アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している
第二十二話 コレがチートというやつね……
ゴーレムに矢が突き刺さる。あの矢も伝説の金属オリハルコンだ。
ナツの一撃がゴーレムの体表を削り取る。あの短剣も伝説の金属オリハルコン製だ。
フユの槍も私の槍もハルの剣も全てでんせつの、伝説の金属オリハルコン製だ!
「ふむ、硬いがよくしなり粘りもある。
打つ時は力強く、受ける時は優しい……
素晴らしいな……」
フユが戦いながらうっとりしている。
武器マニアめ。
「はぁはぁ、皆もっと削り取ってー! オリハルコンやでオリハルコン!!
たまらん! たまらんでー!!」
アキは目の色を変えている。
「俺らはすることないな。オリハルコンに魔法は無駄だ」
「強化魔法頑張ってよ!」
「やってるよ~精霊たちも張り切っているさ~」
先程までの悲壮感はどこかへ行って再び穏やかなムードが戦闘中だと言うのに流れる。
オリハルコンのゴーレムは、ゴーレムとは信じられない速さで動き、その力は強大だ。
その一撃を防御の上から受けても、大ダメージを受けるのが普通だ。
でも、私たちはゴーレムを翻弄しながらオリハルコン採取のために削り取るように攻撃を繰り返す。
ゴーレムの核を破壊すれば倒せるのだけど、核を破壊されたゴーレムはその素材ごと灰となってしまうらしく、アキの指示で出来る限り体表を削っての撃破を目指している。
いくらこちらも同等の武器を使っているとは言え、わざわざそんな戦い方をしていれば武器の消耗は激しい。
「マキ! オリハルコンおかわり!」
「マキこっちも新しいのくれ!」
「はいよ!」
ナツとハルに渡した武器をちょいと念じれば腕輪に帰っていき、も一つ念じれば新品ピカピカの武器が現れる。
「うーん、完全にチートだね!」
清々しいチート性能です。
ごーりごーりごーりごーりゴーレムを削っていくよー……
ごーりごーりごーりごーり、私は武器を取り替える……
「アキちゃん、もういい? 可哀想だよ……」
枝のように細くなったゴーレムが健気に攻撃をし続けてくる。
台詞は最初の一言しか無いらしく、あとは勇者の命に従って私達を試し続けている。
泣けてくるね。
戦隊モノのロボットのようだった見た目は、雑な彫刻刀で削られた枝人形になっている。
これでも動くのだから勇者のゴーレム作製技術は凄いの一言だ。
「しゃーないなー、たんまり稼がしてもろうたし、トドメと行きましょか」
「南無」
フユがもともと胸部辺りにあった珠のようなコアを槍で一突きに破壊する。
がくんと糸が切れたように項垂れると、さらさらと灰になって消えていってしまう。
その姿が、一層心を締め付けた。
「……アキの強欲のせいで、物凄く罪深いことをしたような気持ちになるな……」
「何いってんの! こんなん逃したら商売人失格やで!」
「いや、俺らは商売人じゃないし……」
ゴーレムを倒すと同時に閉鎖されていた前後の扉が開く。
背後で分断されていたチームとようやく合流が出来る。
「無事でよかった……突然分断されて途方にくれていたんだ」
「いや、もっと早く終わらすこともできたんだが、事情が事情でな……すまん」
「いやいや、何にせよ良かった。おお、丁度広い場があるな、時間も時間だ今日はここで陣をはろう」
外部の時間を知ることが出来る魔道具を見ながら仲間たちに指示を出して準備に取り掛かってくれる。
確かに少し疲れた。
武器をしまってホッとため息をつく。
「どうしたマキ、疲れたのか?」
「ちょっとね。武器を出す時に正確に武器を妄想するから疲れちゃった」
「妄想って……そうか、どっかで見たことがあると思ったら全部マキがやってたゲームや漫画の武器だったのか……」
「しかし、それを想像できれば呼び出せるって凄いことだぞマキ君。
杖などのたぐいも出来るのだろう?」
「たぶん……?」
「魔法が効く相手なら私やナギ様も戦える。その時は是非にお願いする!」
「ミーの分も頼むよー」
「はいはい、そのときにはお願いしますね」
「マキ、準備ができたぞ。とりあえずは座って休め、少し顔色が悪い」
フユが椅子を勧めてくれて腰掛けた。
一息つけたとふーっと息を吐いたところで記憶が途切れた。
次に目を覚ますとベッドに寝かされていた。
「マキ? 目が覚めた? 大丈夫?」
「う、うん。アキちゃんか……私どうしたの?」
「椅子に腰掛けたら気を失っちゃったのよ。大丈夫?」
「あはは……アキちゃん標準語話してる……」
「ふーーーっ、そないなこと言えるんやったら平気そうやな……
皆心配しとったんやで、とりあえず伝えてくる」
「ごめんね、ありがとー」
軽く身体を起こすと、先程の疲れはすっかりと抜けていた。
どれくらいの時間、気を失ってたんだろう?
しばらくするとドタバタと足音が聞こえてくる。
それからは皆が代わる代わる部屋に訪れて大騒ぎしてアキちゃんに怒られていた。
私も少し休んで楽になったので少し遅めの夕食を頂いた。
「顔色は良くなっていますね。
……何かおかしなところはありませんか?」
「大丈夫だってナギ、ちょっと疲れただけだから」
「マキさん。真面目に答えてください。本当に大丈夫なんですか?」
「……大丈夫。体に異常はないし、魔力も問題ない。
あんなに武器を作ったのは始めてだったから、知恵熱がでたんだと思う。
皆にも心配かけてごめんなさい」
深々と頭を下げる。
「マキさんが謝ることじゃありません!」
「か、堪忍なぁマキちゃん。マキちゃんの負担も考えんと、ウチが無理なお願いしたのがアカンかったんやね……」
「そうだぞ、大体アキが!」
「やめて!! もう今回のことはおしまい。
私は皆が喧嘩することも、そんな悲しそうな顔して私のことを見るのも、見たくない。
次からは私もちゃんと気をつける。
だから、もうこの話はおしまい」
私がそう言うと皆言いたいことを我慢してとりあえずその場は収めてくれた。
卑怯な手なのはわかっているけど。
私の言ったことは間違いなく私の本心だ。
皆が闘う姿なんて、見たくない。
それからシャワーを浴びてゆっくりと寝た。
久しぶりに深い眠りについた気がした。
そして、夢を見た。
日本の夢だった。
私がいなくなった後、まるで何事もなかったかのように日常が過ぎていた。
本当に以前から私なんて人間の存在が、いなかったようだった。
病院の中は相変わらず慌ただしく、忙しい日々が過ぎている。
院長先生が、もう一人獣医がいれば楽になるんだけどなー、とぼやいて。
うちの激務に耐えられる獣医さんいませんからねーと答えている。
居たよ。
居るよ。
私は、ここにいるんだよ!
夢の中で叫んでも声が伝わることはない。
家は、がけ崩れが起きて、そこに何も建って居なかったように扱われている。
がけ崩れ注意の真新しい看板に、作業中の標識。
崩落面はどんどん綺麗にされ、工事され、何もなかったように道路が元通りだ。
その世界に、私の居場所はなかった。
私の存在はもともと必要なかったように抹消されていっていた。
私は、本当にあの世界から来たんだろうか?
この世界からも、あんな風に忘れられるのではないか?
元から私なんて存在は……必要なかったんじゃないか……
「マキ!!」
激しく揺り動かされて目が覚めた。
アキちゃんが私の上に覆いかぶさって身体を揺らしていた。
「アキちゃん……」
「あきちゃんじゃあらへん!! 何アホな事言うてんねん!
マキがおらんかったら皆悲しむ!! 自分がいらんなんて言うなや!!」
私を抱きしめてアキちゃんが泣いている。
その体を抱きしめ返すと、私の中からも涙が溢れ出してきた。
「ご、ごめんアキちゃん……怖くて……怖くてー……」
「うちらもゴメンな、ずっと怖かったよね、こんなところに急に来て、怖かったんやね……」
その後、落ち着くまで二人で抱き合っていた。
アキちゃんの体温が伝わってきて、それが本当に暖かかった。
ナツの一撃がゴーレムの体表を削り取る。あの短剣も伝説の金属オリハルコン製だ。
フユの槍も私の槍もハルの剣も全てでんせつの、伝説の金属オリハルコン製だ!
「ふむ、硬いがよくしなり粘りもある。
打つ時は力強く、受ける時は優しい……
素晴らしいな……」
フユが戦いながらうっとりしている。
武器マニアめ。
「はぁはぁ、皆もっと削り取ってー! オリハルコンやでオリハルコン!!
たまらん! たまらんでー!!」
アキは目の色を変えている。
「俺らはすることないな。オリハルコンに魔法は無駄だ」
「強化魔法頑張ってよ!」
「やってるよ~精霊たちも張り切っているさ~」
先程までの悲壮感はどこかへ行って再び穏やかなムードが戦闘中だと言うのに流れる。
オリハルコンのゴーレムは、ゴーレムとは信じられない速さで動き、その力は強大だ。
その一撃を防御の上から受けても、大ダメージを受けるのが普通だ。
でも、私たちはゴーレムを翻弄しながらオリハルコン採取のために削り取るように攻撃を繰り返す。
ゴーレムの核を破壊すれば倒せるのだけど、核を破壊されたゴーレムはその素材ごと灰となってしまうらしく、アキの指示で出来る限り体表を削っての撃破を目指している。
いくらこちらも同等の武器を使っているとは言え、わざわざそんな戦い方をしていれば武器の消耗は激しい。
「マキ! オリハルコンおかわり!」
「マキこっちも新しいのくれ!」
「はいよ!」
ナツとハルに渡した武器をちょいと念じれば腕輪に帰っていき、も一つ念じれば新品ピカピカの武器が現れる。
「うーん、完全にチートだね!」
清々しいチート性能です。
ごーりごーりごーりごーりゴーレムを削っていくよー……
ごーりごーりごーりごーり、私は武器を取り替える……
「アキちゃん、もういい? 可哀想だよ……」
枝のように細くなったゴーレムが健気に攻撃をし続けてくる。
台詞は最初の一言しか無いらしく、あとは勇者の命に従って私達を試し続けている。
泣けてくるね。
戦隊モノのロボットのようだった見た目は、雑な彫刻刀で削られた枝人形になっている。
これでも動くのだから勇者のゴーレム作製技術は凄いの一言だ。
「しゃーないなー、たんまり稼がしてもろうたし、トドメと行きましょか」
「南無」
フユがもともと胸部辺りにあった珠のようなコアを槍で一突きに破壊する。
がくんと糸が切れたように項垂れると、さらさらと灰になって消えていってしまう。
その姿が、一層心を締め付けた。
「……アキの強欲のせいで、物凄く罪深いことをしたような気持ちになるな……」
「何いってんの! こんなん逃したら商売人失格やで!」
「いや、俺らは商売人じゃないし……」
ゴーレムを倒すと同時に閉鎖されていた前後の扉が開く。
背後で分断されていたチームとようやく合流が出来る。
「無事でよかった……突然分断されて途方にくれていたんだ」
「いや、もっと早く終わらすこともできたんだが、事情が事情でな……すまん」
「いやいや、何にせよ良かった。おお、丁度広い場があるな、時間も時間だ今日はここで陣をはろう」
外部の時間を知ることが出来る魔道具を見ながら仲間たちに指示を出して準備に取り掛かってくれる。
確かに少し疲れた。
武器をしまってホッとため息をつく。
「どうしたマキ、疲れたのか?」
「ちょっとね。武器を出す時に正確に武器を妄想するから疲れちゃった」
「妄想って……そうか、どっかで見たことがあると思ったら全部マキがやってたゲームや漫画の武器だったのか……」
「しかし、それを想像できれば呼び出せるって凄いことだぞマキ君。
杖などのたぐいも出来るのだろう?」
「たぶん……?」
「魔法が効く相手なら私やナギ様も戦える。その時は是非にお願いする!」
「ミーの分も頼むよー」
「はいはい、そのときにはお願いしますね」
「マキ、準備ができたぞ。とりあえずは座って休め、少し顔色が悪い」
フユが椅子を勧めてくれて腰掛けた。
一息つけたとふーっと息を吐いたところで記憶が途切れた。
次に目を覚ますとベッドに寝かされていた。
「マキ? 目が覚めた? 大丈夫?」
「う、うん。アキちゃんか……私どうしたの?」
「椅子に腰掛けたら気を失っちゃったのよ。大丈夫?」
「あはは……アキちゃん標準語話してる……」
「ふーーーっ、そないなこと言えるんやったら平気そうやな……
皆心配しとったんやで、とりあえず伝えてくる」
「ごめんね、ありがとー」
軽く身体を起こすと、先程の疲れはすっかりと抜けていた。
どれくらいの時間、気を失ってたんだろう?
しばらくするとドタバタと足音が聞こえてくる。
それからは皆が代わる代わる部屋に訪れて大騒ぎしてアキちゃんに怒られていた。
私も少し休んで楽になったので少し遅めの夕食を頂いた。
「顔色は良くなっていますね。
……何かおかしなところはありませんか?」
「大丈夫だってナギ、ちょっと疲れただけだから」
「マキさん。真面目に答えてください。本当に大丈夫なんですか?」
「……大丈夫。体に異常はないし、魔力も問題ない。
あんなに武器を作ったのは始めてだったから、知恵熱がでたんだと思う。
皆にも心配かけてごめんなさい」
深々と頭を下げる。
「マキさんが謝ることじゃありません!」
「か、堪忍なぁマキちゃん。マキちゃんの負担も考えんと、ウチが無理なお願いしたのがアカンかったんやね……」
「そうだぞ、大体アキが!」
「やめて!! もう今回のことはおしまい。
私は皆が喧嘩することも、そんな悲しそうな顔して私のことを見るのも、見たくない。
次からは私もちゃんと気をつける。
だから、もうこの話はおしまい」
私がそう言うと皆言いたいことを我慢してとりあえずその場は収めてくれた。
卑怯な手なのはわかっているけど。
私の言ったことは間違いなく私の本心だ。
皆が闘う姿なんて、見たくない。
それからシャワーを浴びてゆっくりと寝た。
久しぶりに深い眠りについた気がした。
そして、夢を見た。
日本の夢だった。
私がいなくなった後、まるで何事もなかったかのように日常が過ぎていた。
本当に以前から私なんて人間の存在が、いなかったようだった。
病院の中は相変わらず慌ただしく、忙しい日々が過ぎている。
院長先生が、もう一人獣医がいれば楽になるんだけどなー、とぼやいて。
うちの激務に耐えられる獣医さんいませんからねーと答えている。
居たよ。
居るよ。
私は、ここにいるんだよ!
夢の中で叫んでも声が伝わることはない。
家は、がけ崩れが起きて、そこに何も建って居なかったように扱われている。
がけ崩れ注意の真新しい看板に、作業中の標識。
崩落面はどんどん綺麗にされ、工事され、何もなかったように道路が元通りだ。
その世界に、私の居場所はなかった。
私の存在はもともと必要なかったように抹消されていっていた。
私は、本当にあの世界から来たんだろうか?
この世界からも、あんな風に忘れられるのではないか?
元から私なんて存在は……必要なかったんじゃないか……
「マキ!!」
激しく揺り動かされて目が覚めた。
アキちゃんが私の上に覆いかぶさって身体を揺らしていた。
「アキちゃん……」
「あきちゃんじゃあらへん!! 何アホな事言うてんねん!
マキがおらんかったら皆悲しむ!! 自分がいらんなんて言うなや!!」
私を抱きしめてアキちゃんが泣いている。
その体を抱きしめ返すと、私の中からも涙が溢れ出してきた。
「ご、ごめんアキちゃん……怖くて……怖くてー……」
「うちらもゴメンな、ずっと怖かったよね、こんなところに急に来て、怖かったんやね……」
その後、落ち着くまで二人で抱き合っていた。
アキちゃんの体温が伝わってきて、それが本当に暖かかった。
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