言霊使いと天使と悪魔

春田 心陽

第七話 天使と悪魔

    そんな天魔を見た二人は変身を解き、最初のときのような人間らしい姿へと戻る。

「なんか引っ掛かりのある言い方ですが、今はまあよしとしましょう。」

    天魔が百パーセント納得していないとわかった上で、スピアはそれを認める。

「まあ、そうだね。今のところは許しておいてあげるか。」

    カーミルもスピアと同意見であった。

「どうもありがとう。」

    天魔は一応と礼を言う。

『…………。』

    そして、三人の間に静寂が訪れる。

「あの……それで二人はいつになったら出てってくれるの?」

    天魔は沈黙に耐えかねたのか、二人のことを疎く思っているのか、話を切り出す。

「え?何を言ってるんですか?」

    不思議そうな顔をするスピア。

「それはそのまんまこっちの台詞なんだけど。」

    台詞こそほぼ同じだが、天魔の方は呆れ顔といった感じである。

「天魔はまだ気づいてないんだね。」

    そんな天魔を見てやれやれと何か含みのある言葉を言うカーミル。

「え?何この俺が悪いみたいな感じ。」

    天魔はカーミルが何かを言いたそうにしているのを感じとる。

「天魔、私は今はって言ったんだよ?ちゃんと聞いてた?」

「だからなんだって……」

    なんだっていうんだよという言葉を天魔は最後まで言えなかった。

    スピアとカーミルはお互いにニヤリと笑う。

「私たち今日からここに住ませてもらおうと思います。」

    スピアはにこやかにそう言い放った。

「よろしくね、天魔!」

    カーミルもそれに便乗する。

「いやいや、聞いてないんだけど!」

「今言いましたから。」

    スピアは悪びれる様子もなく、天魔へとかわいらしく宣言する。

「納得できるかー!」

    天魔は勿論、納得していない。

「まあまあ、天魔。落ち着いてください。」

    そんな天魔をスピアは宥めようとする。

「熱くなってるのは誰のせいだと思ってるんだよ。」

    天魔は目の前の二人を見据えてそうつっこむ。

「私たちのせいですね。」

「うん、それがわかっているのにそんなににこやかに言えるなんてすごいね。」

    二人はお互いにニコニコと会話を進める。

「誉めても何も出ませんよ?」

    スピアはわざとらしくポジティブに解釈する。

「誉めてないっていうのもわかったうえでそう言ってるでしょ。」

「天魔、観念して私たちをここに居候させてよ。」

    カーミルは早く諦めてくれと言わんばかりに呆れたように言う。

「なんで俺が観念するんだよ!てかなんで居候前提なんだよ!」

「私は勿論、家事をしますよ。」

    ここだけを見るとスピアの発言はヒロインの理想像のように見える。

「なっ!ずるいぞ!それなら私もなんかしらするから!」

    そんなスピアに対抗するようにカーミルも名をあげる。

『だから私たちをおいて(ください)!』

    二人は懇願するように上目遣いで天魔を見上げる。
    さすがの天魔もそんな二人を見ていると、邪険にするのも気が引けてしまう。

「……一週間くらいなら……。」

    天魔は考えた末にそんな言葉を口にする。

「ありがとうございます!」

「ありがとう!」

    二人はその言葉を聞いて天魔へと笑顔でお礼を伝える。

    天魔はそんな二人の顔を見ていたら追い出す気など微塵もなくなってしまっていた。


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