうか、ならまあよかった」

 俺も美少女の方がいいという意見には賛成だった。

「それはそれとして解呪魔法ディスペルとかって使えないか?」
「わ、私は調香師だからな……スキルも【麝香の誘い】といって、か、香りに関するスキルだ。そういったことは専門外だが……し、知り合いの魔術師を紹介してあげるよ」
「おお! ありがとう、助かる」
「えっと、こっちに手紙が……うわあっ!?」
「お、おい大丈夫……わっ!?」
「セ、セイ!?」
「おいおい」

 手紙を取り出そうとしたゴズだったが、突如山積みの書類が崩れて呑み込まれてしまった。慌てて助けようとした俺も足元の物にけつまずいて転倒してしまった。

「うぐぐ……」
「いたた……はっ!?」

 そして気付いた時。
 倒れた俺とゴズは重なり合い、偶然にも俺はゴズのたわわな双丘に顔を埋めてしまっていた。柔らかな感触が伝わってくる。

「おおお……柔らかい……じゃない! わ、悪いゴズ、わざとじゃ……」
「うーん、じょ、女子と密着……」
「おい!?」

 慌てて体を話した俺だったが、ゴズはゴズで体は美少女の俺に触れられたことでまた失神してしまったのだった。



 すったもんだあったが無事にゴズから知り合いの魔術師への紹介状を受け取ることができた。

「とりあえずよかったな、手がかりがつかめた」
「ああ、居場所も教えてもらったしこの魔術師のところに行くとしようぜ」
「うむ、だがちと疲れた、まずは食事でも……」

 俺らが談笑しながら家を出ると。
 ゴズの家の前に何者かが待ち構えていた。それは背の高い男で、鋭い切れ長の目をして黒髪はピッチリとまとめられている。たくましい体躯で上等そうな服を着て、腰には剣を提げていた。
 そしてその後ろに、3人の美少女がいた。

「あっ、あいつですよあいつ!」
「兄貴と俺らをこんなんにしやがった奴ら!」
「うう、正直こわいぜぇ……」

 ひとケタ年齢の幼女と、ツインテール、三つ編みの3人組。いずれも純朴そうで女の子らしい美少女だがその内面は少し違う。俺らはその顔に覚えがあった。

「お前ら、あの時のごろつき!」

 そう、その美少女3人娘はほんのちょっと前までは、いたいけな子供(これも少し違うが)を狙って服を奪い取ろうとしたごろつきども。仕返しに俺が美少女にしてやったのだ。

「懲りずに復讐しに来たのか?」
「その体じゃ何もできないから助っ人を連れてきたってわけか」
「わ、わわわ」
「うー、ぐるる!」

 神官様が慌てて俺らの後ろに隠れる、少しトラウマがあるのだろう。子供だし。一方でフェンは牙を剥きだして臨戦態勢に入っていた。3人娘はひっと一瞬怯えたが、連れてきた男の後ろに隠れてすぐに笑った。

「へっへへ、お前らなんかこの人にやられちまえ!」
「兄貴が呼んだ助っ人だぜ!」
「勝てねえぞお」

 ごろつき3人はまったく脅威ではないのだが、問題は助っ人の男だった。見るからにただものでない雰囲気の男は邪魔だと言いたげに3人を押しのけると前に出る。

「貴様が例のスキルを持つ女か……いや、男か? どちらでもいい。痛い目を見たくなければ言うことを聞け」

 男へ剣をすらりと抜いた。鋼の刀身が光り、神官様が身を震わす。
 だが、どんな見た目が怖い相手だろうと、俺の敵にはならないはずだ。

「そっちがその気なら遠慮しないぞ! 喰らえッ!」

 俺はスキルを発動した。いつもの光が男を包もうとする、だが。

「そのスキルも俺には効かない」

 男が笑うとスキルの光が消えてしまった。初めてのことに俺らは驚きを隠しきれない。

「教えてやる、俺のスキルは【絶対防御オールディフェンダー】。物理攻撃も、魔法も、スキルも、あらゆるものは俺には通じない。覚悟はできているな? 逆らうならこちらも容赦はしない」

 剣を構え男が歩を詰める。だが。

「それじゃ最大出力」

 俺は再びスキルを発動した。今度は一瞬で辺りが光で塗りつぶされて、余裕だった男もえっと目を見開く。そして光が晴れた時。

「な、なにがおこって……うー、うー!?」

 そこにいたのは、身の丈に見合わない剣を必死に持とうとする、5歳にも満たない幼女だった。剣も服もそのまま変化したのでだぼだぼの服の中もがくように歩こうとしたが、あえなくこてんと転んだ。

「ば、ばかな、おれのおーるでぃふぇんだーが、すきるはふせぐはず……」

 口や喉も幼くなったためだろう、言葉もたどたどしく幼い。小さな子が強がっているようでかわいい。

「俺のスキルはSSS+++だ、簡単に防げないよ。制御しきれないから普段はほんのちょっとだけの力を出してたんだ。ただ全力でやったから、どっかに余波飛んでるかもしれないが……」
「ぐうう……っ!」

 幼女は下着だけをなんとか着て起き上がる。といっても体格的にすっぽりと全身を覆う感じになった。剣を持とうとしたが幼女の体には重すぎたのか諦めたようだ。

「き、きさま! このおれにこのようなしゅうたいをさらさせたこと、こうかいさせてやるぞ! おぼえていろよぉ!」

 捨て台詞を吐き、幼女はとてとて逃げ出した。慣れない体格のためか途中でまた転ぶが、なんとか起き上がり必死の感じで去っていった。

「ま、待ってくれよぉ!」
「あ、兄貴、逃げましょう!」
「くっそぉ~」

 3人娘も幼女の逃走を受けて慌てて逃げていった。残された俺らは何が何やらでぽかんとするばかりだ。

「結局なんだったんだ、あの男」
「ま、復讐のためにごろつきが雇った別のごろつきとかじゃね?」
「ちと心配ではあるがあれではもう悪さはできまいて。ワシらは目的を急ぐとしよう」
「そうですね」

 俺らは深く考えないことにして、改めて紹介された魔術師のもとに向かうのだった。

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