異世界で旅を〜異世界チートは必須でしょ?〜

ちゃまたん

勘違いとお泊まり決定?

 俺は今、12歳くらいの女の子と一緒に村へと向かって歩いている。
 そもそも、女の子がトレントに襲われていたのは村から数百メートルほどの場所で、本当は今回の女の子の件がなくても村へはあと数分ほどで本来はたどり着く事が出来ていた。
 言い換えると、村からたった数百メートルの場所に魔物がいるという事だ。

 異世界だとこんな事が普通にあるのか?

《A,いえ、普通ならば定期的に村から近くの街の冒険者ギルドに依頼を出して討伐を行うはずです。 この村の場合は、新人冒険者の多い街の近くなので街から冒険者ギルドへの依頼になりますが。 それに、今回はあのトレント以外に周囲に魔物はポチ以外はいませんでした》

 そうとなると、前回の討伐の漏れってことになるのか?

《A,ここまで広い森ならば無いとは言い切れませんが、村から半径500〜1キロメートルは討伐範囲にするのがこの世界では普通のはずです》

 そう言う事なら討ち漏らしって線は薄そうだな……
 そもそも、どんなふうに魔物を探して討伐をしてるんだ?

《A,村を中心にして、東西南北いずれか二箇所から螺旋状にしらみ潰しに探して、目的範囲を探索したら、ちょうどそこの木に付けてある通り、数十メートル感覚で目印を付けるのがスタンダードな村の哨戒です》

 ユキの言う通りあたりを見ると木に白い布が巻きつけてあった。

 目印?
 なんで目印をつける必要があるんだ?

《A,はぁ… そんな事も分からないようでは、この先が思いやられますね》

 くっ、こいつ、分かりやすくため息なんてつきやがって……

《A,仕方がありません、そんな知恵の乏しいマスターに教えて差し上げましょう》

 やっぱり1日やそこらでこいつに慣れるなんて無理だ……

《A,ゆっくり慣れていけばいいんですよ。 これから先、ずっと一緒なんですから》

 ……もういいよ、早く目印の意味を教えてくれ。

《A,了解しました。 本来、このような場合に目印は距離を測るためにつけるのは分かりますか?》

 馬鹿にしすぎだろ。
 それくらいは分かってるわ!

《A,それ以外にもメリットとしては、次回からの哨戒の時に距離を測らなくて済むことや、魔物に対しての牽制や威嚇になります。 つまり、『ここから先は人間の縄張りだ』と主張出来るということです。 ですが、逆にそれがデメリットとなる場合もあります》

 というと?

《A,弱くてそこそこ知能の高い魔物ですと『ここから先は人間の縄張り』=『危険地帯』ですが、強い魔物の場合は知能に関わらず『ここから先は人間の縄張り』=『狩場』や《餌場》という具合になるわけです》

 なるほどな。

《A,知っての通り、この辺りはゴブリン、オーク、トレントしかいないので危険性はほぼ無いはずなのですが……》

 今回みたいな事が起きた、と。

《A,はい。 オークはこの辺りにはいませんし、ゴブリンならば迷い込んでも不思議ではありませんが、今回はトレントなので少々心配です》

 何がそんなに心配なんだ?

《A,本来、トレントが成長するのにはそれ相応の魔力と時間がが必要となるのです。 本物の樹木よりは圧倒的に早く成長しますが、周辺の魔物の数をを見た限りではそこまで日は経っていないようでしたので、マスターの言った通り、討ち漏らしの線は低いようです》

 と言うことは、どれくらいの期間で成長したかは分からないが、短期間で急激に成長したってことになるのか。

《A,その通りです。 一本だけ急成長するような事は、本来はあまりない事なので心配です》

 この森に何か異変でもあるかもしれないって事か……
 ユキ、念の為この辺り一帯の魔物の動きを見ておいてくれ。
 村に着いてゆっくりする時間があるようなら今回の事について考えよう。
 助けたこの子が、俺が居なくなった後に魔物に殺された、なんて事になったら後味悪すぎるしな。

《A,了解しました。 何かおかしな点や動きがありましたらその時に報告します》

「あ、あの!」

 ちょうどユキとの脳内会議が終わった時に女の子が話しかけてきた。

「どうした?」

「いえ……その、難しい顔をしていたので、私が何かしてしまったんじゃないかと思って……」

 ああ、そう言う事か。
 とりあえず、今この事をこの子に話しても意味はないから、名前でも聞こうかね。
 いつまでもこの子とか女の子じゃあ面倒くさいし、何より失礼だからな。

「いや、君のせいじゃないよ。 ちょっと考え事をしてたんだ。」

「そうですか…よかった」

 俺がそう言うと女の子はホッとしたように息を吐いていた。

「ところでさ、今更になっちゃったんだけど、君の名前って聞いてもいいかな?」

《A,マスター、人の名を尋ねる時はまず自分からですよ。人生の基本です》

 い、いちいち言われなくてもわかってるよ! ちょうど今言うとこだったし!

「俺は依代よりしろ宿やどるって言うんだ、よろしくな」

「は、はい! 私はミレアです!よろしくお願いします、ヨリシロさん!」

 あ、この世界ってもしかして名前が先に来るタイプの自己紹介?

《A,そうです》

「よろしくな、ミレア。 それと、紛らわしくて悪いんだけど、ヤドルの方が名前なんだ」

「えっ、あ、ごめんなさい!」

 なんか、よく謝る子だな。
 ちょっと面白いかも。

「いや、別に謝らなくてもいいぞ? 俺の言い方が悪かったんだから」

「ごめんなさい……」

 おいおい、本当に謝りすぎだろ。
 ……まぁいいか、なるべく自然に話題を変えよう。

「おっ、なんか村っぽいの見えてきたな」

《A,露骨すぎです》

 デスヨネー。

 でも実際村はちょっと前から見えてたけどな。

「あれがミレアの住んでる村なのか?」

「はい!この村が私が住んでる村、アルールの村です!」

 結構近くなって見てみると、目測だが、3〜4メートル近くの壁が打ってあるのが見て取れる。
 入り口には20歳半ばくらいの見張りらしき男性が1人立っていた。
 ミレアが手を振ると男性はこちらに気づいて手を振り返してきた。

「おお、ミレア随分早かったな……ってどうしたんだその服! 体もすり傷だらけじゃないか! それにその男は……」

 男性はミレアの姿に驚きの声をあげた。
 まあ当たり前か。

「レットさん、これは…ええっと、その……」

 ミレアはレットさんをこれ以上心配させたくないのか、口ごもっていると

「……はっ!? まさかお前がミレアに…!」

 あれー?
 なんか盛大に誤解をされてるんだけど?

「いや、俺はただ迷子になってたら、この子が魔物に襲われていたから助けただけなんだけど…」

《A,まあ、この状況なら早とちりしても仕方ないと言えなくもありませんね。 これがもう少し身なりが良くてイケメンならまだしも、マスターですからなおさらです》

 おい!
 一言多いぞ!

「嘘をつけ! この村は3日前に半径1キロの範囲で定期討伐をしたばかりだ! ミレアにだって村が見える範囲で遊ぶ様にいつも言っている!」

 レットさん、結構しっかりしていらっしゃる。
 でも、早とちりがマイナスポイントかなー。
 それにたとえ安全でも万が一を考えて物事は考えなきゃいけないしな。

「そうは言っても俺は実際にトレントに襲われてるミレアを助けたしなぁ…」

「まだ言うか! そもそも、どう見ても新人冒険者の貴様にいきなりトレントなど倒せるわけがないだろ!」

 いや、そもそも冒険者ですらないんだけどねー。
 まあ確かに見た目はボロ装備の新人冒険者みたいなもんだけど。
 何たって、所々破けたジャージに刃こぼれした鉄の剣だからな。

「覚悟しろ!」

 レットさんが腰の剣に手をかけて一触即発の状態になった時、今まで黙っていたミレアが声をあげた。

「やめてください!」

 ミレアは俺とレットさんの間に割って入ってくると、彼に言い放った。

「ヤドルさんの言っている事は本当です! レットさん、私は本当にトレントに襲われている所をヤドルさんに助けてもらったんです! 私の命の恩人を悪く言わないでくださいっ!」

 最初は怒られるのが怖くて本当の事を言えなかったみたいだったが、俺が一方的に疑われている所を見かねて本当の事を話そうと思ったようだ。

 ミレア、優しい子っ!
 でもまあ、俺はさっきから本当の事を話しちゃってたんだけどな。
 信じてくれなかったけど。

 レットさんはミレアが割り込んで来たことに数瞬のあいだポカンとしていたがやがて、自分が勘違いをしていた事にミレアが割り込んで来たことによって気づいたようだ。

「えぇと、ま、まさか本当に……?」

 そう言って、レットさんはミレアを見た。

「ヤドルさんだってさっきからそう言ってたじゃないですかっ!」

 そう言われ、レットさんはかなり気まずそうな顔で今度はこっちを見やる。

 それに対して俺は、真顔でうんうんと頷いてみせると、レットさんは顔を地面に埋めるような勢いで地面に手をつき謝ってきた。
 それはまさに『ジャパニーズDOGEZA☆』だった。
 どこの世でもこの姿勢は誠意を表すみたいだ。


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 いきなり土下座をしたレットに驚いて数秒、あるいは数十秒の間思考停止していた俺に向かってレットさんはひたすら謝っていた。

「本当にっ、本当にすまなかった! ミレアを助けてくれた恩人を犯罪者呼ばわりした挙句に、武器にまで手をかけてしまったとあっては謝るだけでは足りないかも知れないが、俺にも家族がいる、どうか謝罪だけで許してくれ!」

 自分の勘違いだと分かって謝るのはいいんだけど、今度はものすごく低姿勢で反応し辛いんだけど!

《A,マスターお得意の、思ってもいない当たり障りないような事を言っておけばいいではないですか》

 お前なぁ……
 まぁ、確かに両親が死んでからは他人には愛想笑いで当たり障りのない事ばかりを言って、その場をしのいできたから得意と言えなくもないけどさ。
 てか、なんでそんな事知ってるんだよ。

《A,憶測ですが?》

 デスヨネー。
 そうだと思ったよチクショウ。

 いやいや、そんなくだらない事はどうでもいいから、今はこの状況をどうにかしなくちゃな。
 こうしてる間にも、レットさんは頭を下げ続けているわけだし。

「いえ、そんなに謝らなくても大丈夫ですよ。 疑われるまでロクな説明もせずに居たのは俺ですし、そんな俺を怪しく思ったレットさんも悪い事なんてないですよ」

 少し思い込みが激しいけど。

 俺が一方的に疑われたのは確かだけど、説明をしなかった非はこちらにある。

「本当か!?」

「はい。 繰り返しになりますけど、説明をしなかった俺も悪かったですし、レットさんの勘違いしていたことについての謝罪も受け取りましたから」

「ありがとう!」

 この世界の人たちはみんな(まだ2人しか出会っていないが)大袈裟に物を言うのが常なのかな?

「礼と言ってはなんだが、今日は俺の家に泊まっていくといい。 もう日も随分と傾いているしな」

 おっ、これは凄くありがたい申し出だな。
 俺はレットさんの厚意を素直に受けることにした。

「ありがとうございます。 実は俺、お金がないんですよ。 街についていても、この通り無一文で」

 もちろん、理由はこれだ。
 俺はジャージのポケットを裏返してみせた。

「それじゃあお前、ここに来るまで夜はどうしていたんだ?」

 あっ、やば、こういう場合の受け答えまでは流石に想定してなかった。

《A,フッ》

 おい! ユキお前、今のは何の笑いだコノヤロウ!
 でもまあ、別に適当言っても怪しまれる事はもう無いだろうし、適当に答えておこう。

「いや、まぁ色々と頑張って来ました。あははは……」

「……? そうか、大変だっただろう。 今夜はゆっくりして行くといい。 とは言っても子供もいるから騒がしいかもしれないがな! 何はともあれ、まずは村長の家に顔を見せに行かなくてはな!」

 そう言うとレットさんは、笑いながら村の中へ入っていった。
 そして、思い出したかのように入口から顔を出すと、

「そうだ、ミレア、お前は村長の家についたら俺と一緒に村長からお説教だ」

 それを聞くと同時に、笑顔だったミレアの顔が、目に涙を溜めた引きつった笑顔に変わるのだった。

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