異世界で旅を〜異世界チートは必須でしょ?〜

ちゃまたん

アリルの説明とユキのキャラ崩壊?

 その日、宿はレットさんの家でレットさんの子供たちやミレアと夕食を食べ、新たな魔法を構築して床についた……はずだったが、

「まだ初日の夜だぞ、再登場が早過ぎじゃないか?」

気が付けば割と慣れ親しんだ夢である白い空間に漂っていた。

「今回は一体何の用があるんだろうな」

 前の時はヤドルを招び、祝福ギフトを持たせた上に、祝福については何の説明もなく異世界へ送られた。 今回もまた訳の分からない祝福を渡されるのだろうか。

「いやぁ、前回は時間がなくて祝福について説明する時間がなかったからね。 今回はそれについて説明しようと思っていたんだ。それと、紹介したい子がいるんだ。 あ、私からの祝福の譲渡はないからね」

「うぇぁ!?」

 自分しか居なかったはずの空間に、何の前触れもなく、世界神アリルは現れた。 おかげでまた変な声が出てしまったじゃないか。

「ハハハ、そんなに驚いてくれるとは、次はしっかりとサプライズしないと」

 突如現れたアリルは愉快そうに笑っていた。 うざい。

「ビックリするからいきなり出て来るな! 心臓が止まるかと思っただろうが!」

「お、いいね。 最初からそれくらい崩れた話し方をしてくれればよかったのにね」

「いや、初対面は無理だろ」

 『私は神です』とか自称する奴には例え本当だとしても、出来れば関わり合いになりたくない。

「これは手厳しいね」

「当たり前だ。 で、今回は祝福の説明をしてくれるんじゃないのか?」

 これ以上話してると全然本題に入れそうにないので、無理矢理話を進める。

「そうそう、そうなんだけど、その前にさっきも言ったけど、紹介したい子がいるんだ」

「紹介したい子?」

「ああ、こっちにおいで」

 アリルが声をかけると、何もなかったところに光が差し、人影が現れた。

「私は神です。 知りたい事をなんでも教えてあげましょう」

「俺の事どれくらい好きか教えて?」

「いっぱいちゅk——いたっ! 何をするんですか、アリル様!」

「『何を』ではないよね。 今のは色々な方面で危ない。そもそも君は全知の神ではないだろう。 それにヤドル君もだ。」

「すまん、つい。」

 危ない危ない。 条件反射的でテンプレに乗ってしまっていた。アリルが止めてなかったらこの世界まで奴らが乗り込んで来るところだった。

「それはさておき、このひとは誰だ? ここにいるって事は神様なんだろうけど」

 宿は改めて現れた少女を見る。 肩にかかるほどの亜麻色の髪にルビー色の双眸、歳は宿と同年代、つまり17、18歳に見えるが相手は神様なので見た目通りではないだろう。 そして服装は何故かパンツタイプのスーツを着ていた。

「彼女の名前はメーティス。世間一般では『叡智の神』なんて呼ばれ方もされているよ」

「ふふっ、クールでカッコいいでしょう?」

 『叡智の神』と紹介された彼女は叡智のかけらも感じさせないドヤ顔で薄い胸を張っていた。

「まあ、叡智とは名ばかりで本当は演算能力が特別長けているだけなのだけどね」

「別にいいんですー! いくら知識を蓄えたところでそれを的確に迅速に運用できなきゃ意味ないんですー!」

 どうやら彼女は頭の回転が速いらしい。 でも言動のせいで全体的に幼く見えるのだ。

「どうだい、ヤドルくん。そろそろ誰だかわかったかい?」

「ん? 分かるも何も俺たちは初対面だぞ?」

 唐突にアリルが訳の分からない事を言ってきた。 今言った通り俺とメーティスは完全な初対面で、アディラに送られてきてから会った人といえば、レットさんにその家族、ミレアに……

「まさか……村長?!」
「ハハハ! だってさメーティス」
「違いますよ! 私ですよ、マスター! ユキですよ!」

「は?」

「『は?』じゃないですよ! そりゃ、祝福の時の私とは性格こそ少し違いますけど、この魅力的な声は変わらないでしょう!?」

 何を言ってるんだこの駄神は。

「おい、アリル」
「なんだい、ヤドル君」
「無視!?」

 騒ぐメーティス、もといユキを放って宿は一言。

「早く説明しろ」
「了解した」

 宿のイライラが溜まり始めているのを察してか、先ほどまで爆笑していたアリルは説明を始めた。

「今回メーティスを連れてきたのは祝福について説明するためさ」

「それで?」

「祝福とは元々神の力の一部、神そのものと言っても過言ではないんだよ。 そして、条件さえ揃えば祝福を通じて使用者本人に神からアクセス出来る様になっているんだ。【別人格オペレーター】はその最たるものだね」

別人格オペレーター】の場合はコッチと常に繋がっていて、いつでもアクセス出来るようになっている。 更に言えば質問に答え、最善を考え伝えるのが本来の能力なので神側に拒否権がない。

「なるほど。 じゃあ、俺が貰った祝福にもそれぞれ神様の力があって、偶に神様から声を掛けられるってことか?」

「その通り。 その通りなんだけど、ヤドル君にそれは当てはまらないかな」

「なんでだ?」

「ヤドル君に授けた祝福の中に【神卸し】って言うのがあるんだけどね、文字通りこの祝福は人の身に神を宿す力なんだ。 これは神に問い掛けて許可を得る必要があるんだけど、その力を利用すればいつでも神に連絡できちゃうんだよね。 まぁ、他の神が応答するとは限らないけどね」

「応答するかは別として、神様へのアクセス権そのものって事か」

「まぁ、簡単な解釈をすればそういう事だね。 君のことを認めてくれれば、いずれは君の問い掛けに答えてくれると思うよ。 もしかしたら近いうちに向こうから呼びかけられるかも」

「認めてもらえるように精々頑張るよ」

「ああ、そうするといい。 きっとみんなも答えてくれるさ」

 与えられた力を使って世界中を周るのが宿の役割であり望みだから。 充実した旅を楽しむ為なら努力は惜しまない。

「それじゃあ、ザックリだけど能力とその持ち主だけ説明していこうかな」

「ああ、頼む」

————————————————————————————

【神卸し】
神:世界神アリル

 神の力を人の身に宿す力。 体には途方も無い負荷が掛かるので連続使用はできない。その際に神にアクセスをする力を応用して神と連絡を測ることができる。
 更に詳しくは、精神生命体、概念的生命体と意思疎通を図ることができる能力。

——————————————————————————————

別人格オペレーター
神:叡智の神メーティス(ユキ)

 【森羅万象】から知識を引き出し、宿に素早く情報の提供をする。 魔法の演算や今までに起きた事をベースに推測を立てたりするパートナー的存在。

——————————————————————————————

【森羅万象】
神:知恵の神テウト

 世界が生まれてから今までの全てが記載された本。 常人であれば一目見れば廃人は免れない危険な物を人の身で扱えるまでに落としたもの。

——————————————————————————————

【高望み】
神:オーディン

 レベルアップ時の数値に大幅補正。 その他にも祝福の成長にも関与しているが、詳細は不明。

——————————————————————————————

【限界突破】
神:全能神ゼウス

 レベルの最大値を超えて上がり続ける。 レベルが1つ上がるのにも莫大な経験値が必要だが、その恩恵は凄まじい。

——————————————————————————————

【効率強化】
神:非活性神格

 得られる経験値が倍になる。

——————————————————————————————

【効率上昇】
神:非活性神格

 レベルアップに必要な経験値が半分になる。

——————————————————————————————

隷属テイム
神:不明

 生命体を従える事ができる。高位のものに限りレジストが可能。


——————————————————————————————


 宿に質問も許さないほど淡々と説明された能力は改めて、チートを自覚せざる得なかった。

「アリル、順番に質問に答えてくれ」
「なんだい?」
「まず一つ目、【高望み】の詳細不明ってなんだ?」
「そのままの意味さ。 オーディン本人でさえその効果は把握しきれていないみたいだよ」

 なるほど、分からん。と、力の持ち主さえ効果がわからないうえによく調べもしないで、事があればすぐ死ねる宿に詳細不明の祝福を持たせたらしい。

「じゃあ二つ目、【非活性神格】ってのは何だ? 神様の卵みたいなものと考えていいのか?」

「ああ、簡単に言えばその通りさ。 神に至るかどうかはこの先のヤドル君次第だ。 どんな神が産まれてくるかは私にも分からないよ」

「俺の行動次第で活性化するのか……?活性化したら祝福自体の能力も変わるのか?」

「それは勿論だとも。 安心するといい、まず間違いなく強化されるだろうからね」

 それは楽しみだ。 人に貰った物とはいえ、自分が強くなると分かってワクワクしない男がいるだろうか。

 ひとしきりワクワクした宿は最後の質問をする事にした。

「よし、じゃあ、最後の質問だ……正直な話これが一番聞きたくない質問だな。隷属テイムの不明って一体何だ? 」

 口に溜まった唾液を飲み込みながら聞くと、アリルは、

「さぁ?」

 戯けたように言った。

「いやいや、『さぁ?』じゃないだろ! そんなよく分からないものホイホイ渡すなよ!」

「まぁまぁ、落ち着きたまえよ」

「お前、他人事だと思って……」

 ぶっちゃけアリルに対する敬う気持ちはこれっぽっちも残ってなかった。 因みに今のでゼロだ。

「確証は無いけど恐らくは『旧支配者』の類だろうと思う」

「まさかのクトゥルフ!」

 想像以上にヤバそうなのが来た。

「そもそもクトゥルフ神話は創作上の物のはずだろ?」

 クトゥルフ神話はもともと、過去の作家が架空の存在として土地や神などの話を書いたものだ。その物語に登場する異形として書かれたのが『旧支配者』だ。

「もちろん『旧支配者』なんて存在していなかったさ。 なんと言っても、最も古い神は私だからね」

「じゃあ、なんでクトゥルフみたいな『旧支配者』が出てくるんだ?」

 『旧支配者』なんてものはいないのにアリルは名前を出した。いないのにいる、辻褄が合わない。

「別に大層な話ではないよ。 ただ、ここ最近生まれたのさ。 ただそれだけの事だよ。名前の呼び方に関しては、君達の世界の人間がそう呼んでいたからというだけだね」

 そういう事らしい。 しかしアリルの言い方には引っかかる部分があった。

「その言い方だと俺の世界の人間が創作したから生まれた様に聞こえるな」

「まぁ、概ねその通りではあるけれど、その辺り関しては神のルーツの話だからね。 また別の機会に教えてあげるよ」

 そう言うやいなや、手を合わせて「この話はお終いだ」と言って話を切られてしまった。

「とにかく、【隷属】の祝福に関しては今は特に気にしなくても大丈夫だよ。 何かあったらその時に考えるといい。 どう転んでも悪い方には転がらないさ」

 最高位の神がそう言うなら取り敢えずは大丈夫なのだろう。

「不安は残りまくりだけど、一先ずはいいや。 祝福についてはよく解った。 ありがとう」

 礼を言った俺を見てアリルは満足そうにしながら頷いた。

「それじゃあ、私はそろそろ時間だから行くとしよう。 ヤドル君、メーティスもといユキの事よろしく頼むよ」

 途中から全く存在感がなかったので忘れていたが、実は登場から今までずっと宿の後ろに控えていたのだ。

「……ユキ、いたんだ?」

「ヒドイです! あれだけ存在感のある登場をしたと言うのに! 大事な話をしてたから静かにしてたのに!」

 ご立腹だった。

「はっはっはゴメンゴメン、おかげさまで祝福について大体は理解できたよ」

「バカにしてますね ︎そうなんですね ︎」

 ユキは破裂するんじゃないかと言うほどに頬を膨らませて怒りを体現していた。

「ハハハハ!この様子だと2人の仲も良好みたいだし、今度こそ本当にお暇するよ。 またね、ヤドル君」

「おう、またな」
「ではアリル様、またお会いしましょう」

 そう短く挨拶をして、アリルが消えると程なくすると、一瞬目の前が真っ白になり数瞬後には真っ暗になった。


——————————————————————————————


 目が覚めてまず宿は思った。

「寝た気がしねぇ……」

 何しろ宿の体感ではあの空間に行ってからアリルに会ってユキを紹介されてからずっと、祝福についてアリルから説明を受けていただけである。
 それにしても、この世界について知りたい事が一気に増えた。

「神のルーツか……」

 アリルは含みのある言い方をしていたが、詳細は時が来たら話すと言っていた。 まぁ、その時が来るかは不明だが。

《マスター!おはようございます!》

 ……えーっと、どちら様でしたっけ?

《ひ、酷いですよ! 嘘ですよね ︎ 会ったの今さっきじゃないですか!》

 もちろん忘れた。 なんて事は無いが、キャラのブレ方が急すぎてまだ驚きを隠せないのが正直なところだ。

 いやお前、昨日までと全然キャラ違うし、声も違うし、機会的な喋り方は何だったんだよ。

《あ、あれには訳があるんですよ!》

 と言うと?

《昨日までの私はですね、リンクが切れていたというか、体に馴染んでなかったというか……つまり……》

 つまり?

《ヤ、ヤドルさんの体に上手くはいらなかったんです》

 恥じらいながら気色悪い言い方すんな! 狙ってんのか!?

 茶番はいいとして順を追うと、宿がこの世界に来て情報を求めた時点で【別人格オペレーター】が起動、ユキことメーティスとはまだ完全なリンクが為されておらず、仮の人格の状態だったという事だ。夢の中で精神的に出会ったことでやっとリンクしたらしい。

《その為にわざわざアリル様に連れて来てもらったんですから。いくら適性や性能がズバ抜けているとは言っても最初は躓く事だってあるんです!》

 ユキは神として永年存在してきてはいたが、ユキ本人の精神がスキルとして発現したのは宿が初めてだった。

《私だってもっと早く適性のある人がいればもっと役に立っていたんです……》

 それからしばらくの間、拗ねたユキはブツブツと文句を言いながら宿の声に反応しなくなってしまった。今彼女の顔を見ればさぞ頬を膨らませて不服を主張していることだろう。

 盛大に地雷を踏んだ宿は、後で謝らないといけないなと思いながらも、王都に向けて進む為に支度を始めた。

 こうして絶妙に締まらないまま、宿の異世界生活2日目の朝が明けていった。

「異世界で旅を〜異世界チートは必須でしょ?〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く