勇者育成学校でトップの自称パンピー【凍結】

決事

第十二話 俺はパンピー代表です

シンと静まり返った時間。
それだけがただ流れてゆく。
意外なことに皇女は間を取り、こちらの隙を窺っている。
とそこで。

「意外だな、もっと姑息な罠を仕掛けてくるのかと思ったぞ」
「皇女さん。それは心外だ。俺はいつだって真正直に生真面目に真正面からぶつかっていく男だ。…罠って例えばどんな?」

彼女は戦闘中だというのに剣に添えていた左手を顎に当てて考え込んだ。
これくらいは許してやろう。
ここで殴りかかるのも大人気ない。
いくら彼女が剣、俺が拳と蹴りのみというハンデがあったとしてもだ。

「私に挑まれるのを最初から見越して落とし穴を作っていた、とか?」

成る程…。
落とし穴、ね。
今作れば、いんじゃね?
口角を上げた俺の顔を見て、慌てたように剣を握り直す皇女さんの脇を通り抜ける。

「み、ミネル・ハンフリー!何処へ行った!くっ!何処に隠れた!」

え、嘘見えないの。
俺があんたの横を通り過ぎて、地面掘ってるのが見えないの?
呆れて皇女さんの方を見やるも、耳に入ってくる言葉を聞く限り、他生徒たちにも見えていないようだ。
う〜ん…。
まだやり足りない気もするが…。
速度を落とし、皇女さんと向かい合う位置に戻った。

「ミネル・ハンフリー!漸く姿を現したな!」

端から姿を消してなどいない。
消したのは…地面の下の土だ、なんてな。

「貴様、一体何をしていたのだ!」
「お望み通り、落とし穴を作ってやったよ」

(え)
((((え))))
普段浮きまくり、避けられまくりの皇女と皆の心境が一致した瞬間だった。
(あの、たった数秒で?)

「…何処を掘ったのだ?」

何を思っているのか俯き、低い声で俺に尋ねる皇女さん。
しかし答えるわけがなかろう。

「さあ闘おうか。授業時間の兼ね合いもあるし、あんたの落とし穴に落ちた時の間抜け面がみたいからな」
「ふっふっふっ……ふははははは!」

こいつ、魔王を倒したいのではなく魔王になりたいのではないかと考えざるを得ない高笑い。
正に悪役然としている。
だから友達できないんだって。

「いつ私が落とし穴のある場所が分からないと言った?」

さあ…。
あんたとの話は後でリセットする予定なんで真面目に聞いてません。

「あ、もしかして」
「そうだ!私には魔法が使えむきゅっ!」
「いつ落とし穴を使うと言った」

彼女の首に蹴りを入れた。
落とし穴を使うまでもない。
観客ーーギャルハゲと生徒たちーーがどよめく。
え、何か変なことした?

「今の見えたか?」
「いや、何にも」
「あいつ、さっきもだけどどんだけ速く動けんだ」
「あんなに強かったのか。てことは今までのは手抜き?」
「だそうだぞ、ミネル・ハンフリー。ててて…」

それほど足に力を入れなかったため、すぐに起き上がった皇女が言った。

「ええっと……。
俺、パンピーだよ?」


「ハンフリーといつも一緒にいるー、コンドルー、説明しろー」

とギャルハゲ。

「…はぁ。パンピーとは、一般人、普通の人、という意味合いらしいです」

と俺の親友マリセ。

「そう。俺は皆よりちょっとだけ速く動けるが、それだけなんだ。魔法はからっきし駄目だしな。だから、俺はパンピー代表ともいえるパンピーだ」

「「「んなわけあるか」」」

エクスクラメーションマークが付いていないことが、逆に俺の心を深くえぐった。
俺は、パンピーなんだよぉ……

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